45話 子連れになっちまった…
"フェニックス"?フェニックスって…あのフェニックスだよな?日本語だと"不死鳥"と呼ばれる火の象徴的存在の……。
……………本当に?
「か、"鑑定"」
【名前:ベビー・フェニックス
年齢:半日
性別:♂
称号:『炎の支配者』
体力:2
魔力:17
攻撃力:6
防御力:3
瞬発力:1 】
うわ、フェニックスだ。"ベビー"とか付いてるし生まれてまだ半日で凄ぇ弱いけどフェニックスだ。称号見たら一発で分かるわ、こんなモン。
灰被ってたのも納得した。コイツ寿命が来たから自分で燃えて灰から生まれたんだ…。
とんでもねぇモン拾っちまったぞ。
「ピィピィ!ピィ!」
「しかもめちゃくちゃ懐いてるし…」
「ピィー♪」
さっきから胡坐掻いた俺の足の上に乗って機嫌良く鳴いているこのベビー・フェニックスを俺は一体どうしたらいいんだ…。
雛が動くものを親と認識する"刷り込み"で俺を親と勘違いしているのは分かっているんだが、この幼くも健気に生きている姿が、生まれて間もない頃のガーティを思い出させてしまう。その影響もあって俺は強く出れない。
むしろこのちっこくてフワフワした生き物に絆されつつある…。
『イサギ、さっきからフェニックス撫でてるだけだぞ』
「分かってるけど……こんな弱い魔獣その辺に捨てたらどうなる?」
『他の魔獣に食われるか餓死するか。良くて人間に捕まって売られるか』
「そら見ろ、最悪の展開しかねぇだろうが」
俺はそんな非道な真似が出来る程人間やめちゃいねぇんだよ。
手で顔を覆って項垂れれば、自然と俺の足に座っているベビー・フェニックスと目が合う。その黄緑色の瞳が不安で揺れていて、今にも涙を流しそうだ。
……いや、ちょっと遅かった。既に泣いてるわ、これ。
「ピィ~…」
「あー、泣くな泣くな。俺が責任持って世話するから」
「ピィ!」
俺の言っている言葉が分かるのか、ベビー・フェニックスはピタリと泣き止んで元気に答えた。俺って本当、動物に甘いよな…。
『動物というより、弱ってる何かを放っておけない性格なのよ、イサギは』
「!?ガーティ!?」
『あ、おかえり』
『ただいま』
「驚いてるの俺だけか?」
フワリと肩に何かが乗る感覚がしたかと思えば、空からガーティが下りてきた。どうやら空中を散歩していたらしい。
本当、この世界来てから何でもアリだよな、お前。
空から森の様子を伺ってきたと言うガーティは、このベビー・フェニックスが何故流れてきたのかを知っていた。
それは、えらく穏やかじゃない内容だった。
「川の上流に、人間の残骸?」
『えぇ、恐らく盗賊でしょうね。近くに金品が散らばっていたし、血溜まりの中から人間の男と思われる身体の一部が複数あったわ。魔獣に襲われて全滅ってところかしら』
想像しただけで食欲の失せる話だが、腕の中で眠りこけている雛に関する話だ。最後まで口は挟まずに聞いた。
『盗賊が襲われた場所の近くに何かを引きずったような跡があったの。その大きさから分かったのは、盗賊を襲ったのはアビスサーペントのようよ』
「げ、マジか…」
『あぁ、道理であの蛇から人間の血の匂いがすると思った』
「思ってたのかよ」
何でそんな大事なことを言わなかったのかと鋭く聞けば、『臭い人間のことなんてイサギの耳に入れたくない』だと。お前はどこまで俺を駄目にする気なんだ。
今後は報告・連絡・相談を徹底してするように教えて、今回は仕方がなかったと片付ける。
それにしても、盗賊が襲った場所の近くにあった川に乱闘の騒ぎに紛れてこのベビー・フェニックス…いや、フェニックスの灰が入れてあった袋が落ちて、俺達が居る下流に流れ着いたって……どんなミラクルだよ。
そもそも何で灰の状態で袋詰めに?
これにはザーフィァが詳しかった。伊達に長く生きてねぇな。
『フェニックスの灰は秘薬と呼ばれている。人間が持っていても不思議じゃないが、あまり良い話じゃないな…』
「と言うと?」
『フェニックスは魔獣の中でも強者に名を連ねる存在、人間の間じゃ神話なんて物に出てくるぐらいだ。それ程強い存在は自我がない魔獣でも畏怖し、自然とその周辺を律する存在となる。だが、もしその人間共によってフェニックスが灰になって盗まれたんだとしたら、この森がおかしいのはそのせいだろうな』
要するに、絶対的支配者と言えるフェニックスが消えたことでその周辺の生態系バランスが崩れ、弱肉強食のままに蹂躙し続けたあのアビスサーペントやトロールがこの森に餌を求めてやって来たと。
そのお蔭でGランクの依頼がなくなり、代わりにどう考えても中級以上の依頼対象のトロールを倒す羽目になったって訳だ。
碌でもねぇことした結果、盗賊共は食い殺されて地獄行きとなったのか。自業自得だ。
「成程…。そうすると、この森もそう長く居ない方が良いのか?」
『今の所この周辺に怪しい人間や強い魔獣は居ないわ。むしろ好都合かしらね』
「理由は?」
『次の街に行く道についてだけど、この森を横断するとかなり時間を短縮出来るの。獣道なのが難点だけど、他の人間に怪しまれずに料理したり、狩りをすることが出来るわ』
時間短縮は正直魅力的だ。さっさとシスネロス王国に入っちまいたい俺としては、悠長に旅をする気は更々ない。
魔法の練習を人の目につく場所でするなんて出来る訳ないし、料理の匂いで妙な連中に絡まれるのは面倒だ。ゆっくり休もうにもザーフィァやガーティの結界を悪目立ちさせるのは個人的に嫌だし。
ここは、森を横断しちまうか。
「ガーティの提案に俺は賛成だ。ザーフィァは?」
『俺も賛成だ。狩りがし易いのは有難い』
『決まりね。それじゃあ…そこの甘えん坊くんに、そろそろ名前をあげないといけないわね』
「あー、それなら考えてた」
『あら、早いわね。何て名前なのかしら』
俺を見上げる黄緑色の瞳、それがコイツの名前の決め手だ。
「アリヴィン、アリヴィンはどうだ?雄なら強そうな名前が良いだろう」
目の高さまで持ち上げれば、アリヴィンは目を輝かせて先程の鳴き声に似た高い声で喋った。
その内容にかなり腑に落ちない部分があるんだがな。
『ママ!ぼく、アリヴィン!』
「『『…………』』」
ママ…。まぁ、そうだよな。基本親って言えば母親を連想するよな、この場合……。
俺の性別上、間違いではないんだが……。
………他人に聞かれたくない単語だな、これ。
『フフ!"ママ"ですって、イサギ!』
「うっせぇ、似合わねぇのは承知の上だっての!」
『イサギは良い母親になれるぞ。俺が保証する』
「あぁ…、ありがとう」
この先俺は、アリヴィンから『ママ』と呼ばれることになるようだ。
従魔にしか聞こえないのが幸いか…。
アリヴィンはロシア語でペリドットの別名を意味します。
「太陽の石」として崇められていたので、フェニックスにピッタリかと思って名付けました。




