50話 まずは腹拵え
バルトロメウス、もといバルトロが目を覚ましたお蔭で朝食作りが出来る。腕が痺れて痛いのが難点だが…その内治るか。どうせそんなに食材ねぇんだし、結局パンに落ち着くのは目に見えている。
ジャイアントキャットフィッシュをソテーしてサンドイッチにしちまおう。野菜は沢山あるから野菜メインな。ザーフィァは魚を多めにしとこう。アイツ肉の方が好きだし。
『ママ~…』
「おはよう、アリヴィン。眠れたか?」
『ん~…』
「まだ眠いんじゃねぇか…。ほら、寝るならここで寝ろ」
完全に目が覚めていないアリヴィンを胡坐掻いた足の上に乗せ、上着で包む。朝の森はやはり気温が日中より低く、洞窟の中より風に当たるので防寒対策はこれで万全な筈。
フェニックスだからか、子供だからか…兎に角アリヴィンの体温は心地良いので俺の防寒対策にもなっている。win-winとはこの事か。
『イサギ、おはよう』
「おはよう、ザーフィァ。見張りありがとうな」
『これぐらい任せてくれ。あの人間の雄は目を覚ましたのか?』
「あぁ、バルトロな。今の所体調が悪そうには見えなかったから、恐らく大丈夫だろう。引き上げてくれたの、ザーフィァだもんな。後で言っとくわ」
『別にそれはいい。ただ…あの人間に何かされたら真っ先に俺に言ってくれ。いつでもこの角で串刺しにしてやる』
「朝っぱらからバイオレンス過ぎねぇ?」
これから朝食だと言うのに何やら不穏な発言を堂々と宣言するザーフィァに血の気が引く。背景の青空と綺麗な森が台詞とミスマッチで余計怖いんだが。
花畑よりはマシか、なんて現実逃避しているとガーティがバルトロを連れて出てきた。
『何を話しているの?』
『イサギに仇なす奴は全員地獄に送ってやるから安心しろって言ってたんだ』
「ガーティ助けてくれ。ザーフィァが物騒な発言してくるんだ」
『私の手には負えないわ、ごめんなさい』
「秒で諦めやがった…」
いっそ清々しいと思えるガーティの諦めの早さに呆れている内にバルトロは恐々と俺の横に膝をついた。視線の先に居るのはさっきから危ない思考回路をしているザーフィァである。頼むから妙な真似しないでくれよ?
俺は俺で朝食の準備を始める。
「デュラン・ユニコーン……本物なのか…?」
「従魔のザーフィァ。目が青いのが他のデュラン・ユニコーンとの違いだな」
「本当だ、青い…。綺麗な目だな」
「だろ?そんで、ここで寝てるのがベビー・フェニックスのアリヴィンだ」
「フェ、フェニックス!?一体、どうやって!?」
「大声出すなッ、アリヴィンが起きるだろ」
バルトロの大声に身じろぐアリヴィンを撫でてもう少しの間寝かしつけてやる。子供が起きるにはまだ早いんだろう。俺も夜の仕事だから早起きが辛い時の気持ちは痛い程分かる。
「す、すまない。だが、ベビー・フェニックスなんて稀少な魔獣を一体どこで…?」
「滝から流れ落ちてきたのを拾った」
今思うと桃太郎の展開に似てる。拾ったのが婆さんじゃなく俺って言うのがなぁ…。
「…状況が特殊過ぎないか?」
『ここに居る全員がそう思ったわよ。でも現実なんだから仕方ないじゃない』
「いや、しかし……世の調教師が聞いたら膝から崩れ落ちそうな話だな」
「…確かに」
やっぱ俺の従魔のメンツは目立つよな。アスクマの街であれなんだから、他の街だと更に面倒な事態になるかもしれねぇ。アリヴィンも従魔になったから更に騒がれるのは予想出来る。
まぁ、深く考えるのはその時にならなきゃ出来ねぇモンだし……今は朝食を楽しもう。
「ほれ、出来たぞ。ジャイアントキャットフィッシュのソテーサンドイッチ」
『美味しそう!』
『良い匂いだ』
「俺の分もあるのか…?」
「いや、1人だけ飯抜きとか何のいじめだよ」
病み上がりではあるが、回復した今なら大丈夫だろうとバルトロの分のサンドイッチを手渡す。水は流石に身体を冷やすと思うから即席野菜スープも作っておいた。コンソメもどき、侮れねぇ…。
食べ方なんかが分からないのか、手に持ったままオロオロするバルトロの前で簡単にレクチャーする。と言っても、手に持ったら後は齧りつくだけなんだが。
「ん…、んー……もうちょい味濃くても良かったな」
『あら、私はこれくらいアッサリしている方が食べやすいわ。野菜によく合っているもの』
『ガーティの言う通りこれでも十分美味いが、俺はイサギにも同意見だ。もう少し味が濃くてもきっと美味い』
舌が肥えてきたのかグルメな会話が繰り広げられる。ザーフィァは結局美味いに行きついているから幸せな舌なんだろうな。次は濃いめの味付けにしよう。
3人であれこれ味付けについて盛り上がっていると、横で何かがポタリと落ちる音がした。雨かと思って空を見上げようとした俺の視覚が捉えたのは、雨雲ではなく、バルトロの涙だった。
……………は?
「バルトロっ!?」




