44話 森を鑑定してみた
「甘い食材は見つけた時に持ってきてくれたら十分だから!無理に探しに行かなくていい!」
『『はーい…』』
意気揚々と狩りに出ようとした2人を座らせて説教じみた説明をして大人しくさせるのに成功した俺だが、何とも言えん脱力感に項垂れる。
俺のためを想ってのことだとは理解しているが…限度というか、常識を考えられるようになってほしい。
「今日はもうこの近辺を散策するぐらいにしとけ。夜になったら結界を張って早めに休みたい」
『分かったわ。じゃあ私も散策に行ってもいいかしら?自分の足で森の中を歩いてみたいの』
確かに、いつも俺の肩に乗っていたからあまり歩いていなかったな。ガーティも自分の赴くがままに行動したいんだろう。
異世界だからって過保護になっていたのは、俺も同じか…。
「いいぞ。ただし、独断で危ねぇことには首突っ込むんじゃねぇぞ」
『ありがとう。じゃあ行ってくるわ』
尻尾を揺らしながら森の中に行ったガーティを見送ると、ザーフィァが俺の後ろに座って背もたれの代わりをしてくれる。
ツルツルしたザーフィァの毛は触り心地抜群で、撫でるのを止められない。
ザーフィァも気持ちが良いのか頭を地面につけて完全に寝る姿勢になっているので、存分に撫でさせてもらう。
ザーフィァが居るお蔭か、魔獣どころか森に居そうな小動物の姿も見えない。さっきのトロールやアビスサーペントなんかに食われたのか?
そうザーフィァに聞いてみると、ザーフィァもこの森のおかしさに気付いていたようだ。
『この森にはトロールやアビスサーペントが餌場にする程魔獣も動物も多くない。ここから北の方角に岩山や鍾乳洞があった筈…。恐らくそこから流れてきたんだろう。トロールもアビスサーペントも本来はそういう場所に巣を作る連中だ』
「へぇ…。やっぱり巣を作る場所って決まってるんだな。他に気になった点は?」
『…微かだが、人の雄の匂いがした。それも複数だ』
複数の男がこの森をうろついている?トロールやアビスサーペントが出る前から出入りがあったのか、それともその後なのか…。"鑑定"で調べられるか?一応試しておこう。
「"鑑定"」
【グバの森
アスクマに属する森。
スライム、ホーンラビット、ゴブリンが出現する森として知られているが、現在は確認出来る魔獣は数体のみ。
現在の地点から更に1.6km北東の位置にゴブリンの集落が存在したが、8日前にトロールに殲滅された】
「ゴブリン殲滅されてんのかよ!!」
『!?ど、どうしたイサギ?』
「いや、悪い。あまりにもアッサリした展開に思わず突っ込んじまった…」
俺の突っ込みに驚いたザーフィァを安心させてから鑑定の情報を反芻する。
この森にはアスクマの冒険者ギルドで請け負った依頼の魔獣はもう存在していないのか…。ゴブリンの集落を落としたトロールは恐らく俺が倒した奴だろうな。他に居るならザーフィァが既に倒してる筈だ。
ガーティが戻ってきたらその辺も確認しないとな…。
「…あ、そういやトロイメラの街の近くにもオークが出たとか言ってたな。俺達は遭遇してねぇが」
『そうなのか?オークの肉は中々美味いぞ。何というか…癖になる味だ』
「お前は捕食者の感想しかねぇんだな…。戦闘についてはどうなんだ?面倒だとかねぇのか?」
『ない。あいつらは群れで暮らしているのが厄介なだけで、個ではそんなに大した力を持っていない。人間の力がどれくらいか分からないが、トロールを足技で倒したイサギなら余裕で勝てる』
意外と弱かったわ、オーク。トロール以下なら大したことなさそうだな。
そして思い出したが、そのオークを倒すのにあの第二王子が討伐に向うんだったよな。俺がこの世界に来た日の3日後だから、もう過ぎてるか。
あの第二王子…バルトロメウスだったか?真面目な男だったが、無事に討伐出来てるといいな。
俺としては資金と情報を無償で提供してくれた恩人だから酷い扱いを受けていないことを祈りたい。
第二王子のことを思い出しながら空を見上げていると、滝の方から何かが落ちる音が聞こえた。
「?今、何か落ちたよな?」
『あぁ、水音に混ざっていたが確かに聞こえた』
ザーフィァも気になるのか、立ち上がって滝壺の中を覗く。俺も続いて覗いてみたら、水面に何かが浮かび上がってきた。
これは…麻袋?小さいな。
『どうする?拾うか?』
「気になるしな…。この滝の上は普通に川だよな?上流から流れたなら、この先の様子を知る手掛かりになる」
『分かった』
ザーフィァに水を操って岸に寄せてもらってから拾ったが、意外と重い。水を含んでいる影響もあるが、確実に何か入っている。
ザーフィァに横に控えてもらい、中身を確認する。
固く結んであった袋の紐をナイフで切って開けてみると、中で何かが動くのが分かった。
まさか、生き物!?
得体の知れない何かが入っていたという恐怖に俺は息を飲む。
「っ…!」
『イサギ、手を離せ!ここは俺が…』
ザーフィァが角を器用に使って袋を川に捨てようとした、その時だった。
「ピィ!」
……………袋から、雛?しかも、灰塗れ…。
灰を被った謎の雛は袋から自力で出てくると、俺を見上げて愛らしい声で鳴き続ける。
濃いグレーの毛はテレビで見たペンギンの雛に似ているが、そのクリッとした大きな目は燐光放つ黄緑色だ。
しゃがんでいた俺の膝に駆け寄って頬擦りしながらしきりに鳴き続ける雛に俺は困惑する。
「な、何だこの雛…。ザーフィァ、知ってる魔獣か?」
『…………知ってる気がするが、そうでないと願っているところだ』
「おい待て、何だその嫌な予感がビシビシする発言は」
見れば冷や汗を滝の様に流しているザーフィァが俺と目を合わせずにしどろもどろになっている。お前そんなキャラだったか?
『俺は実際に見たことがないから…確定じゃないが、もしかしたら……』
「もしかしたら…?」
『………フェニックスの雛かもしれない……』
フェニックスの、雛……?
「マ、ジかよ……」
「ピィ!」




