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男装ホストの異世界旅行記  作者: エルモ
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19話 初の依頼

 そこかしこでザーフィァの突進する音と盗賊達の悲鳴が聞こえる中、俺は抵抗していた男連中に話を聞いた。

 この馬車は王都の近くにあるそこそこ大きい街から出た人間と荷物を運搬する便で、俺が行く予定の街が目的地なのだが、その途中であるここで盗賊に襲われていたところを俺が助けたって話だ。

 馬車の持ち主で御者の無精ひげの男が感謝の握手をと強く俺の手を握る。



「ありがとうございます!お蔭で助かりました!」

「たまたま行く先だっただけだ。それで、怪我人は居ないのか?」

「大怪我を負った人は居ません。ただ、彼が…」



 御者の男が申し訳なさそうに視線を向けた先には、棒を持って立ち向かっていた少年が腕を押さえて座っている。抵抗した時に軽く斬られたのだろう。血はそんなに出ていないから、出血多量の恐れはない。

 少年はザーフィァの戦いぶりを見て呆然としており、俺が目の前に現れると肩を震わせて驚く。



「怪我したのか」

「こ…、これぐらい平気、です」

「いいから見せろ」



 腕を庇う少年の手を払い、傷を見たが毒とかの心配はないようだ。ガーティも傷口の匂いを嗅ぐが特に問題はないと首を振る。俺はザーフィァにやった時と同じように傷口に手を当てて魔力を込める。



「"治癒(ヒール)"」



 掌から魔力を傷口に注ぐイメージをしていると、あっという間に傷は痕も残さず消えていた。今日だけで2回やったが、身体には影響がないから魔力を使った実感が湧かない。

 後でスマホで確認しておこう。



「え…、す、スゴい!なくなった!何で!?」

「は?」



 少年は腕を触って傷がないことを確認すると、俺を眩しいくらい輝いた目で見てくる。けど待て、これただの魔法だろ?初心者の俺でも出来る魔法で何をそんな興奮することがあるんだろうか。



「あ、アンタ…そりゃ回復魔法か!?」

「そうだが…。魔法なんて別に珍しくねぇだろ?」



 手を握ったり開いたりして魔力の感覚を確かめながら尋ねると周りは信じらないって顔で俺を見る。何がそんなに驚くことなのか理解出来ないでいると、もう1人の男が咳払いをしてから説明し始めた。



「回復魔法っていうのは神官…神聖な職に就いている人間か、とても魔法に長けた魔術師じゃなきゃ習得出来ない高度な魔法なんだよ」

「はぁ…」

「アンタ、変わった格好しているが……魔術師じゃねぇのか?」

「違う」

「だったらどうやって…?」



 これ説明する必要あるのか?正直詮索されてるみたいで気分が悪い。

 俺の心情を察したガーティは俺の腕の中で男に向かって威嚇した。毛を逆立てて唸るガーティに驚いた男を、馬車の中に居た女が諫めた。



「貴方、命の恩人の方に失礼よ!」

「あ、あぁ、すまなかった。これ以上は聞かない」



 終始男を睨むガーティの頭を撫でて宥めているうちに、ザーフィァが盗賊達を魔法で出来た球体に入れて連れてきた。その後ろを普通の馬が震えながら歩いてきたので、俺の言うことはしっかり守ってきたようだ。

 球体の中がグロッキーなことになってるが…まぁ良いとしよう。


 褒めてくれと目を輝かせているザーフィァを無視する訳にもいかず、盗賊達そっちのけで俺はザーフィァの撫でれる場所全部撫でて褒めた。満足したザーフィァを馬車から少し離れた場所に座らせてから会話の続きをする。



「この辺は盗賊が出るのか?」

「いや、そんな話は聞かなかった。あの武器の紋章…、あれはデザール連合国の兵士に支給されてるソードだ。あいつ等きっと、デザールの元兵士なんだ」



 盗賊から回収した武器の中で同じ剣がいくつもあるから気になってはいたが、合点がいった。そうなると、この盗賊達…ただの盗賊になりすましたデザール軍の回し者かもしれねぇな。交易の妨害を盗賊の仕業に見せてジワジワ攻め入っているという考えが思い浮かぶが、確証を持てるモンがないし、そもそも俺は国の事情なんてどうでもいい。


 御者の男に盗賊達をどうするか聞いたら、次の街で憲兵に突き出すと言う。罪人を捕まえると報酬として金がいくらか貰えるというシステムが存在するのを説明してもらった。

 今回は俺の従魔であるザーフィァの手柄なので主人である俺が報酬を貰う形になる。最初は断ろうとしたが、ガーティにボソッと『路銀は多いに越したことはないわ』と言われて渋々承諾した。兵士に顔を覚えられるのではないかという不安がある俺としては、出来るだけ関わりたくなかったんだがな…。


 話はそれでまとまった、と思っていたが実は終わっていなかった。御者の男が真剣な顔で俺の手を握って懇願し始めたのだ。



「アンタの魔法と、従魔の強さを見込んで頼みがある。俺達の護衛をしてはくれないか?」

「護衛?」

「報酬は出す。金貨2枚だ、どうだ?」



 確かに、俺とこの馬車の連中の行く先は一緒だし、この先の街について色々情報が欲しいな。ザーフィァもまたあんな連中が現れたら喜んで倒しに行ってくれるだろう。

 馬車であとどれぐらいの距離なのか聞くと、遅くても明日の夕方には到着出来ると言われた。それぐらいの距離の護衛で金貨2枚なら、別に請け負っても俺に損はない。むしろプラスだ。



「いいぜ、護衛だな。報酬は金貨2枚と…あと情報だ。次の街についてでいい」

「分かった。それで頼む」



 こうして、俺は御者の男に雇われて護衛をすることとなった。

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