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男装ホストの異世界旅行記  作者: エルモ
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58話 感謝の宴

 何やらバルトロと一悶着あったが無事(?)収束したので適当に部屋でダラダラしていると村長に呼ばれた。夕食は近くにある村で唯一の飲食店である大衆食堂の方で村人達が奢ってくれるのだとか。

 いや、金に困ってはいないんだが…。そう伝えても「まぁまぁ」みたいな感じで連行されてど真ん中のテーブルにバルトロと並んで座らされる。一緒に来たザーフィァに最初ビビっていたが、危害を加えない旨を伝えれば途端に友好的になる。年季が違うのか、老人達は中々肝が据わっている。


 ザーフィァとアリヴィンにも簡単な料理を出してもらい、俺とバルトロは酒が注いであるジョッキを渡された。何だかこれ、凄いデジャヴなんだが…。



「皆、聞いてくれ。こちらのお二方はマルヤーナの所のサーシャの危機を助けてくださった心優しいお方だ。今日はこの方達への感謝を込めて、そして無事産まれたサーシャの息子の誕生を祝して!」



 産まれてたのかよ!!初耳なんだが!?…て、よくよく見ればさっきの妊婦居るし!寝てろよ!?



「乾杯!」

「「「かんぱーい!!」」」

「「…………」」



 あまりに急展開すぎる現状について行けなかった俺とバルトロは掲げたジョッキをゆっくり下ろして視線だけ交わす。お互い同じことを考えているのは言うまでもない。



「……逞しい…」

「あぁ…。だが、無事に産まれたのは良かったと思う。イサギもそう思うだろう?」

「…まぁ、母子健康ならそれに越したことはねぇんだろうけど……寝てろよって言いてぇ。…言わねぇが」

「水差すようなことは出来ないな、この盛り上がりでは…」



 バルトロが苦笑するのを見て俺も溜息を吐いてからジョッキを呷る。温いエールを飲み干してから出された料理を口に運ぶ。郷土料理と言うのか、何だか自然の恵みを感じる味だ。素朴だが深みがあるのが俺の舌には馴染んだ。イメージとしては筑前煮に近い気がする。アリヴィンは何でもパクパク食べるし、ザーフィァも匂いを嗅いでから口に入れる。今の所味に問題は無いようだ。



「どうですかな、我が村きっての料理人の腕前は」

「美味いです。普段とは違った味も新鮮で良いものですね」

「ん…。お、これ美味い」



 何となく手を伸ばした包み焼きを食べるとこれがまた美味い。俺の知るパイ生地より固いが、魚の旨味を閉じ込める役割は十分発揮している。何より魚が美味い。何だこの魚。



「おぉ、それはこの村の近くにある川で釣れる魚でしてな。この季節になると下流から上ってくるのでそれを獲った物です。お口に合って何より。どうぞ心置きなく堪能してくだされ」

「ありがとうございます」



 村長がテーブルを離れたのを見計らってか他の村人達が次々とテーブルに集まっては感謝の言葉を述べていく。だから聖徳太子じゃねぇんだって…。



「村の娘が世話になったなぁ」

「あのままじゃ流れるところだったらしいぞ」

「マルヤーナの待望の初孫を救ってくれたこと、本当に感謝する!」

「ありがたや、ありがたや…」

「本当にありがとうございます!」

「新しい命が無事に産まれたのも貴方達のお蔭です」

「何とお礼を言えば良いか…ッ」



 囲まれた状態で四方八方から飛んでくる感謝の言葉という名の弾丸に撃たれまくる俺とバルトロ。何度も握手を交わされて最早誰と交わしたか分からないレベル。

 騒ぎも落ち着きを見せた頃にあの妊婦だった女性が(くる)みに身を包んだ赤ん坊を抱いてやって来た。緊急時だったので顔をはっきり見ていなかったが、何とも母性に溢れる温かそうな女性だ。



「危ないところを助けて頂き、本当にありがとうございます。お蔭で大事な息子を安産で産むことが出来ました」

「あぁ、それはいいんだが…大丈夫か?安静にしてた方がいいんじゃねぇか?」

「お礼も言わずに休むのも何だか申し訳なく思いましたので…」



 自分第一に考えても遅くはねぇって、新ママさん。産まれてすぐの子供連れ回すのは流石に可哀想だから寝かせてやってくれ。

 遠回しにゆるーくそう言えば女性は涙ぐんで微笑み、そのままマルヤーナに連れられて店を出た。医者の言うことは守ろうか。


 それからも酔っぱらいの絡みに対応していると、今度はパイザの街から来た医者が顔を出した。丸眼鏡に茶髪の人の良さそうな40代後半の男で、酒の席でほろ酔いではあるが礼儀正しく所作に育ちの良さが滲み出る。男はボリスと名乗った。



「村の人から聞いたのですが、回復魔法を習得しておられるのですか?」

「まぁな」

「その若さで習得しているとなると、余程厳しい鍛錬を積まれたのでしょうな…。魔術師にしては軽装ですが、従魔を連れておられるので合点がいきました。デュラン・ユニコーンなんて従わせられる魔術師が居たとは…世界は広いですなぁ」



 ボリスはそう言って楽しそうに酒を飲み続ける。と言ってもジョッキに入った酒をちびちび飲んでいるだけだが…後ろで豪快にジョッキを呷る爺さんが視界に入ると余計に上品に見える。

 それからボリスと次の目的地であるパイザの街について聞いた。



「パイザの街のソルディーニ子爵は村人に好かれる人間なのか」

「えぇ。ソルディーニ様は気さくで、特に子供が大好きな心優しい方でして、パイザの街の子供達は皆あの方を第二の父と思って慕っていますよ」

「へぇ…」



 思っていたんだが、俺が出会う人間に悪人が少ないのは気の所為か?盗賊とか駄王を除くと結構少ない気がする。

 俺と同じ髪色と目の色の人間は見ないし、俺から見ればこの世界は外国人だらけで顔の造りがまず違う。だから俺は何かしら絡まれたりすると思っていたが……思えばそこまで酷いのは今まで無い。差別的な言葉も聞いていないな。その辺を後でバルトロに聞いてみるか。


 ジョッキに口をつけていると嬉しそうに子爵の話をしていたボリスが急に険しい…と言うより悔しそうな顔をして俯く。バルトロも様子の異変に気付いたのか困惑する。

 ボリスは俺とバルトロの顔を見ると咄嗟に表情を繕うが、それも不発に終わる。どう見ても無理して笑ってるって顔でお道化て話した。



「失礼、少し思い出しただけですので…どうぞお気になさらず」

「…残念だがそれは出来ない。話すだけでも気持ちは軽くなると聞く。何も知らない俺達に、どうか訳を聞かせてくれないか?」



 真剣な表情で迫るバルトロに最初は困り果てていたが、ボリスも胸の内に留めておくのが辛いのかポツポツと雨粒の如く語り始めた。

 それは、酸雨に似た質の悪い雨だった。

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