25話 街に入るのも一苦労…
門番のオッサン兵士にイチャモンを付けられた俺達は、門の前で囲われて槍を向けられている。
それに対して俺は気分が悪いが、割と冷静だ。何故なら……。
『イサギに敵意を向けた。なら殺す。潰す。消す』
俺を乗せているザーフィァが恐ろしい単語並べて殺気立っているからだ。自分以上に怒っている奴見ると冷静さを取り戻す原理がここでも働いた。
ザーフィァのただならぬ殺気を感じ取った兵士達だが、一気に顔を青くして震えながらも警戒を怠らない。
あの腰抜かして泣きじゃくっているオッサンに比べれば、こいつらの方がよっぽど有益だろう。
誰か早くこのオッサン社会的に蹴り落として後釜につかねぇかな。
「き、貴様馬鹿なのか!?かつて大虐殺を繰り返した恐るべき魔獣を、このアスクマの街に踏み入れさせようなど正気の沙汰ではないぞ!!」
……もうこのオッサン本当に消えてくれねぇか?ザーフィァに頼んで蹴り飛ばしてもらおうか、地平線の彼方まで。
いい加減キレそうになっていると、門の奥に身綺麗な集団がこちらに向かってきているのが見えた。庶民とは違う上品だが中世ならではのよく分からない装飾が着いた服に身を包んだ男達は、どういう訳か真っ直ぐ俺の元へと歩いてくる。途中までオッサンが泣き喚いていたが、男達を見て急に大人しくなった。
権力のある人間…いや、それの遣いだな。権力者本人が出向くなんて相当の大事ぐらいだろ。
男達は俺とザーフィァを見て顔を強張らせる。相当なんだな、デュラン・ユニコーンの虐殺伝説って…。
「お初お目にかかります。私、このアスクマを治めるアブレイン・ゲハイムニス様の側近を務めます、ヨエル・オスカリウスと申します」
いきなり街のトップに絡まれるのかよ。これはいよいよヤバいぞ。
「…堅い挨拶は嫌いだ。俺に何の用だ」
「はい。貴方様が跨っておられます、その魔獣について…」
「俺の従魔に何か問題でもあると?」
上からなるべく威圧的に聞こえるよう、声を低くさせドスを利かせる。
男、オスカリウスはビクリと身体を震わせたが、平静を装って話を続ける。
「ッ、いえ、ただ…この街に危害を加えることがないかという確認をさせて頂きたく、参上した次第に御座います」
やけに平身低頭な態度だな…。ここまで腰が低いとないがしろに扱うのは難しいので、俺は一先ずザーフィァから降りて真剣に話をすることにした。
俺が話を聞いている間にセザール達には先に中に入ってもらい、セザールに教えられた酒場で後で合流することになった。
ミシェルが泣くのを我慢しながら小さく手を振って歩いて行く姿が何とも言えなかった。また会えたらハグぐらいはしてやるか…。
セザール達と別れた俺はオスカリウスの案内で外壁の中に作られている部屋へと入れられた。ザーフィァも余裕で入れる広さで、絨毯や調度品から高貴な人間のための部屋なんだと理解した。
だが分からない、何故俺をこの部屋に案内したのか…。まさか罠?ここで誰にも知られず殺されるのはご免なので、最悪ザーフィァに頼んで街から脱出しよう。俺1人でどうにかなるなら無論殴るなり蹴るなりするが。
椅子に促されて座り、ザーフィァには傍らで大人しくしてもらう。厄介事は少ないに限る。こちとら問答無用で異世界に拉致されたんだからな。
俺の正面に座ったオスカリウスは背筋を伸ばして緊張した面持ちで口を開く。
「先程は我が街の門番が大変失礼を致しました。私めから謝罪させて頂きたく存じます…」
深々と頭を下げるオスカリウスだが、その目はまだこちらの様子を伺っている節がある。何が目的なのやら俺にはサッパリだが、下手な真似は避けるべきだ。
「別に、今日の夜には忘れているだろう。それより、俺に話がある筈だ。回りくどい真似をするなら聞かないが」
「失礼、何分過去に事例のない出来事で御座いまして…。デュラン・ユニコーンをその目で見ることは死の前触れと言われているのに、こうして生きていること、そしてそのデュラン・ユニコーンが従魔となって人に懐いている姿を見られるとは夢にも思いませんでした」
ラウの言っていた話の凄さがここで漸く理解出来た。ザーフィァの種族がしてきた所業がどれ程人間に恐怖を与えてきたのかを…。話聞くだけじゃ実感湧かないからな。
そこで俺は、この街に危害を加えるつもりはないこと、冒険者ギルドに登録して冒険者になること、従魔も登録してもらうこと、商業ギルドにも用があること、旅に必要な物が揃い次第街を出ることを簡潔に説明した。
国を出る云々はお偉方に通じているかもしれない人間に話さない方が良いと判断した。後であの王が俺を連れ戻すなんて真似されたら堪らねぇよ。
俺の説明に納得したオスカリウスの行動は実に迅速だった。
まず冒険者ギルド並びに商業ギルドへの案内状の作成、旅に必要な物資が調達出来る店のリスト、アスクマの街で従魔と一緒になって寝泊り出来る宿の紹介など口を挟む隙も与えられず薦められた。
これで断る方が面倒臭そうだ。恩を着せて後で何か言われる可能性は考えられるが、ザーフィァにビビっている連中だ、馬鹿な真似だけはしないだろう。
「どうぞごゆるりと、アスクマの街をご堪能下さいませ。そうでした、お名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「…イサギ、イサギ・ミエニシだ」




