17話 昼食の準備
ザーフィァを引き連れて歩くこと数時間、日は高く昇り真上に差し掛かった。時計がないので正確な時間は分からねぇが、昼なのは確かだ。
小腹が空いてきたし、簡単な飯でも作ることに決めた俺は再び道から外れた草原に場所を確保した。
「何でもいいか?」
『えぇ、私もザーフィァもイサギと同じ食事で大丈夫だから、気にしなくていいわよ』
そうなると、俺としては簡単な料理がいい。材料はそれなりの量を収納しているからそこまで困らないだろう。
ただ、火がないのがかなり辛い…。これ魔法とかで何とかなったりしねぇか?
ガーティに火について聞いてみるとあっさり大丈夫だと返された。ザーフィァに魔法を少し教わって出来ることが増えたのだと。俺に教えてくれてもいいだろ。
取り敢えず、火の件はザーフィァが魔法…なのかどうか判断つけ辛いが、鼻息一つで着火してくれたから解決した。鼻から火ぃ吹くユニコーンとか斬新すぎてビビったわ。
これでもザーフィァは火の魔法が苦手な部類に入るらしく、今みたいな着火程度しか出来ないらしい。俺から見りゃ十分なんだが、本人が勝手にしょげたので慰めてから調理に入る。
収納からバタータ、カロータ、チポッラ、ポモドーロ、あと高かった豚肉を取り出す。安い肉は俺の舌に合わない、なんて金持ちみたいなことが起きちまったので仕方なく肉は高い奴を買ってきた。店主のホクホク顔が地味にムカついた…。
『何作るのかしら』
『楽しみだ』
「おいそこ、変にプレッシャー掛けるな」
外野がキラキラした目で俺を見るモンだから気が散って仕方がない。そこで俺はザーフィァにその辺を散歩がてら調べてもらうことにした。近くに物騒なモン持った奴が居ないかどうかという調査だ。そんな連中が近くに居ると分かれば避けて通ることも可能だ。鉢合わせなんて面倒以外の何物でもない。
ザーフィァが目を光らせて『見つけたら始末していいか?』とか聞いてくるから、「襲い掛かってきた時限定でな」と注意しておいた。下手したらただの通行人を血祭りに上げちまうかもしれないので、キツく言いつけてから散歩に行かせる。
ガーティは俺の側に居ると聞かないので適当にその辺に座らせている。ザーフィァの監視役を任せるつもりだったので手持無沙汰だ。
『気にしなくていいわ。でも…そうね、"結界"ぐらいは張っておこうかしら』
「は?」
ガーティが何か言ったかと思えば、突然鈴の音が鳴り響き、俺とガーティの周り半径50m程を光る透明な壁が囲んだ。一体何なのか問うと、ガーティは尻尾を揺らして答えた。
『"防御魔法"って言う魔法の1つよ。凄いでしょ?ザーフィァに教わったのよ。私の力じゃこの辺りに出没する弱い魔獣しか防げないけど、無いよりはマシでしょう?』
「そうかもしれねぇが…俺に教えれば問題ないだろ。何でガーティなんだ?」
『あら、従魔を使わないで自分で何でもしちゃうなんて守り甲斐のない主ね。私じゃ不安とでも?』
「そうは言ってねぇよ」
『なら問題ないわね。ゆっくりでいいから、食事楽しみに待ってるわ』
鼻歌でも歌いそうなくらい機嫌良くなったガーティは香箱を組んで寝る。我が愛猫ながら人を丸め込むのが上手い…。これも客から学んだとか?先が思いやられる。
けど、結界か。旅をする上であるとかなり嬉しい魔法だな。俺も出来るようになれば夜に結界張って寝れそうだ。意識が無いうちに魔獣に襲われて翌朝俺の残骸が見つかるのは嫌だから、あとでザーフィァに教わるとしよう。頼めば教えてくれるだろうし。
気持ちを切り替え、今日の昼飯の豚肉のトマト煮を作る。シンプルだが、味の調節が簡単なのが利点の料理。小腹程度を満たす料理ならこれぐらいで丁度良いだろう。野菜と肉がある料理で味付けが野菜の味をベースにしているからガーティもザーフィァも問題ない筈だ。
ジャガイモとニンジンは一口サイズに、玉ねぎはみじん切りに切る。ベースにあるトマトはみじん切りにしたあと、スプーンで潰しまくった。魔法でピューレとかに出来ると助かるんだけどな。
豚肉も一口サイズに切ってから鍋を火にかけ、食用の油を入れる。油に続いて玉ねぎを入れ、透明になるまで炒める。それが終われば、今度は豚肉も入れて表面に焼き色がつくまで炒める。この時点で結構良い香りなんだが、まだ終われない。自作のトマトピューレと水、あとこの世界の家庭で使っているスープの味付けに欠かせない粉を入れて5分ほど煮込む。
この粉、舐めてみたらコンソメスープに近い味がした。今まで使っていたのより味が薄いので、普通の倍の量を入れて味を確かめる。
…ん、問題なさそうだな。
時間が経ったら、切っておいたジャガイモとニンジン、それと砂糖も入れて蓋をする。とろみが出るまで煮込んだら、塩コショウで味を整えて完成だ。
「出来たぞ。…あ、そういやザーフィァ、散歩に行かせたは良いがどうやって呼び戻せば……」
『イサギ、指笛出来るわよね?それで呼べるんじゃないかしら?』
「根拠もなしに何言ってんだ。そんなんで呼べたら大助かりだけどよ」
『やるだけやってみたら?駄目なら私が探してくるわ』
「分かった、やるから少し待ってろ」
急かされながら俺は親指と人差し指で輪を作って咥え、ザーフィァが入っていった森に向かって指笛を吹く。笛の音が消えるのと同じタイミングで森から何かが走って近付く音が聞こえた。音の方角を向くと、ザーフィァが何かデカいウサギを咥えて引きずって走ってくる。
パッと見エグいんだが…、何してたんだ?アイツ。
『おかえり、ザーフィァ。あら、そのウサギは何かしら?』
『グレートスプリングラビット。肉が美味いから狩ってきた』
「デカいウサギだな。…………え、ザーフィァって狩りとかするのか?」
『俺は食い物なら何でも食うから、その辺の草より肉の方が美味いなら狩って肉を食う』
「あー…、なるほど」
俺の中のユニコーンのイメージが簡単に覆された光景だった。




