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男装ホストの異世界旅行記  作者: エルモ
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43話 好みは大切だ

 洞窟の中に毛皮の簡易布団を敷いてから外に出て昼食の準備を始める。そろそろ昼時だろうと予想していたら、ザーフィァが『今日の昼は何だ?』って聞いてきたから間違いないだろう。



「今日はグレートスプリングラビットの肉にするか」

『そうね。ザーフィァの話じゃとても美味しいみたいだわ』

『アレは美味いぞ。イサギの作るものは何でも美味いが』



 べた褒めだな…。されて悪い気はしねぇが、身内だと贔屓目があってこっ恥ずかしいモンがある。


 前の世界じゃウサギの肉を食ったのは1度だけだった。それでも味は印象的だったからよく覚えている。ウサギの肉は焼くと固くなる性質だから、煮込み調理に向いている食材だ。

 この間トマト煮込みをしたからトマトは無し。今回は趣向を変えて、アスクマで買った高級白ワインで煮込んじまおう。

 美味い肉を食うのに酒を出し惜しみなんてする訳がない。


 そうと決まればやることはサクッとやっちまう。グレートスプリングラビットの肉をぶつ切りにして水洗いする。

 そしたら次はローズマリーもといラズマリーンを一枝だけ千切り、水気を切った肉に大さじ1杯の油と一緒にもみ込む。この状態で約30分放置する。


 続いて他の材料を切っていく。玉ねぎ、ニンニク、そして白ワイン同様アスクマの街で買ったフェトルと呼ばれるマッシュルームもどき。

 これがまた厄介な代物で、食材としては何ら問題ないんだが、薬の材料にしようモンなら精力剤だの媚薬だのに変化しちまう。店の女店主に色っぽく説明されながら肩に腕回された時は身の危険を感じた…。

 間違ってもこれは薬になんてしねぇ。


 気を取り直して、今日の魔法の訓練の集大成を発揮するとしよう。

 ザーフィァに事前に集めてもらった薪に向かって手をかざし、自分の知っているコンロの火の形を頭の中で想像する。目を閉じて集中していると、かざしていた手に熱を感じたので目を開ける。

 集めた薪に着火した火は、俺が想像した通りの火の輪になっていた。続けて火の調節も行ってみたが難なく成功。

 調理の問題、解決。



『上手に出来たわね』

「ガーティの教授の賜物だな」

『フフ、お役に立てて良かったわ』



 ガーティから頬にキスを貰ってから調理を再開する。

 鍋に油を引いてからニンニク、玉ねぎを入れて炒める。弱火で玉ねぎが透明になるまで炒めれば、今度は肉の登場。

 肉にはあらかじめ薄力粉を塗しておき、鍋に加えたら中火で火を入れる。焦げないように慎重に。焼き色が付いたらフェトル、白ワイン、塩、魔法で作った水を入れて混ぜる。滝の水をザーフィァに浄化してもらうという手もあったが、今回は魔法を実践してみたいという俺の我が儘に付き合ってもらう。

 ガーティもザーフィァも嫌な顔なんて微塵も見せないから末恐ろしい…。


 鍋に蓋をして弱火でじっくり煮込む。時々中を混ぜたりしながら様子を見て、頃合いにコショウを振ったら完成。



「グレートスプリングラビットの白ワイン煮込み」

『良い香り~』

『美味そうだ…!』

「分けるからちょっと待ってろ」



 大人しく座って待つ2人の前に盛り付けた皿を置いてから俺も座る。全員揃って食べるのは言わなくても決まっていた暗黙の了解である。

 本当躾とか要らねぇんだよな、この2人。



「食っていいぞ」

『いただきます♪』

『いただきます』



 躊躇なく食べ始める2人に少しは味の好みとかを気にすることを覚えてほしい。何も考えずに食べて、実は自分が苦手とする味だったとかなんて可哀想だろう。事前に分かると有難いが、ガーティもザーフィァも俺と同じ食事だと分かったのは最近だからな…。


 俺の気持ちを知ってか知らずか、2人は中々グルメな感想を言ってくる。



『美味しいわ~…。お肉がプリプリしていて、噛むと弾力が凄いの。肉汁と一緒に白ワインの風味が広がるのが堪らないわ』

『うん、美味い。あの草の香りが肉によく合っている。今まで食べたことのない味だから面白い』

「苦手なモンとか入ってないのか?味や触感で気になることがあったら言ってくれ」

『ん~、私はこれ好きよ?お肉も柔らかくてジューシーで。でもそうね、私は野菜が多い方が好きかしら』

『俺もこの肉の食べ方は好きだ。草も好きだが、肉の方が俺は好きだな』

「見事に見た目と反するなー、お前ら」



 肉食と言っても良いガーティが野菜好きで、草食動物の筈のザーフィァが肉好きとか…一体誰が予想したよ。いや、割と前から言ってはいたけどな?改めて言われると本当に謎だわ。



『そういうイサギは?好きな食材とかあれば獲ってくるわよ?』

「いや…、特には。ザーフィァのお蔭で良い肉食えてるし、食材も高いが良いモン使ってるから問題ない」

『…イサギが欲しい物があれば、獲ってくるのに……』



 …え、何でザーフィァしょげてんだ?ガーティは前足でザーフィァの足をポンポンと叩いて慰めてるし。何だこれ、俺が悪いのか?


 どうしていいか分からず、渋々この世界に来てから思っていたことを口にした。



「…………甘い食材とか、食ってみたい…と、は……思ってるが……」



 小声でボソッと言った筈の言葉を、2人は鋭い聴覚で拾って興奮気味に答える。

 落ち着け、2人とも。



『!!甘い物だな!任せろ!そういうのなら俺は沢山知ってるぞ!』

『イサギの好みなら任せて頂戴、ザーフィァ!きっと良い物を採れる筈よ!』

「何で急にテンション上がんだよ!!」



 昼食もそこそこに、俺は早速狩りに行こうとする2人を押さえ込むのに苦労させられた。

 軽はずみな言動は今後慎もうと心に誓った……。

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