22話 幼い求婚
総合評価100pt超えました!ありがとうございます!
まだまだ未熟ですが、これからも頑張ります!
出来れば恋愛要素を入れたいですが…まだまだ先ですね、ハイ。
「美味い!これは美味いぞ!!兄ちゃんは料理の天才か!?」
「大袈裟な…」
「いや、でもこれ、すっごい美味いぞ!」
肉とフライドポテトを渡すと全員恐ろしいスピードで胃に送り込んでいく。セザールとかの男性陣は称賛してくれるが、食い散らかしてやがる…。あとで片付け手伝わせるから覚悟しろよ。
一方、乗客の中でたった2人の女性である母親のナンシーと娘のミシェルはしっかり味わって食べている。ミシェルなんて一口食べる度に俺に向かって無垢な笑顔で「おいしー!」と言ってくれる。ささくれていた俺の心を鎮めるミシェルの笑顔は凄い。
は?俺も女性陣の人数に入れろ?俺は論外だろ。
俺も料理を食べてみたが、結構美味く出来た。まだ味が寂しいが、王都で食べた料理に比べれば十分だ。特にフライドポテトが美味い。シンプルだけどやっぱ馴染みの料理が格別だな。
「本当に美味しいです。お肉をワインに漬けて焼くなんて初めてです…」
「ワインには肉を柔らかくする作用があるから、安い肉でも柔らかい高級な肉みたいにすることが出来るんだ」
「そうなんですね、今度家で試してみようかしら」
「それは名案だな!これだけ美味い飯が食えるなら、仕事ももっと頑張れるぞ!」
「まぁ、貴方ったら」
ナンシーの旦那であるアランはミシェルを膝に乗せて楽しそうにするが、ミシェルに嫌がられて落ち込んだ。どの世界でも親馬鹿って居るんだな。
脱走に成功したミシェルはそのままナンシーのところ、………ではなく、何故か俺に抱き着く。さっきまで落ち込んでいた筈のアランが鬼の形相でこっちを見てるんだが。
何事だ、一体。
「あらあら、ミシェルったらすっかりイサギさんに懐いちゃって」
「うん!ミシェル、お兄ちゃん大好き!大きくなったら、お兄ちゃんのおヨメさんになる!」
……束の間の静寂と同時に殺気を感じる。純粋無垢なこの少女が落とした爆弾は主にアランに被爆した。効果は絶大のようだ。
セザールは大声で笑って俺の背中をバシバシ叩く。俺は干された布団か。
「だっはっはっは!モテるな兄ちゃん!未来の嫁にするか?」
「ンな訳あるか。殴るぞおっさん」
「ミシェルはまだ嫁に出さねぇぞ!!」
「落ち着け親馬鹿。お前の娘今5歳だろうが」
泣きながら娘に結婚を考え直すよう懇願する男の何と無様なことか…。ナンシーは本気に捉えておらず、子供の一時の発言としか考えていないのだろう。本気泣きしている旦那見りゃ、冷静になれるのも頷ける。
と、ここでまたセザールが余計なことを聞いてきた。
「お嬢ちゃん、この兄ちゃんのどこが良いんだ?」
「えっとねー、強くて優しくてかっこよくて、あと美味しいもの作れるの!王子様みたい!」
果たしてこの少女はリアルの王子を見たことがあるのだろうか…?現実の王子は料理どころか着替えすら出来無さそうに思えるが。俺の勝手な王子像だから確証はないが、あの王子2人が台所に立つ姿は想像出来ない。
横から小突いてくるセザールの口に肉突っ込んで黙らせると、今度は少年…イリヤが話し掛けてきた。
「イサギさんはどうしてそんなに強いんですか?」
「俺が?別に強くはねぇが…」
「何を言うか、あのデモン・タランチュラを蹴り1つで倒しただろう。あれを強いと言わず、誰に言えば良いと?」
「そうですよ!その後にも、川で休憩していた時に襲ってきたジャイアントキャットフィッシュを飛び蹴りで倒したじゃないですか!」
老人のラウも加わって、俺の撃退した動物がいかに強いかを語り始めた。
まず、デモン・タランチュラは名前から分かるが、猛毒持ちだ。しかもこれがデカいの何のって…。馬車を潰せる程の巨体で襲い掛かられたら、そりゃ誰だって攻撃するに決まってる。
ザーフィァから降りて地面を蹴った時の衝撃は今でも忘れない。軽く走ったつもりが何故か3m近くの高さを跳んでいて、そのままデモン・タランチュラの頭に着地しただけで倒していた。
自分の身体能力がここまで向上しているのかと驚きを隠せなかったが、慣れるのにそう時間は掛からなかった。
イリヤの言うジャイアントキャットフィッシュも、簡単に言えば馬鹿デカい鯰だ。川から突然飛び出して一飲みにされそうになったが、そこも飛び蹴り1発で済んだ。
思った以上に自分が魔獣と対等に戦える能力を持っているんだと分かると、自信が湧いてくる。まぁ、流石にデュラン・ユニコーンレベルの魔獣なんて相手にしたら死ぬだろうけどな。
「俺もイサギさんみたいになれるかな?」
「俺みたいに…?」
「うん!俺も、イサギさんみたいな強い冒険者になりたいんだ!」
「………」
ひょっとしなくても俺、最初から冒険者だと思われていたのか?こんな軽装なのにか?
確認でセザールに聞くと、どうやら全員が俺を単独で動く従魔を従えた冒険者に見えていたらしい。ポテト食いながら遠い目をする俺を見て異変に気付いたセザールは恐る恐る俺に尋ねる。
顔色が悪いのは決して気のせいとかじゃない。
「えーっと?ひょっとして兄ちゃん、ただの旅人なのか?」
「誰も冒険者だなんて言ってねぇんだが」
「ッ…、す、すまねぇ!完全に俺達の早とちりだった!なのに、依頼なんてしちまって!」
「いや、そこは俺が自分で請け負ったんだから問題ないと思うが」
「だが、見ず知らずの俺達のために兄ちゃんが危ない目に遭う必要は…」
「どうせ行く先は一緒だったんだ。なら、情報収集ついでに護衛しても俺にデメリットはない」
「しかし…」
「くどいぞ、おっさん。さっきまでの失礼な態度の方がまだマシだ」
額に青筋浮かべた俺が余程恐ろしかったのかセザールは首を何度も縦に振って黙った。他の奴も納得してくれたのか、それ以上は聞かなかった。
唯一話を理解していないミシェルは、俺の膝の上に座って俺にポテトを差し出す。
「お兄ちゃん、あーん」
「…ん、ありがとな」
「ミシェルはお兄ちゃんのおヨメさんだからね!」
アランが焚火の側から離れて体育座りでのの字を書いているのは無視するとしよう。
そしてこの5歳児からの求婚にどう対処すべきか…。
……おい、ガーティ。顔逸らして笑ってんじゃねぇぞ。
子供にモテる男装女子っていうのも斬新ですかね…?




