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男装ホストの異世界旅行記  作者: エルモ
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53話 一方その頃

「本当に大丈夫だろうか…」



 朝食を終えてバルトロに服を貸し、ガーティが抜けた状態の俺達一行が鬱蒼とした森をズンズン進んでから1時間が経過した。

 その間にこの台詞を俺は30回聞いてから数えるのを止めた。段々馬鹿らしくなってきたからだ。

 恐らく王都の方角なのか斜め後ろを見て心配そうに呟くバルトロに俺は堪忍袋の緒が切れた。



「ガーティに任せれば問題無しだって、何回言わせれば気が済むんだお前は?いい加減俺の拳が飛ぶぞ」



 この一連のやり取りに腹立ってきた俺は握り拳を見せて脅す。これでも結構譲歩してるからな。全くの赤の他人相手だったら何も言わずに殴ってるから。

 俺がトロールを素手で倒したと聞いているバルトロはすぐに頭を下げる。



「拳は遠慮したい…。だが、これは国の存亡を掛けた事態なんだ。もし失敗でもしたら……」

「阿呆か。作戦なんざ失敗してなんぼだろうが。だからガーティには後5つ作戦を言ってあるんだよ」

「5つ!?あの短時間でか?」



 そう、俺の魔法でバルトロの鞘にリーンハルトへのメッセージを記した後、ガーティに大まかな作戦の内容を言い渡しておいた。どれも似たり寄ったりだが、所々工夫している部分が違うので流れが違う。

 最終目的、"豚王の失脚"は変わらないが。



「咄嗟の思い付きだが、我ながら良い線いってると思うぜ?作戦の殆どが魔法な上、ガーティと俺の魔法はこの世界の魔法とは本質が違うからな。何かあれば俺に"念話"するよう言ってある」

「…そうか」



 バルトロがそんなお気楽な人間に見えないから不安に思うのも分かるが、心配される方としてはあまりいい気分ではない。

 確かに魔法を使い始めてそんなに時間は経っていないが、大体コツは掴めている。だから俺より先に魔法を使いこなせているガーティに今回は任せたんだ。

 ガーティもあの国王に一発かましたかったらしく、作戦を聞いて俄然やる気を出してくれた。俺の愛猫なだけあって性格も似ている。


 今更だが、現在ザーフィァは斥候として先に行き、アリヴィンは朝食(野菜抜きスープ)を飲ませて寝かせた。今は俺の上着のフードにタオルで(くる)んで入れてある。あったけー。



「そもそもお前の兄貴は頭良いんだろう?だったら兄貴に任せれば良いんだよ。お前が出しゃばって纏めて処刑されるなんて洒落にならねぇから」

「確かに……」



 そこまで言われてようやっと落ち着きを見せたバルトロは俺に謝罪し、周囲を"索敵"とかいうスキルで警戒してくれた。何でも目に見えない距離の人間や魔獣を見つけることが出来る便利なスキルらしい。地球で言うレーダー的なモンか、分かり易い。

 騎士団の任務で魔獣討伐に結構な頻度で行くらしく、"索敵"はその時に会得したスキルなんだとか。

 俺もいつか会得しよう。



「……凄い勢いでこちらに接近する巨大な魔力を感知したが」

「ザーフィァだな、絶対。大方獲物が居なかったんだろう」



 そもそもこの森は今魔物不足なんだから、狩りが出来る訳がない。トロールとアビスサーペントに食い尽くされた森に何が居ると言うのか。

 案の定手ぶらで帰ってきたザーフィァは無言で俺に甘えてきたので慰めた。これでも森の中を駆け回って探してきたらしい。律儀か。



『イサギに土産を渡したかった…』

「また今度な。この辺は薬草も生えてなさそうだし、とっとと進もう。ザーフィァ、乗せてくれ」

『薬草か、それならさっき見かけたぞ。そこまで乗せて行こう』

「お、助かる。バルトロ…は、俺の後ろでいいか?かなりの速さだが」



 ザーフィァのジェットコースターをも超えたスピードを思い出した俺はバルトロに一応確認を取る。仮にも王子だ、生半可な丈夫さじゃ耐えられねぇだろう。



「あぁ、問題無い。だが、いいのか?良ければ俺が手綱を持つが…」

『ふざけるな。イサギ以外の人間に従う理由は無いぞ』

「落ち着けザーフィァ…。悪いがバルトロ、ザーフィァは俺の従魔だ。俺以外の命令には従わねぇってよ」

「いや…俺の失言だった。気を悪くしたなら謝罪したい」

『今後気を付ければ問題無い。これが他の人間なら問答無用で串刺しにしてやったがな』



 やめろ、アリヴィンの精神衛生上良くないから。



「イサギ殿、彼は何と…?」

「今後は気を付けろだと。後半は知らぬが仏だ」

「?」



 日本の(ことわざ)を知らないバルトロに無駄かもしれなかったが、察しが良いのかそれ以上は聞かれなかった。本当、知らないのが一番だと思うぞ。



「後ろにバルトロを乗せるとして…この鞍、伸びたりしねぇかな」



 何となく呟き、鞍の座る部分が後ろに伸びる様を想像すると…何と現実になった。何が起きた……。



『ん、伸びたのか?これなら2人乗せられるな』

「いやいやいやいや…おかしいだろ。何で鞍が伸びた?」

「これは…魔法か?しかし、こんな魔法聞いたことも見たこともない…」



 アッサリ受け入れるザーフィァに突っ込む俺の横でバルトロは驚きながらまじまじと鞍を観察する。俺より魔法に詳しそうだから考えを聞いてみた。



「……恐らく、先程イサギ殿自身が言っていたことなんだろう。これがイサギ殿の魔法なんだ。魔術師ではない俺にはどういう原理なのか分からないが、魔法で伸ばしたと見てほぼ間違いないだろう」

「やべぇな…。攻撃用の魔法を練習しようと思ってたんだが、必要無さそうだわ」

「いや、加減を覚えないと二次被害が出るやもしれないので…出来れば練習してくれ。俺も手伝うので」

「おう」



 やっぱり練習しないと駄目か…。ガーティには攻撃用の魔法を教わってないからなー。ザーフィァに今度見せてもらおう。実戦経験豊富なんだし。



「魔法の話は後にして、兎に角進むか。なるべく早くこの国から出たいしな」

「あぁ、そうだな。乗せてもらうことしか出来ないのが申し訳ないが…」

「今更だろ。その分情報とか知識とかくれれば平等(イーブン)なんだからよ、もう少し肩の力抜いた方がいいぜ?」

「……ありがとう、イサギ殿」



 こうして俺とバルトロ、ついでにアリヴィンはザーフィァ自慢の超特急で山1つ超えた先の草原へと向かわされた。

 この短時間でどんだけ走り回ったんだお前ッ!!

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