54話 薬草採りまくれ
長らく更新停滞して申し訳ありませんでした。
不定期ですがまた更新再開させて頂きます。
ザーフィァの爆走を耐え抜いた俺とバルトロは草原に着いて崩れ落ちた。流石に山を越えるとは思っていなかった…、予想外だった……。
揺れで目が覚めたアリヴィンは最初泣いていたが、ある程度揺れると慣れたのか途中から泣かずに楽しんでいた。子供の順応力舐めたら駄目だ。
「バルトロ…生きてるか……?」
「なんッ、とか…」
息も絶え絶えになりながら何とか返答したバルトロは地面に寝転がって空を仰ぎ、肺に一杯空気を入れる。見てるだけで清々しくなる青空を見上げれば、深呼吸したくなる気持ちも分かる。
先に息が整った俺はアリヴィンを上着で包んでザーフィァの傍に寝かせる。育ち盛りだからかよく寝る…。俺も一緒になって寝たいが、さっさと依頼済ませるしかない。
「ザーフィァ、ここに結界張ってくれ」
『あぁ、分かった』
「結界?一体何を?」
「依頼で薬草採るよう言われてるからな。アリヴィン連れ回すのも悪いし、すぐに終わるだろうから待っててもらう」
「薬草採取だな、手伝おう」
「別に休んでていいぞ、病み上がりなんだし」
元々俺1人でやろうと思っていたからバルトロの申し出をやんわり断る。昨日の夜あんな怪我していた人間を働かせる程困ってる訳じゃない。俺自身、人生初の薬草採取なんて貴重な体験が出来るから嫌々やってるんじゃないから気遣いは不要だ。
それを簡単に伝えるとバルトロの目に心底残念って書いてある…。俺は厚意で言ってやってんのに何でか俺が悪いみたいな状況になってる…。畜生、垂れた犬耳の幻覚まで見えてきたッ。
「…迷惑、だったか……」
「……分かった、手伝え。だけど無理したら強制的に寝かせるからな」
「!あぁ!」
俺ってこんなに折れやすい人間だったか…?結構ショックなんだが…。
結果、ザーフィァにアリヴィンを任せて俺とバルトロで薬草採取に出る。この草原に名前はなく、ただ群生している薬草があるだけの広い場所だった。鑑定して名前が出ない場合もあるんだと学習した。
この草原には依頼にあったドゥフト草とマンス草が生えているのでそれを採取する。バルトロに聞いたら初心者でも簡単に採れる薬草として有名らしい。Gランクの依頼ならそんなモンか。
バルトロが見本としてそれぞれ1本ずつ見せてくれた。
ドゥフト草は青の小さな花が一塊になって咲いている草で、マンス草は葉の渕が白い背の低い草。どちらも特徴的で他の雑草と間違える要素がない。これなら簡単に依頼を済ませられる。
少し離れた場所でそれぞれ採取していると、バルトロが何か思い出した。
「そう言えば、ずっと気になっていたんだが…」
「何だ」
「イサギ殿は何故魔法が使えるんだ?あの時の鑑定では確かに勇者の適正は無かった筈…」
そう言えばそうだった。俺はあの餓鬼共と違って普通の人間だったのに、いつの間にか魔法やスキルが付いていたし、ガーティもケット・シーになっていた。これは俺も勿論バルトロも頭の上が疑問符だらけになった。
あの4人と俺の違いはせいぜい年齢ぐらいで同じ国、同じ世界出身なのに差があった。だがトロールを魔法もスキルも無しで倒せた俺は明らかにあの4人を上回る実力だとバルトロは力説した。考えれば考える程おかしい。
が、俺もバルトロもこの世界における魔法に造詣が深い訳ではないから答えなんて導き出せる筈がない。この問題はシスネロスに行ってから調べるのが良さそうだ。
「しかし、今思えばあの時イサギ殿の実力が判明しなくて良かった。もし国王に実力を知られていたら、貴女を自由の身にすることは出来なかっただろう」
「分かった所で俺は出て行ってたと思うけど」
「フッ、確かに…。トロールを蹴りで倒せるんだ、城の人間で敵う者は居ないな」
「お前は強いだろ」
「イサギ殿程ではない」
「剣抜かれたら分からねぇよ」
淡々と薬草を探して摘み取る作業を繰り返している内にバルトロと気軽に会話出来るようになった。格闘系の話になると流暢になるのは騎士団を率いていた人間だからか。
それからも俺とバルトロで周辺の薬草を摘みまくり、依頼の目標数である各種5束を余裕で越えた。因みに10本で1つの束とする。
俺とバルトロのを合わせてドゥフト草11束、マンス草8束で合計19束獲得した。
「思った以上に採れたな」
「目標の数以上あればそれも追加で報酬が出る筈だから損にはならない」
「あぁ、確かそんなこと言ってたな…」
「こういった依頼は大体そんなものだ。魔獣の討伐も同じで報酬の上乗せは珍しくない。ただ、失敗や一定の基準を満たさない獲物はギルドが買い取り金額を下げたり、酷い物は拒否することもあるらしい」
「へー…そうなのか」
グレートスプリングラビットなんかを買い取ってもらった時はそんな話聞かなかったな。討伐対象に無暗に傷を付けるのは控えないといけないのか。うわ、思ったよりも面倒臭そうだぞ…。
「山超えたならゴブリンかウォーグ居ねぇかな…」
「依頼なのか?」
「あぁ。俺達が会ったあの森…グバの森って言うんだが、そこに前までゴブリンの集落があったんだがトロールに壊滅されたらしい」
「ゴブリンの集落だと!?本当なのか?と、言うか…壊滅!?」
「俺が倒したトロールかは分からねぇが、鑑定したから壊滅したのは間違いない」
「そうか…。ゴブリンの集落は、見つけたら燃やすか土魔法で埋めなければいけないのだが…」
「は?何で?」
バルトロの話だと、あいつらゴブリンは人間程ではないが知性がある。ゴブリンの集落は1つの村に匹敵する規模の巣で、ゴブリンがそこを去ればまた別の知性を持つ魔獣が住み着く可能性があるらしい。それがオークやオーガ、トロールとなると並の冒険者では太刀打ち出来ない案件になるのだとか。
それは、マズいよな…。
「それにゴブリンやオークは繁殖に別の種族の雌が必要だから、近隣の村の女性なんかが被害に」
「よーし燃すか」
「唐突にやる気だな…」
こんな言動と恰好の俺だが、生物学上女なのでそういった話は鳥肌立つし反吐が出る。女を下に見る奴は種族なんぞ関係なく消す。俺を下に見ようモンなら極刑だ。
「ザーフィァ、ゴブリンの集落に行けるか?」
『ゴブリンの集落?それなら氷漬けにしておいたぞ。ああいう巣は妙なのが住み着くからな』
「まさかの氷漬けかよ」
「氷漬け?」
「ザーフィァがゴブリンの集落氷漬けにしたんだと。それで他の魔獣は寄ってこねぇのか?」
「お、恐らく……」
『時間が立てば氷と共に消えて無くなるぞ』
ザーフィァの徹底ぶりに感心した午前だった。




