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男装ホストの異世界旅行記  作者: エルモ
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33話 解体

 翌朝、快晴に恵まれた俺達は朝食もそこそこに宿を出る。飯に関しては何も言わないでくれ。調味料と材料の限界が早くも訪れたから。卵とかチーズが欲しいんだが…どうやらそれらは高級食材に分類されるため、一般市民が口にする事は叶わないんだと。やってらんねぇな、ったく。



『イサギ、そんなに怒らないの。綺麗な顔が台無しよ?』

「だけどなぁ…美味い飯の方がガーティ達も嬉しいだろ」

『それはそうだけど…。でも、イサギが眉間に皺を寄せて怖い顔をしているのはあんまり見たくないわ』

『俺もだ。イサギ、怒らないでくれ…』



 ぐりぐりと甘えられれば折れるのも時間の問題な訳で、俺は早々に諦めをつけて冒険者ギルドに向かった。路地に人が殆どいないぐらいの時間に行くのには、ちゃんとした理由がある。



「昨日の二の舞にだけはなりたくねぇ…」

『そうね、あぁいう人に会うのだけは避けたいわね。ザーフィァ、貴方人間の"悪意"が分かるなら、あの女冒険者達に何であまり反応しなかったのよ』

『んー…"悪意"と言うには薄すぎる。確かに欲の"汚れ"はあったが、その度合いがあまりにも薄くて手を出すべきか迷ったんだ。今思えば取るに足らない欲だったんだろう。何か小物っぽかったし』



 昨晩のお蔭でザーフィァが饒舌になったが、言ってる内容が内容だから褒めるに褒められねぇ…。俺が口を挟む隙もなく、従魔2人による女冒険者ディスりの会が開かれた。ザーフィァはともかくガーティは気を付けてくれ。お前人間に言葉通じるんだからな?小声でも何か言えば聞かれる可能性あるんだからな?

 2人、特にガーティに念を押して言えば渋々応じてくれる。顔にすげぇ"不本意"って書いてあるけど。



「ほら、もう着くぞ。今日は大人しくしててくれ」

『仕方ないわね…』

『何かあったら守るからな』

「あー…、ありがとな」



 朝日を浴びて輝くザーフィァの角に血の気が引くが、折角の厚意を無碍にする訳にはいかない。何も起きないことを祈ろう。


 中に入ると流石に朝だから人は昨日に比べて格段に少なく、殆どがギルドの従業員らしき人間だけだ。これなら余計なトラブルに招かれなくて済みそうだな。

 カウンターに向かえば金髪の若い女の従業員が頬を赤く染めて恍惚とした表情で応対してくる。仕事しといた方がいいぞ、受付嬢。



「おはようございます。本日はどのような御用件で…?」

「魔物の解体を頼みたいんだが、出来るか?」

「はい、可能です。こちらへどうぞ」



 簡単に口頭で説明してくれんのかと思いきやまさかの道案内ときた。心なしか足取りがゆっくりで、しかも距離が近い。どんだけゆっくり行くつもりだ、この受付嬢…。

 しかも道が長い。やたら角を曲がるんだが、どうも同じ道を行ったり来たりしているように思える。これは駄目な奴に捕まったな。


 それからも訳の分からない道案内をされていると、前方からデカい欠伸しながら歩くガスパルの姿が見えた。受付嬢も見えたのか咄嗟にUターンしようとしたが、一足遅かった。



「お、色男じゃねぇか。こんな早くにこんな所で何してんだ?ここギルド職員以外はあんまり入れねぇんだぞ」

「…ほぉー、そいつは初耳だなァ。俺はこの受付嬢に解体を頼んだんだが、道合ってるのか?」

「はぁ?解体用の受付は酒場のカウンターの奥だぞ。おいコリンヌ、お前何してんだ?」



 おぉ…、ガスパルから並々ならぬ怒気を感じる……。眉間の皺が怒りの度合を教えてくれる。コリンヌと呼ばれた受付嬢も冷や汗を掻いて頭を下げる。角度90度以上いったな、これ。



