63話 登録出来ない…!?
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昼食をご馳走になった俺とバルトロはザーフィァを連れて冒険者ギルドを目指す。
ニコラスの説明が分かり易く、この街の構造がそこまで複雑ではなかったお蔭で思ったより早くギルドに着いた。道行く人がザーフィァにビビったのが原因だとは思うが。
「あ゛」
「どうした、イサギ」
「ヤベ…」
目の前で首を傾げるバルトロを連れて人気の少ない路地へと入る。周りに人が居ないことを確認し、話を聞かれない為に防音効果のある結界を張ってから重い口を開いた。
今更思い出した自分が酷く情けない…。
「すまねぇ、とんでもなく大事なことを思い出した」
「何がだ?」
「お前の名前だ」
「名前?」
「冒険者になるとギルドでカードの形をした身分証が発行されるのは知ってるか?」
「あぁ、確かそんな物が…。………あ」
「俺は長いから短く呼んでるだけで、お前の名前をフルネームでカードに表記されたら…」
「……"バルトロメウス・アーノルド・ヴァーギンス"、国の名前が入った人間なんて王族以外に存在しない…」
2人して同時にガックリ項垂れる俺達の何と無様なことか…。ここまで来てまさかこんな障害に出くわすとは思いもしなかった。ヤバい、これはかなりヤバい。
「…もしもの話だが、偽名とかって……」
「無理だ、冒険者ギルドの身分証発行には本人の血を使う。血にはその人間の生まれてから今までの情報全てが詰まっている。それを利用して犯罪歴のある者を見つけ、ギルドに加入することを未然に防いでいる。そもそも経歴の偽証なんて簡単に出来る事ではない」
「チッ…」
冒険者になれば身動きが取れ易いと考えていたが、詰めが甘かった。元騎士団団長のコイツがどれだけ世間に認知されてるかは知らねぇが、顔が割れてる以上無暗に素性を詮索されるような真似は出来ない。ギルドで本名出されたらすぐにコイツが王子だってバレる。
そうなりゃ国外への逃亡の難易度が数段上がる。…不可能ではねぇが、不法入国は流石に気が引けるので合法的に入りたい。
「冒険者になるの以外で通行料を免除される方法ってねぇのか?」
「冒険者以外…商人は無理だから、残るは傭兵か」
「傭兵?」
バルトロ曰く、この世界では傭兵に対して仮初の身分を認めているらしい。と言うのも、傭兵は国が保持する兵士とは違い雇い主を自由に選べるシステムが導入されているからだ。
ホイホイ他人の懐に入り込む職の人間を国が管理しきれる筈がなく、かなり昔までは傭兵に対して身分が認められていなかった。その為高い通行料を払わずにその国に留まることを選び、結果財力のある国に傭兵達が集まってしまい、戦争で大きな戦力差を生み出してしまった。この時のヴァーギンス帝国も国民から徴税した金で傭兵を雇ってあちこちの国にちょっかいをかけていたらしい。
とんでもねぇな、この国。
更に、傭兵になる人間の大体はならず者やギルドの規則を守らなかった元冒険者、軍の規律を乱すような問題児の元兵士だったりする為、犯罪に手を染める人間が後を絶たなかった。そうすると身分が無い為に犯罪者の情報を国や街が共有することが出来なかったのだ。身分が無ければ名前も経歴もあって無いようなものだと言う。それを利用して暴力、恐喝、強盗、果てには何の意味もない殺人を犯す人間も居たとか。
そこで仮初の身分を認める法律を考案し、傭兵達の情報を各国で共有することにした。しかし通行料が免除されるとは言え所詮は仮の身分、何かと不便が多いらしい。
「まず傭兵には戦争でも起きない限り国から依頼が出されることはない。つまり定期的な収入はない。仕事は自分で探すのが基本だな」
「おいおい…、犯罪者一歩手前の人間に自力で仕事探させるってかなり無謀じゃねぇか?」
「そうだな。しかし、冒険者になれないような人間に与えられる仕事はせいぜいそれぐらいだ。冒険者に依頼される護衛とは違い、傭兵の仕事の殆どが殺し合いの場に出されるような危険なものだ」
あ?何か雲行きが怪しくなってきたな…。
