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男装ホストの異世界旅行記  作者: エルモ
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42話 魔法の勉強

 スマホに表示されたのは今まで通りの通知。今回はトロールを倒したことで得たスキルなんかを通知してくれたが…。

 ザーフィァと同じ"俊足"は分かるが…、"鉄躯"って何だ?調べるか。


 "鉄躯"は読んで字の如く身体が鉄のように頑丈になるスキルで、岩や強靭な肉体を持つ魔獣を倒すことで習得出来るスキルなんだと書かれている。

 けど、俺が今まで倒した魔獣はデモン・タランチュラとジャイアントキャットフィッシュ、そしてこのトロールだ。スキルを得るには少し数が少なすぎるんじゃ?



「何でこんなすんなりとスキルを貰えるんだ?」

『普通と違うのは、イサギが異世界人ってことぐらいよね?それ以外心当たりないもの』

『俺も分からない…。そもそもイサギって異世界人なのか?』

「あ…、そういや言ってなかったな」



 何だかんだで説明してなかったことを思い出した俺は今までのことを事細かく説明した。相槌を打って話を聞いたザーフィァは納得したって顔で首を振る。



『道理でイサギは俺のことを恐れないなと思った…』

「説明してなくて悪かったな」

『納得出来たからそれでいい。でもそれは隠しておいた方がいいと思うぞ』

「ペラペラ喋るつもりはねぇが…」

『なら良い。けど、油断は駄目だ。"異世界人"はデュラン・ユニコーン()なんかよりもずっと珍しい存在だから……身の程を弁えない屑がイサギにちょっかいを掛けるかもしれない』



 久々にザーフィァがスラスラと喋ると思えば…中々危ない発言をされちまった。"ちょっかい"がどれ位のレベルのモンなのかにもよるが、出した相手はまずザーフィァの魔法と角の餌食だな。

 まぁ自己防衛を徹するに越したことはないか。


 ザーフィァの忠告を受け止めてから感謝のキスを送り、茂みの中でしょんぼりしていたガーティにも慰めのキスを送る。1回じゃ満足出来なかったガーティに催促され、結局5回キスをした。


 因みにトロールはザーフィァに止めを刺してもらってから収納スキルに仕舞った。



『じゃあ今度は私の番ね。イサギは魔力が多いんだから、魔法を鍛えれば伸びる筈よ』

「宜しくな」

『じゃあ俺は狩りに行ってくる。結界は張っておこうか?』

『そうね、お願いするわ。今日は結界の中で出来る魔法の勉強から始めるわ』

『分かった。じゃあイサギ、行ってくる』

「ん」



 見送りのキスをしてからザーフィァを森の中に向かわせる。俺も"俊足"を習得したから、あんな風に走れるのかもしれない。あとで少し試そう。

 残った俺の前でガーティは優雅に腰を下ろして俺を見上げる。その佇まいで普通の猫じゃないと分かるんだから凄いよな…。



『いい?イサギ。魔法というものは、()()()()が鍵よ』

「理解と構築?」

『そう。私達の居た世界では科学が発展していたけれど、あれも魔法と理屈は一緒なのよ。科学は自然の中にある法則を()()し、それを人間が自分達でコントロール出来る範囲内に収めて()()したものなのよ』

「……雷の原理を理解し、それを電気に変換して利用したってことと似てるのか?」

『そうよ!イサギは賢いから飲み込みが早いわ。だからこの世界の魔法も、科学と似たものと捉えれば何も難しくないのよ。私が昨日やった"洗浄(ウォッシュ)"や"乾燥(ドライ)"も私達の生活の中にある物を想像すればなんてことないわ』



 成程。ガーティが見せたあの魔法が俺の知る洗濯機に似ていたのは、ガーティが洗濯機を想像して魔法にしていたからだったのか。乾燥の作業も乾燥機の中がどうなっているのかを理解していたから出来た技なのか。

