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男装ホストの異世界旅行記  作者: エルモ
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48話 悪計

初めてレビューを書いて頂けました…!

あんなに褒めて下さるとは思ってもいなかったので恐縮を通り越して申し訳なさで一杯です。

狸塚月狂@狸監督さん、ありがとうございます!

至らぬ作者でありますが、これからも頑張らせて頂きます。

 これは悪い夢だ。

 そう願った俺が、愚かだったのだろうか…。










 オーク討伐を兄上から請け負った俺と部下十数名は、目撃された森へと進行した。

 だが、幾ら進んでもオークは疎か小動物すら姿を現さない…そんな不自然な森に、騎士としての本能が告げた。


 "何かがある"と。


 俺の傍らに続く副隊長兼側近のマリユスも眉間に皺を寄せて周囲を見渡している。



「妙ですね…。商人の話では、確かにこの近辺でオークに遭遇したと聞いているのですが……」

「油断はするな。オークが居ようと居まいと、この森はおかしい」



 森に入ってからずっとスキル"索敵"を使って周囲を警戒しているが、範囲を最大限まで広げても反応が無い。ここまでくると最早異常だ。

 部下の何人かも森に対して不信感を抱き始めている。

 そのまま進んでいった俺達はこの森の中で最も大きい川に差し掛かった。緊張状態を長時間続けるのは返って体力を削ぐ事となる。



「ここで一旦休もう。何かあればすぐに――」



 報せろ、と続ける筈だった言葉は無に帰した。





「…王……子…?」



 何故、部下の口から赤い液体が零れ出ているのだろうか。

 何故、その身体から剣が生えているのだろうか。

 何故、血を流し絶命する部下の背後にほくそ笑む別の部下の顔があるのだろうか。

 何故、俺に向けて剣を抜いているのだろうか。


 何故、何故、何故……。



「……王子…バルトロメウス王子!!」

「ッ!?」

「お逃げ下さい、王子!これは罠です!!私達は嵌められたのです!!」



 ――あぁ、こんなにも思考を放棄したくなる日が来るとは…夢にも思わなかった。


 "誰に"なんて分かりきった事も聞けないまま、俺は自分を裏切った部下を斬り伏せた。今まで共に鍛錬した大切だった部下を手に掛けるなんて誰が想像しようか。

 歯を食いしばらなければ、下唇を噛んでいなければ絶叫してしまいそうだ。戦場で上げた雄叫びではない。絶望に対する嘆き、国王に対する怒り、死なせてしまった部下への悔み…。他にも様々な感情が溢れ出るのを堪えつつ、自分に剣を向ける謀反者と対峙する。


 伊達に騎士団団長を務めてはいない。が、部下は普段より強くなっている。束になって攻撃されてもそう簡単に押し負けたりはしなかった。なのに何故…?

 その原因が首元に光る魔法道具だと気付くのにそう時間は掛からなかった。



「"深化の石"だと…!?一体どうやって手に入れた!!」

(ほふ)られる貴方様が知る必要のある事でしょうか!?」

「おのれ……!」



 "深化の石"は、特殊な魔石を核にして作られる貴重な道具。それを身に着けることでその者の技術、身体能力、魔力が数段格上げされる。

 けれど代償は大きい。本来地道に積み上げて手に入れる筈の力を無理矢理引き出している危険な物、下手をすれば身体を動かすことが出来なくなる場合もある程負担が大きいのだ。

 だから騎士団の中では使用を禁止し、巷でも流通を規制していた。


 こんな物を使って俺の部下を殺したと言うのか…!



「貴様等…楽に死ねると思うなッ!!」

「ご安心を!そう焦らずとも、すぐに母君の顔を拝ませて差し上げますよ!!」



 ブツリと、自分の中で雁字搦(がんじがら)めになっていた理性の糸が引き千切られたのを最後に、俺は正気を失ってしまった。



「ッぁぁあああああ゛あ゛!!!」



 俺は怒り任せに剣を振るった。何が何だか分からない程の激情は俺から冷静さを奪い、変わりに力を与えた。

 何人の部下を物言えぬ屍にさせてしまったのだろうか。何人の裏切り者を獣の餌にしてやっただろうか。考えようとしても頭は働かず、目の前で身勝手に命乞いをする者の首を刎ねてやった。


 夢であってほしいと願えば願う程、俺の剣は重くなり、血の匂いが増していく。現実を見ろ、お前は人殺しだと誰かに遠くで嗤われている様な気さえしてきた。



「ッは……ハァ……」

「王、子……」



 剣を地面に突き刺した俺の隣りに満身創痍の姿をしたマリユスが立ち、俺を気遣うが…俺はその想いに答える気力すら失っていた。

 いつの間にか日は山の向こうへと姿を隠し始め、空を飛ぶ鳥は寝床へ帰るために風に乗っていた。



「…………何を、しているんだろうな…俺は」

「王子……」

「オーク討伐のつもりが、まさか裏切り者への粛清になるとは……国一番の頭脳を持つリーンハルト様でも予想していなかっただろう」



 己の不甲斐なさに自分で嘲ってしまう。

 しかし、これで自分に向けられた敵意が明確になった。城に戻ったら兄上に報告し、国王の動向を一から洗い直すことを進言しなければ…。

 そうと決まれば早く城に戻ろう。



「マリユス、城に戻るぞ。この事をリーンハルト様に報告せねば…」



 そう言いながら振り向いた俺の身体―正確には脇腹―を、鈍い赤に隠れた白銀が貫いた。

 ここまで来ると、もう自嘲する気にもなれない。



「…あぁ……お前もか、マリユス……」



 俺の脇腹を貫いた剣はそのまま横に振って引き抜かれた。心臓を狙われなかったのは、長年横に並んで出来た情のお蔭か。

 崩れ落ちた俺から魔法道具で魔力を吸い取ったマリユスは、そのまま俺を足蹴にして川に突き落とした。



「全ては、陛下の栄光のため…。安らかにお眠りを、バルトロメウス王子」



 流れる水の音の先から掛けられた言葉は鮮明に聞こえた。その声が震えていることも…。

 マリユス、俺はお前すら救えない男に成り果てていたのだな。


 川の冷たさが痛みを緩和させてくれたが、同時に意識も薄れさせていった。感覚も無くなり、俺はただ流木の様に流され続けた。

 駄目だと思ったその時、ふと頭を過ぎる人物が居たが…それが誰か分かる前に俺は意識を手放した。



「ッ……王子……申し訳、ありません……!!」

この1話の為に丸2日費やしました…。

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