「傭兵を雇う人間の大半が私欲に駆られた連中ばかりだ。自分の身と財産が大事な貴族や豪商なんかに需要がある為、傭兵という職を失くすことは出来ない。それに…」
「そんな仕事してる奴でも、国にとってメリットになる部分があるんだろ」
「……あぁ」
傭兵をやっている人間はギリギリ犯罪者になっていない人間で、そんな連中を国は戦争の時にここぞとばかりに真っ先に先陣を切らせて死地へ送り込むらしい。しかも国からの要請に傭兵は断れない。
最早人権なんて無いに等しいだろ。中々手厳しいな、この世界。
「てか、戦争始める気満々のこの国で傭兵なんかになったら即王都行きじゃねぇか」
「そうなるな…」
「ハァー…」
身分証を得られないのはキツいな…。何かの拍子にバルトロの正体を疑われて別人だって証明出来る何かがあれば楽だと思ってたんだが、人生そう上手くいかねぇか。
どうしたものかと目を閉じて思案していると、突然瞼の外が明るくなった。ここは建物の影にある路地だから突然明るくなるなんて現象はあり得ない。何事かと目を開けば、目の前に立っていたバルトロの身体が神々しい光に包まれている。
「どうした!?」
「わ、分からない!どうなってるんだ…!?」
バルトロ自身も何が起きているのか理解しておらず、光る身体を見て呆然としてた。ザーフィァに周囲の警戒をさせていたから第三者の手による攻撃とは思えない。
寧ろ、何か特別なことが起きている気がした。
光は案外早く消えてしまい、俺もバルトロも一体何だったのかと首を傾げる。身体に異常があってはマズいと考え、バルトロの許可を得て"鑑定"をした。
すると…。
「はぁ…?」
「どうした、イサギ!」
「………何だ、これ…」
【 名前:バルトロ・グレーザー
年齢:24
称号:『剣の達人』『正義の剣』
職業:***
体力:216(+84)
魔力:80(+47)
攻撃力:173(+23)
防御力:169(+35)
瞬発力:160(+19)
スキル:剣技 索敵 身体強化 毒耐性 痛覚耐性 精神耐性
特殊スキル:敵意察知】
「"バルトロ・グレーザー"…?王子の時の名前じゃねぇぞ」
「何ッ!?」
「称号は"剣の達人"に"正義の剣"…。職業は未定だな、俺の時と同じだ。そんで、体力が216」
「216!?」
「落ち着け。魔力80、攻撃力173、防御力169、瞬発力160…魔力以外は結構な数値になってんな」
「いや、魔力の上がり方もおかしいんだが…。俺は魔法は不得手の人間なんだ、なのに80なんて数値はおかしいだろう」
確か王都の宿の主人が言ってたな、冒険者でもない一般市民は体力が50前後とか。魔力も同じくらいなのか。だとしたらバルトロは相当魔法が苦手なんだな。
「まぁ上がったモンは良しとして、お前のスキルに何か不穏なのがあるんだが…」
「どれだ?」
「いや、"毒耐性"とか"痛覚耐性"とか…最後の"精神耐性"って何だよ」
「あぁ、それか。痛覚耐性は騎士としての訓練もあるが、幼い頃に側室の子だといびられたのが原因だろうな。毒耐性も子供の頃から命を狙われていた所為だろう。精神耐性も早い段階で得ているから、国王と王妃からの嫌味もあまり辛くなかったな」
「あー…成程?」
思いの外ヘビーな幼少期を送っていたんだな、コイツ…。王子だし当然か。でも耐性付くレベルのいじめっておかしいだろ。
王族怖ぇ…。
「あー、あと特殊スキルの"敵意察知"ってのがあるが、知ってるか?」
「いや…。そもそも俺は特殊スキルなんて持っていなかったからな…」
「じゃあ今付いたっぽいな。何でこうなってんのか…分からねぇことだらけだが、これで冒険者にはなれるな」
「あぁ、そうだな。これでイサギの役に立てる」
「?別に今までも役に立ってるけど」
「そ、そうか?なら、良いんだが…」
照れ笑いをして頬を掻くバルトロに首を傾げる。役立たずだと思ったことは今まで無かったが、コイツはそうは思っていなかったのかもしれない。
俺の何気ない発言で気を遣わせていたのか?
「んじゃ、早速ギルドに行って登録するか。アリヴィンも登録が必要だし」
「あぁ」
何とも不思議が出来事が起き、それに助けられてしまった。
これがもし、誰かの意図的なことなのだとしたら…そいつは何者で、何が目的なのか。
「……様子見だな」




