29話 俺って何気に異常だわ
大変お久しぶりでございます。
軽くスランプに陥っておりましたが、何とか更新出来ました。
これからも読者の皆様にご迷惑をお掛けしてしまうでしょうが、何卒、温かい目で見守って下さい。
宜しくお願いします。
「さぁ、食え食え!今日は何といっても、イサギが盗賊討伐の報酬で奢ってくれるんだからな!」
何故か当人でない筈のセザールが声を大にして上機嫌にジョッキを掲げる。
そう、今日のこの飲み会は全てあの盗賊達の賞金で賄われている。
俺がオスカリウスと話をする時に咄嗟にセザールに盗賊達の受け渡しを任せ、その後セザールのオススメであるこの店で打ち上げをしようと決まったのだ。
そしてさっき渡された盗賊の報酬を見て俺は引いた。あのオッサン共は相当あくどい事をしてきたのか賞金が馬鹿みてぇに多い。袋に入った銀貨をドスンと音を立てて渡された俺は、せっかくだから今日の酒や飯代にしちまおうと提案し、満場一致で解決した。
そんな訳で、丸テーブルには所狭しと料理が並べられ、ジョッキを空けた奴は早速2杯目に突入している。
「しっかしよぉ、よかったのか?報酬を酒代にしちまって。俺らとしちゃありがたい話だが」
「さっきはゴタゴタしてて出来なかったが、魔獣の買い取りを頼めば幾らか稼げる。それに元々持っていた金もまだある」
魔獣がどれほど金になるかは相場を知らないから分からないが、流石に4体もいれば確実に稼げる筈。ラウの話じゃ魔獣に傷が少ないと買い取りの価値が上がるらしい。俺の蹴りしか受けていないから破損は殆どない。
これからのザーフィァの狩りも魔法や肉弾戦中心で頼むとするか。
「そう言えば、登録は無事に済んだのか?デュラン・ユニコーンも一緒で騒ぎになったのでは…」
「ならねぇ方がおかしいだろ。生きる狂乱の一角なんだから」
「それもそうか」
ラウとセザールがうんうんと頷いて勝手に納得している横でアランとナンシーは俺の膝の上に座るミシェルに色々料理を食べさせる。柔らかいだろう頬にこれでもかってぐらい料理詰め込んで食べるミシェルと、料理を口にして綻ぶイリヤは見てて和む。弟か妹が欲しかったんだよなぁ、俺。
味の薄い料理を口に運びつつエールを飲んでいると、ラウが真剣な顔で俺の今後についてを話題に出した。
「イサギさんは、旅の最終地点なんかは決めておるのか?」
「…まだハッキリとはしていないな。今はただ、シスネロス王国に向かっているだけだ」
「シスネロス王国か。あの国なら平和に過ごせるだろうよ。俺達はアビシオン王国を通ってカティー連合王国に向かうことになったんだ」
「カティー連合王国?」
王都の宿屋の主人から聞いた国以外の名に反応した俺に、アランが詳しく説明した。
「あぁ。あの国はエルフの王が治めていてな、人間に対しても邪険にしないし、争い事を嫌っているから今回の戦争には参加しないと言われている」
「エルフ?エルフが国王の国なんてあったのか…」
「イサギさんはあまり情報を耳にされない環境だったんですか?」
どうやらカティー連合王国のエルフの王は相当有名らしく、イリヤでも知っているレベルの常識らしい。その辺は後々叡智の扉で調べるとして、まずは俺の設定だな。
「俺はこことは全く違う独自の文化を持った島国から連れてこられた人間だ。無理矢理だがな」
「まさか、人攫いッ!?」
「それと大差ないが、狙いは俺の島に居る人間の力だ。どうやらこの大陸じゃかなり珍しい力らしくてな、戦争に使おうと何人かを連れ出した。それに俺は偶然巻き込まれたって形になる」
「……イサギ、お前…災難だったなぁ」
哀れみの目をしながら肩を組もうとするセザールだが、隣りに居るだけで分かる酒臭い息に俺は顔を顰める。セザールの腕は空を掻いて終わった。
「やめろ、肩組むな呑んだくれ。……帰る手立てがないと言われた。だから俺は、適当に旅をしながら永住の地でも探そうかと考えている」
「成程のぅ…。お前さんの桁外れな力を見れば、帝国が目を付けるのも納得じゃな」
「いや、納得されても困るんだが」
「あいや、すまんすまん。見事な蹴り技を使っておったが、あれがお前さんの故郷ならではの技なのか?」
「いや、ありゃ何の変哲もないただの蹴りだ。単純に俺の脚力が普通じゃないだけ」
「ほぉ~。と言うか、そんなに強くならなきゃいけない程治安が悪い国なのか?お前の故郷は」
アランもナンシーも俺の顔を見てとてもそうは思えないって顔をする。イリヤも「イサギさんは優しいし品もあるから、凄い家のご子息なんじゃないの?」とか聞いてくるし。
そんな大層な生まれじゃねぇから、俺。
「俺の故郷じゃこれぐらいの礼儀を弁えた人間はザラに居る。ただ俺の周りに馬鹿が多かっただけの話だ」
「バカー?」
「あぁ、馬鹿がたくさん居たんだよ、ミシェル。俺に女を取られたとか抜かして…嫌がらせ、暴言、闇討ち。真昼間に車…あぁ、こっちじゃ馬車だな。アレに轢かれそうになった時は、流石に殺意を覚えたわ。そういう連中と喧嘩とかする内に力がついたんだろう」
「「「……………」」」
エールを飲みながらかつて俺の身に起きたあらゆる出来事をつらつらと並べると、一気にテーブルの空気が重くなった。そんな気にする程のことでもないんだがな。犯人捕まった上に俺は無傷だし。
イリヤが顔を青くしながら俺の袖を小さく握る。
「イ、イサギさん…、殺されそうになったの…?」
「昔の話だ。最近はそんなの滅多になかったぞ。ガキの頃は何度か誘拐されたけどな」
「思いっきり治安悪いじゃねぇか!道理で盗賊相手に全然ビビってないなとか思ってたけど!!」
「だから昔の話だっての。そもそも俺みたいに命狙われたりする人間なんて滅多に居ねぇから。誰かに恨まれるような事をした奴は別だが」
立ち上がって抗議するセザールを宥めて座らせ、酒を注ぐ。今となっては昔の話なんだから、熱くなる必要がない。セザールに酒を飲ませて落ち着かせてから、少し話題を逸らす。
「あとは親父のお蔭だな。親父に色々と鍛えられたから」
「ほぉ…。お前さんでその実力なら、親父殿は相当腕の立つ戦士なんじゃろうな」
「戦士、か……。あぁ、そうだな」
どちらかと言えば、"狂戦士"なんだが…。
アレはアレで俺を思ってのスパルタだから、感謝はしている。……一応。




