40話 依頼でも受けるか
宿でガーティ達とダラダラ過ごした翌日、俺は冒険者ギルドに来た。折角冒険者になったのに依頼もしないのはどうかと思い、人が少ない午前中に来たんだが…。
「あの、良かったら私とパーティ組まない?私これでもCランクなのよ」
「あら、私はBランクよ?私と組んでランク上げ目指しましょう?大丈夫よ!貴方の従魔が居ればあっという間だわ」
「ちょっと!抜け駆けしないでよ!」
「何よ!」
またしても囲まれた…。しかもうるさくて敵わない。ガーティも機嫌悪くなって尻尾膨らませて怒ってるし、ザーフィァも俺にしか聞こえないからってさっきから『消す?イサギ、こいつら消す?』とか言ってくる。
気持ちは分かるが悪目立ちだけは避けたいんだ、頼むから我慢してくれ。
2人の気持ちを宥めながら女達を掻き分けて依頼の説明書が貼ってある掲示板の前に立つ。
依頼は自分のランクと、その上下1つまでなら受けられるらしい。今の俺のランクはGだから、GかFの依頼か。
依頼と言っても様々な種類がある。魔獣なんかを退治する討伐系と、薬草や鉱物を採ってくる採取系、依頼主を護る護衛系、危険な土地や遺跡の中を捜査する探索系なんてのもある。いかにも冒険って感じの依頼が多いが、他にもある。街の人間個人から頼まれる依頼なんかは生活系と呼ばれ、店の手伝いや子供のお守りなんてのまであった。
見ているだけでも結構面白いので、後ろの女冒険者達の声は一時的にシャットアウトした。
「Gランクはこの辺で……Fランクはこれぐらいか。思ったよりGの方が多いんだな」
『新人に経験を積ませる為、と考えられるわね』
「あぁ、確かに」
Gランクは討伐を20回、採取・生活を15回成功させればランクが上がるらしい。護衛はGにはまだ早い、と言うより実績がない奴に護衛の依頼なんてさせる筈がないので、依頼の紙自体存在しない。探索もCランク以上の冒険者が受けられるようになっているので、今の俺には関係ない。
今日出来る依頼…は、無さそうだな。旅の途中で依頼をこなすのは許されるのか?
受付に座っていた若い男の職員に聞くと、すんなり許可が下りた。旅をしながらギルドの依頼を片付ける冒険者は珍しくも何ともないらしい。
事前にギルドで依頼を受ける手続きをしてから旅に出て、次のギルドで成功した旨を伝えて証拠を出すと報酬を得られるシステムがあると説明された。それって詐欺とか狡賢い奴が妙な手を使ってくるんじゃないかと不審に思ったが、そこはあのギルドカードが活躍してくれる。
何でもギルドカードには受けた依頼の履歴なんかが記録されるらしく、それが無い場合は依頼を成功させても受理されないのだとか。血を垂らしただけあって有能だ、このカード。
「じゃあこのギルドで討伐と採取の依頼を受けて、次の街に行くのは問題ないんだな」
「はい。ですが、下級ランクの冒険者は基本的にランクが中級のDになるまでは1つのギルドに留まって依頼をこなすもので…」
「絶対って訳じゃねぇだろ。俺はシスネロスに行くのがメインだから関係ねぇよ」
「分かりました。ではシスネロス王国の方角でありそうな依頼を持ってきましょうか?」
「頼む」
「少々お待ちください」
職員が奥に引っ込むと後ろについて来ていた女冒険者達がいつの間にか俺から距離を取っていた。よく見ると怯えている。
「ザーフィァか」
『あの雌共、うるさくて仕方がない…。少し角を振ったら逃げていった』
「よくやった」
『ん…』
首を撫でてから頬にキスを落とせばザーフィァの目はトロンと蕩ける。どうやらザーフィァはキスされるのが余程好きらしい。勿論行儀よくしていたガーティにもキスする。
周りの女が2人を羨ましそうに見ているが、それは完璧無視しておく。関わらないのが身のためだ。
職員が持ってきた依頼は全部で7つ。その内の4つが魔獣討伐の依頼だった。難易度が低いものから、スライム(半透明な物体)、ホーンラビット(額に角が生えた獰猛なウサギ)、ゴブリン(緑肌の子鬼)、ウォーグ(普通よりデカい狼)の4種類。
残りの3つは薬草の採取で、ドゥフト草、マンス草、トモス草の3種類。薬草は一定の量で報酬を得られると言われた。
「…薬草採取の依頼は全部、魔獣討伐はウォーグとゴブリンを受けたい」
「分かりました。ウォーグもゴブリンも討伐の証拠として右耳を切り落としてください。受付でギルドカードと一緒に提示すれば依頼は完了となります」
言われた通りギルドカードを提示すると、男は脇に置いてあった水晶玉にギルドカードと依頼の紙をかざして何かしている。これがギルドカードに依頼の履歴を残す作業なのか。
ギルドカードを返してもらってから職員に礼を言う。
「ありがとうな」
「!い、いえ、お気を付けて…」
礼を言っただけで顔を赤くしてどもる職員。
ごくごく稀にだが…、男にもこの顔で赤面させちまう時がある。親父もしょっちゅうだって昔言っていたから気にしていなかったが、これはこれで気まずい。
傍から見たら俺が男色の趣味を持つ男に見えるだろう。それでも女の視線が絶えないから謎だよな…。
ザーフィァの威嚇に怯える女冒険者を後目に、俺達はギルドを後にする。
『イサギ、もう終わったの?』
「あぁ。旅の準備も出来てるし、もうこのまま出発してもいいかもな」
『なら行こう。すぐ行こう』
「待て待て、宿に行って手続き済ましてからだ」
『狩り、狩りがしたい!』
「あぁ、そうだな。俺も折角だから身体慣らしとかねぇと」
肩を回しながら宿に向かい、残り1泊分の料金はそのまま受け取ってもらい、俺達はアスクマの街を出発した。




