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男装ホストの異世界旅行記  作者: エルモ
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41話 何か出てきた…

 アスクマの街を出て街道を歩く。やはり大きな街から延びる道は整備出来ているので歩きやすい。途中横を馬車が抜かしていくのを見ると、俺も別に地道に歩く必要はないな。



「ザーフィァ、乗せてくれ」

『いいぞ』



 テレビなんかの真似でやってみたが、これが案外出来る。ザーフィァが俺が落ちない様安定した姿勢を保っていてくれるお蔭だ。

 新しい鞍に乗ってみたが、乗り心地は申し分ない。職人の爺さんが俺の足の長さなんかを測っていた時は何をするのかサッパリ分からなかったが…今なら分かる。調節してくれたんだな、爺さん。



『イサギ、どうだ?落ちやすくないか?』

「大丈夫だ。んじゃ頼むわ」

『任せろ!』



 大きな鼻息を吹いたザーフィァは軽く首を振りながら数歩後ろに下がったかと思えば、ギュンッ、と風を切って走り出す。

 こ、れは…ただの絶叫アトラクションだろうが!!



「ちょ、ザーフィァ!?はっや、速いぞお前!?」

『狩りは速さが大事だ、イサギ!あの森から良さそうな魔獣の気配がする!』

『ま、待ってザーフィァ!落ちちゃう!落ちちゃうから!』



 俺の肩に乗っていたガーティを腕の中に移動させ、死んでも落とさない気持ちで抱き締める。勿論手綱も力の限り握りしめて、ザーフィァが脚を止めるその時まで強風に耐えた。






「あ゛ー…腕の筋肉切れるかと思った……」



 ザーフィァが脚を止めたのは森のど真ん中。あの強風の中を片腕で耐えた俺だが、未だかつてない疲労感に思いの外精神面をやられた。木にもたれかかって休む俺を、ガーティは潤んだ瞳で心配してくれる。



『イサギ、大丈夫?ちょっとザーフィァ、張り切り過ぎよ!』

『ご、ごめん…。イサギ、大丈夫か?俺、何すればいい?』



 テンションがハイだったザーフィァも正常に戻り、俺が座り込んだのが相当ショックだったのかオロオロしている。

 けど、よくよく考えればこれは俺の問題だと思う。いざって時にザーフィァに全力疾走を頼んで俺が振り落とされたら意味がない。俺がザーフィァのレベルに見合う人間にならないといけないんだ。


 泣きそうなザーフィァの頬を撫でて鼻の上にキスをしてから立ち上がり、ガーティを肩に乗せる。



「大丈夫だから、心配するな。それよりザーフィァ、さっき言ってた"良さそうな魔獣"ってどんなのだ?」

『ん…、あれだ』

「?」



 ザーフィァが顔を向けた先に居たのは、角と牙の生えた青い肌の巨人。その手には木の幹を削って作った棍棒を持っている。

 それを見た俺の感想は、「どの辺が"良さそう"?」だ。


 巨人は世辞にも綺麗とは言えない大鼻で何かの匂いを嗅いだかと思えば、真っ先に俺と目を合わせた。

 ひょっとしてコイツ、匂いで周りの状況を把握してるのか?



「おいザーフィァ、何なんだこの巨人は…」

『トロールだ。食えないが倒し甲斐はあるぞ』

「お前のレベルでだろう、がッ!」



 俺がザーフィァと会話している隙にトロールが棍棒を真上から振り下ろす。咄嗟に避けて着地したが、トロールの目に映っているのは俺。このトロールの狙いは俺のようだ。

 普通に考えて、デュラン・ユニコーン(ザーフィァ)人間()じゃどっち選ぶかなんて分かりきってるよな。


 さて、どうしたモンか…。そんな悠長に考えていたのが分かったのか、トロールは耳障りな雄叫びを上げて突進してくる。せめて人語を話してほしいな。



「っと…。やべぇな、あの棍棒」



 ついさっきまで俺が立っていた場所をトロールは棍棒でめちゃくちゃに壊していく。木は薙ぎ倒され、地面は抉られたり凹んだりと、トロールの力の恐ろしさを物語っている。人間なんかが潰されたら原型が分からなくなる威力だ。


 次々と繰り出されるトロールの攻撃だが、俺はそれを難なく避けている。俺がこのトロールに勝てるのは"スピード"だな。

 バックステップで距離を取り、トロールが次の攻撃に出る前に反撃を考える。



「ガーティ、降りろ」

『でもッ!』

「いいから降りろ。素早さなら俺の方が上だし、アイツの動きは単純だ。まず当たらねぇよ」



 納得していないが、俺の言うことには逆らいたくないガーティを無理矢理降ろして近くの茂みに隠れさせる。魔法が得意なガーティに傷を負わせる心配はしていないから、俺は俺の心配だけするとしよう。

 ザーフィァには目配せで手を出さないよう指示を出し、次の攻撃に移るトロールの視界から消える。実際は自分が出せる全力の速度で走り、トロールの死角に回り込んでいるだけだが。



「グォゥ!?」

「っらぁ!!」



 踏み込んだ足をそのまま軸足にしてトロールの膝裏に回し蹴りを決める。後ろから攻撃されたトロールはバランスを崩して膝をつく。

 転びそうになると地面に先に手をつけて頭の安全を優先させるのは人間もトロールも同じだった。だからトロールがあの厄介な棍棒から手を離すという嬉しい誤算が起きた。

 これを逃す馬鹿は居ねぇだろ。


 俺に背を向けて膝をつくトロールの踵と腰を足場にして跳び、勢いのついた踵落としをトロールの後頭部に喰らわせる。

 脳への衝撃は脳震盪を起こして動きを鈍らせることが出来るが、果たしてトロールにも通用するのか?このやり方。


 地面に崩れ落ちたトロールから距離を取り、様子を伺うが動く気配がない。ザーフィァに確認させると、気絶してると言われた。

 ひとまず安心、か。



「しっかしデケェな…。おまけに丈夫だし」

『トロールの身体は頑丈で、打撃よりも魔法攻撃の方が有効なんだ』

「え、そうなのか?」

『そう。おまけにコイツら、腕や足が千切れてもすぐに再生するから斬撃も意味がない。だからイサギが足技だけで倒したのはとても凄いことなんだ』

「げ…、再生すんのかよ」



 じゃあ俺が踵落としで頭大破しても再生してたのか?こっわ…。


 おぞましい可能性に身震いしていると、コートのポケットに入れてあったスマホが震えた。何か久々に思えるバイブレーションに呆れながら画面を確認すると、白い画面に淡々とした文字が表記されていた。



【格闘スキル『俊足』を習得しました】


【格闘スキル『鉄躯』を習得しました】



 何かまた増えたぞー…。

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