34話 魔獣が大金に化けた
グスタフは年季が入ってるが切れ味の良さそうなナタを取り出すと、あっという間にグレートスプリングを毛皮と肉と内臓に変えちまった。もっと手順を追って説明挟んでしてくれんのかと思ってたのに、仕事に関しては優しくねぇな…このオッサン。
「金になるのは毛皮と肉だが、買い取りはどうすんだ?」
「毛皮は要らねぇから、肉だけくれ」
「おう。にしても、こんな上等な魔獣を狩ってくるたぁな…。流石と言うべきか」
尊敬と畏怖の目を向けられるザーフィァだが、生憎興味ねぇのか寛いでいてピクリとも反応しない。それでもグスタフのオッサンは満足したのか次の魔獣を出せと言うので、俺も適当に流すことにして次を出す。
お次はギガントファングボアだな。
これも作業台にドンと置けばグスタフが目をこれでもかと見開いて驚きを露わにする。
もういい。もう慣れたから。
「ぎ、ギガントファングボアか…?これ……」
「ザーフィァ曰く。これも食えるのか?」
「当然だ。ここらで口に出来るのは領主様や豪商ぐらいのモンだぞ」
「ほぉー」
セザール達から聞いてはいたが、そこまで高価な肉になるのかと思うと得した気分になる。今日の夕飯もザーフィァ達にはご馳走しねぇとな。
グスタフの説明によると、ギガントファングボアは何より牙が値を張るらしく、貴族なんかが装飾品に欲しがるんだとか。権力を見せるのに象牙なんかを欲しがるのと一緒かと俺は考えた。
「確かに立派な牙だな」
「あぁ、こりゃあ50年近く生きたモンだな。ここまで貫禄のある牙にはそうお目に掛からねぇぜ」
「50年!?猪がか?」
「魔獣の寿命は普通の動物の数倍から数百倍にまでなるぞ。ギガントファングボアはせいぜい30~40年ぐれぇだが、稀に長命な奴が現れる。これぐらいだとランクはCかBはあるだろうな」
「へぇ…」
色々と説明を受けたあとはグスタフにパパッと解体された。これも肉だけ貰うと言うと「毛皮はいいのか?」と聞かれた。別に毛皮欲しいなんて思っちゃいねぇが…。とりあえず質問に質問で返してみると、どうやらギガントファングボアの毛皮は旅をする時に使えるらしい。
「この毛皮の分厚さ、分かるか?これが旅先で野宿する時にベッドの代わりに使えんだよ。冒険者は長期の依頼なんかをする時もあってな、街から離れた場所に討伐や採取しに行く時、こういった毛皮で出来た毛布を欲しがる奴が居るんだ。これがまた快適でよぉ、夏はアレだが…冬の気候で寝る時にはうってつけだぜ?最も、強い冒険者は更に良いのを持ってたりするんだが、お前のランクじゃギガントファングボアが1番無難だと思うぜ」
成程、ベッド代わりか…。木に凭れて寝てたけど、あれ寝にくいからなぁ。ベッドがあるのは有難い。ガーティかザーフィァが結界張ってくれる訳だし、多少贅沢なモン持ってても問題無いよな。収納スキルあるから持ち運びも楽だし。
「じゃあ毛皮も貰うから、肉半分にしてくれ。牙と残りの肉を買い取りってことで」
「おう、分かった。それじゃあ次、出せ」
「次は…デモン・タランチュラ」
作業台の上にデモン・タランチュラを仰向けに出した。長い毛に覆われた虫特有の足が作業台からはみ出しちまう。これ結構デカいんだよな。
「…デモン・タランチュラか。こりゃまたデカいのを倒したなぁ」
「この街来る途中で遭遇した」
「破損が頭部しかねぇ…。これなら毒牙を採取出来そうだな」
「武器にか?」
「そうだ。流石に原液は使えねぇから薄めて加工して使うんだ。要るか?」
「要らねぇ…。蜘蛛食おうって気になれねぇし、これは全部買い取りで頼むわ」
「おう」
デモン・タランチュラの解体シーンは流石に気持ち悪かったから見なかった。だって…なぁ?虫の中身って思った以上にヤバいぞ。グスタフがデモン・タランチュラの腹かっ捌いた時点でリタイアした。
普通の動物は割とイケたんだけどな…。
デモン・タランチュラの解体されたのはなるべく見ずに、最後の魔獣を出す。
「これで……最後、だ」
「ほぉー、ジャイアントキャットフィッシュか。これは美味いぞ。油でカラッと揚げると絶品だ」
フライか…、確かに美味そう。フィッシュ・アンド・チップスも美味そうだし、ソテーとムニエルもしたい。これだけデカけりゃ全部出来るか。よし、今日の夕飯はジャイアントキャットフィッシュだ。
頭の中で献立を色々と考えていると、ジャイアントキャットフィッシュの解体が終わった。魚なだけあって解体は料理する時と大して変わらない。ただ、俺は鯰を捌いた経験はないので多分出来ない。
魔法とかでそこんとこカバー出来ねぇのか?こう…水を刃物みたいにしてスパッとやるとか。出来るようになったら俺でも解体とか出来そうな気がするんだけどな…。
まぁ、"気がする"ってだけだから、あまり当てには出来ねぇがな。
「うっし、大体こんなモンか」
「おー…」
「ちょっくら清算してくるから、ここで待ってろ。そっちの台に移したのがお前のだ。仕舞っとけ」
「あぁ」
最後まで愛想の欠片もなかったオッサンだが、何でか死んだ父方の祖父さんを思い出す。
強面な癖して孫煩悩だったからなぁ、あの人。ちょっと会いに行かねぇだけですぐ拗ねるし。
最後の最後までこんな俺をたった1人の孫だと可愛がってくれた祖父の顔を思い出していると、グスタフが麻袋を持って戻ってきた。
「待たせたな。これが代金だ」
「ッ、おっも…。重いな、予想以上に…」
「まぁ、グレートスプリングラビットの毛皮やギガントファングボアの牙と肉、デモン・タランチュラの毒牙となりゃそれなりの金額にはなるな」
「マジか……因みにこれ幾らだ?」
「金貨38枚と銀貨7枚だ。解体費用は引いてある」
金貨38枚と銀貨7枚……38万7000円?たっか!高すぎやしねぇか?
グスタフに聞くと、これでも相場にちょっと色を付けた程度らしい。ギガントファングボアの牙であれほどの大きさはここ最近見なかったし、デモン・タランチュラの毒は毒使いの冒険者や薬師の間で重宝されるので買い手は多いが在庫がなかったのでそこを重視しての値段だと言われた。
「そういう訳だ。だからそれは安心して懐に仕舞っとけ」
「おぉ…」
またしても大金を手に入れた…。