 そう考えると、俺が今すぐ欲しいと思っていた調理に必要な火の魔法も、コンロを想像すれば簡単に出来るかもしれない。



『それじゃあまず基本的なことからやってみましょう。手を前に出して』

「こうか?」

『そう。そしたら、その掌から火の玉を出すのをイメージして』

「火の玉…」



 瞼を閉じて頭の中でイメージしたのは、暗く不気味な墓場で揺れる青白い火の玉。それが掌から出るイメージ……。


 ボ、と何かが燃える音が聞こえたかと思えば、俺の目の前には俺の顔と同じサイズの青く燃える火の塊が浮いていた。揺蕩う訳でもなく、ただそこに存在する火の玉は俺の前から離れないで空中で燃え続けている。



「は…」

『凄いわ!出来たじゃない!しかもそんなに高温で大きいサイズの火の玉なんて、イサギはやっぱり才能があるのね』

「これ、成功……なのか?」

『勿論よ。ただ私が想像していた火の玉とは違うわね。どちらかと言えばホラーに出てくる"人魂"かしら?』

「あぁ…俺が想像したの、それだ」

『この世界にも人魂の概念はあるのよ?"ウィル・オー・ウィスプ"って言うんですって』

「へぇ、そうなのか」



 それからもガーティにこの世界の知識と魔法を教わりながら、俺は実戦練習を繰り返した。何事も慣れないと意味がない。簡単な魔法だって一々イメージしてたんじゃ時間が掛かる。


 段々感覚を掴めてきたところで、ザーフィァが魔獣を球体の結界に入れて戻ってきた。

 球体の中には巨大な蛇が無残に打ちのめされている。ザーフィァよりも遥かにデカい大蛇があんなアッサリ仕留められるとは…我が従魔ながら恐ろしい。



「おかえりザーフィァ」

『ただいま、イサギ。今日はアビスサーペントを仕留められたぞ』

「アビスサーペント…?また禍々しい名前の魔獣だな」



 球体から出てきたのは名前負けしていない黒い鱗に毒を彷彿とさせる紫色の目をした大蛇だ。出して分かったがその身体の大きさは異常だ。さっきのトロールでさえ簡単に絞め殺せそうな大きさだぞ。

 どうしたのか尋ねると、どうやらこの森の奥に巣を作っていたらしく、そこを偶然見つけたので魔法で仕留めたと言う。こんな巨大な蛇の巣が近くにあったのかと思うと流石にゾッとする。



『このアビスサーペントが居た巣穴が寝床に良さそうだったから魔法で綺麗にしておいた。今日はそこに泊まろう』

『あら、それは嬉しいわ。行きましょう?イサギ』

「あぁ」



 ザーフィァに跨って案内してもらい、着いた場所はそこそこ大きい滝が流れる崖だった。

 どうやらあの大蛇はこの滝の後ろにある洞窟を巣にしていたらしい。


 中はザーフィァのお蔭で獣臭さも何もなく、むしろ空気が澄んでいるのではと感じられる程清潔だった。地面も俺が寝ることを考慮して、平に整えられている。これなら毛皮を布いて寝ても大丈夫だろう。



「ありがとう、ザーフィァ。今日は安心して眠れそうだ」

『これぐらい、イサギの従魔として当然だ』

「それでもだ。ありがとな」

『…じゃあご褒美が欲しい』

「ん、何がいい?」

『キス』

「本当好きだな、お前…」

『好きだ。イサギが俺にしてくれることは全部好きだ』

「おぉ…、随分と熱烈な告白だなぁ」



 まだかまだかと期待した目で俺を見るザーフィァの瞳はキラキラと輝き、それがまた可愛らしく思える俺は相当な従魔馬鹿だ。

 額、瞼、頬、鼻にキスを送り、最後に唇に最上の気持ちを込めてキスをする。擽ったそうに顔を震わせるザーフィァがおかしくて、俺もつられて笑った。



『ありがとう、イサギ。最高のご褒美だ』

「俺で良ければ、いつでも」

『…ズルいわ、私だってイサギにキスしてほしいのに……』

「ふは、仰せのままに…俺だけの女王サマ?」



 焼きもちを焼くガーティの愛らしさに癒されながらも、艶やかな美しさを持つ家族に口付ける。

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