62話 朝焼け亭
「「娘が大変お世話になりました!!」」
「あー…」
「ハハ…」
ローサ達の案内で着いたのは大衆食堂"朝焼け亭"。俺の知るファミレスに近い広さを持つこの店はパイザでは有名な飲食店で、地元で長年愛されてきた老舗だとか。確かに天井から吊るされたランタンは年季が入っていて趣があり、壁に掛けられた絵なんか雰囲気があって俺としてはかなり好みの店だ。
店は今準備時間で客は誰も居らず、奥から出てきた年配夫婦がローサ達の両親だった。父親は皺が出来てるが背筋は真っ直ぐで温厚な顔をしており、母親は勝気な目が印象的な若々しい美女だった。父1人娘3人と言われてたら何の疑いもなく信じていただろう。
とまぁ、現実逃避は程々に…いい加減頭を上げてもらおうか。
「頭下げられても困るだけだから…そろそろ普通にしてくれねぇか?」
「それもそうね。ほらアンタ、シャキッとしな!」
「ぅぐ!い、痛いよディアナ」
背中を叩かれた父親がニコラス、母親がディアナで、何とこの見た目でディアナの方が4つ年上だと言う。詐欺と言われたこともあると笑って話すディアナに俺もバルトロも開いた口が塞がらない。
店の中にあるテーブル席に案内され、ローサ達が摘んできたメツリルのハーブティーを頂く。爽快感のある味で、夏にアイスで飲むのが定番だそうだ。
木の実を使ったクッキーもどきをアリヴィンに与えながら、俺とバルトロで当時の詳しい状況を説明した。ニコラスは顔を青くし、ディアナはローサとメラニーを抱き締めて2人の無事を褒めた。
「まさかそんな街の近くにオークが出没するなんて…この街で生まれ育ちましたが、こんな事は初めてです」
「憲兵のおっさん達も言っていたが、その群生地に魔獣が出たことは今まで無かったんだってな」
「そうだよ。私もお姉ちゃんも見たことなかったもの」
「それに、あの森には頻繁に冒険者の方達が討伐や薬草の採取で出入りしています。何かあればすぐにギルドに報告されて、街の人に通達する筈です」
となると、そのパーティ連中以外の冒険者もあの森に居た可能性は十分ある。犯人を特定するのは難しいし、ひょっとしたら"琥珀の男"以外の冒険者が連中のやり方に感化されて企てた…なんてシナリオもありえる。チッ、証拠が揃わねぇことには言及出来そうにねぇな。
襲われた時のことを思い出したのか2人共顔色を悪くして黙り込んでしまうが、そこは肝っ玉母さんのディアナが空気を一変させた。
「ま、あれこれ考えたって仕方ないさ。それよりアンタ達、昼はもう食べたの?」
「いや、まだだが」
「だったらココで食べていきな!ついでに今日はウチの上の宿に泊まると良い。旦那の弟が経営している宿だから、話はつけておくよ」
「いえ、そこまでして頂く訳には…」
バルトロが断ろうと立ち上がればメラニーがすかさず反論する。メラニーの気の強さと切り替えの早さは母親譲りと見た。
「いいじゃない、泊まる場所決まってないんでしょ?そっちのお兄さんの従魔も、店の裏に馬小屋があるから心配いらないわ」
「……そういうことなら」
「やったぁ!」
万歳して喜ぶメラニーに勢いよく抱き着かれ、アリヴィンが潰されかけたので引き剥がす。気持ちは嬉しいがアリヴィンに怯えられて後で泣きを見るのはメラニーだ。
ローサもメラニーを引っ張って行き、女3人で昼食の準備へと奥に入る。残された俺、バルトロ、ニコラスで出されたハーブティーと菓子を平らげる。その時、テーブルに真新しい傷があることに気付いた。
「………」
「…あぁ、すみません。昨日の夜、お客さんが酒に酔ってしまって…。その時に付いた傷でしょうね」
眉を下げて笑うニコラスの反応で誰がやったのか分かった。だが俺もバルトロも知らない振りをしてその場をやり過ごす。変に意識させてボロが出たら被害を受けるのはニコラス達だ。相手は中級冒険者とは言え悪事に頭を働かせるのに慣れた連中、何をしでかすか分からないから後手に回るしかない。
歯痒い思いをさせてしまう分、徹底的に潰してやる。
その後、話を掘り下げずに別の話題を振ってニコラスと他愛ない会話を始める。パイザでは羊毛製品が有名な為、服飾系の店が多いと聞いた。それならバルトロの服を買う予定は早くに済みそうだ。
「羊毛は冬は暖かく夏は涼しいのが良いな」
「はい、よくご存知ですね。やはり旅をしていると見識も深まるのでしょうか?」
「まぁ、それなりにだな。…あぁ、そうだ。冒険者ギルドはどこにあるか聞いてもいいか?」
「冒険者ギルドですか?それならこの先の広場にありますよ」
「分かった」
午後はバルトロの冒険者登録、討伐依頼と採取依頼の達成報告、魔獣の買い取り、最後に出来ればバルトロの得物探し…結構やる事多いな。
昼食に出されたのは食用の羊肉を使った串焼きで、メラニーは自分が焼いたと胸を張って言う。その子供っぽい姿に俺を含め全員で笑い、何でか俺だけ怒られた。
若い奴の思考は読めねぇな。