「す、すみませんマスター!た、ただ…私……」

「…色恋にかまけるのは自由だが、度が過ぎるのは頂けねぇな。罰として今日は裏作業だ。終わるまで帰れると思うなよ」

「…はぃ……」



 トボトボと影を背負って去っていく後ろ姿を見送ると、ガスパルが後頭部を乱暴に掻きながら謝ってきた。



「すまんな、色男。後でもっかい言っとくから許してくれ」

「別にそこまで怒っちゃいねぇよ。それより解体頼みてぇんだけど」

「おぉ、そうだったな。こっちだ」



 ガスパルの案内の元、解体を請け負うカウンターにはすぐに着いた。あの長ったらしい道案内は本当に何の意味があったのか理解出来ない。後ろを歩くザーフィァが今にも角でぶっ刺しそうで気が気じゃなかったぜ。

 受付にはスキンヘッドの厳つい無愛想なオッサンが立ってた。街中で子供に泣かれた口だな、ありゃ。



「おはようさん、グスタフ。相変わらず眩しいなぁ、お前の頭は!」

「うっせぇ、そんなに言うなら見なきゃいいだろうが。そんで、何の用だ?」

「おう、この色男が解体頼みたくてよ。今いけるか?」

「何体だ?」

「4体。デカいのも居るから広い場所の方がいいかもな…」

「だったらついて来い。裏庭に作業場がある」



 そこでガスパルと別れた俺は素直にオッサンの後について行く。

 愛想はねぇが、俺を見ても嫌な顔せずに淡々と仕事を始めるオッサンに好感を持った俺は、目につく気になる物を聞いてみた。



「魔獣の解体場所なんて初めて見たが、これぐらいが普通なのか?」

「いや、ここは他のギルドに比べて小せぇ方だな。だが道具は十分揃ってるから問題ねぇ」

「何で小さいんだ?」

「この辺には超巨大魔獣なんか出没しねぇからな、ギルドを創設した時からこの広さで何とかやっていってんだよ」

「成程…」



 話してみると意外と面倒見がいいオッサンで、俺に色んな道具を見せて説明してくれた。ナタの捌きなんかも見せてもらえるとの事なので、後学のためにも是非見学させてもらう。

 ガーティ達は暇なのか作業場の端で寛いでいる。そんな従魔2人に苦笑を零していると、グスタフのオッサンはまじまじとガーティ達を観察する。別に嫌な視線とかじゃなく、純粋な好奇心の目は気にならないらしく、ガーティ達は身じろぎもせず大人しくしている。



「本当にケット・シーとデュラン・ユニコーンなんだな…。初めて見た」

「やっぱ珍しいのか。ザーフィァは目が赤くねぇデュラン・ユニコーンなんだが、これも珍しい要素に入るのか?」

「完全に堕ちてないデュラン・ユニコーンだと?そんなの稀少中の稀少じゃねぇか。よく手に入れたな」

「怪我してるのを治療したら懐かれた」

「どんな手懐け方だ…。もっと実力行使かと思ってたが、そういう方法もあるんだな」



 他にもブツブツ言っていたが、いい加減解体してほしいので意識をそっちに向けてもらう。作業台には1体なら問題無く載せれそうなので、1体ずつ解体してもらう。

 最初はザーフィァからの土産のグレートスプリングラビット。

 収納スキルから取り出して作業台に置くと、オッサンは目を見開いて驚いていた。


 どうしたオッサン、眼球落ちそうだぞ。



「グレートスプリングラビット…!?しかもこの毛色…雌か!?」

「うちの従魔が散歩がてら狩ってきた。雄より雌の方が良いのか?」

「あぁ、この時期の雌の成体は繁殖期を想定して栄養を蓄えてあるから肉が上質に仕上がっているんだ。狩れたってこたぁこのグレートスプリングラビット、まだ雄と遭遇していなかったんだろうな。肉の味は保証出来るぜ」



 上質な肉…。ヤバい、めちゃくちゃ料理したくなってきた。

 けどそれはグスタフのオッサンによるド派手解体ショーが終わるまでの辛抱となった。


 あー…早く食いてぇ。

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