14話 何か見つけちまった
トロイメラの門から歩いていると、4つの道に分かれる分岐点に差し掛かった。俺が行きたいのはシスネロス王国で、王子の話じゃ西にあるから西に向かうべきなんだろうけど…いかんせん方角がさっぱりだ。門番の誰かに聞いておくべきだったかと後悔するが、したところで何かが起きる訳でもないので気持ちを切り替える。
4つに分かれている道だが、中々分かり易く出来ている。4つの内1つはレンガで舗装された大きな道、残りの3つは人工的ではあるがそこまで整備が出来ていない土の道。更に舗装されていない道の1つは鬱蒼と茂る森の中へと続いている。この先にどんな街があるのかは大体想像がつく。
舗装されている道はトロイメラと物流が盛んな街があると考えられる。あの駄王のことだ、金目な物を運搬する道のためには拘ったんだろう。城があるトロイメラの街を王都とすれば、その王都と交流している街も相当デカイんじゃないか?特産品とかがあるなら、王に見てもらえるかもしれない品なら妥協なんてしない筈だ。それなりの設備や人員が必要になり、自然と街もデカくなる。
すると他の3つの道の先はあまり期待出来ない。その内の1つなんか森の中で、木のお蔭で数m先の道が見えなくなってるからな。魔獣がどんな場所に出てくるとかは詳しく聞かなかったが、間違いなく何か出ると断言出来る道だ。そこまで馬鹿じゃないので、まずこの道は無しだ。
残りの2つはまだマシな方だが、舗装された道を見るとどうも不安を覚えてしまう。行った先の村が安全かなんて分かる訳もなく、結果俺は冒険をしないことに決めた。
どれが外れかなんて分からねぇが…そん時はそん時だ。
ガーティにも了承を得た俺はサクサク進み続ける。途中変な鳴き声の鳥が空を飛んでいるのを目撃したが、今の所魔獣の出没はない。意外と平和なんだなとか思いながら歩いていると、ガーティが急に顔を上げて遠くを見た。視線の先には、さっき別れた道の先にある森だった。
嫌な予感がする中、ガーティにどうしたのかと尋ねる。ガーティの声音は少し低く、真剣そのものだった。
『何かが…泣いているのかしら?凄く苦しそうな、悲しい声がするの』
「人間か?」
『違うわね。でも気になるの、お願いイサギ…』
尻尾で森を差しながら俺の首に顔を埋めて懇願するガーティに、俺が出来ることなんて1つしかなく、溜息を吐きながら道から外れて草原を突っ切る。分岐点で散々悩んだってのに、結局1番アウトな道に行くハメになった。
森に入ると中は思っていた以上に明るく、木漏れ日なんかで道が分かる。魔獣がうようよ居るのかと思っていたが、魔獣は疎か虫一匹も居ない。拍子抜けするが、ガーティが聞いた声の正体が何か分からない内は油断出来ない。慎重に道を歩き続けていると、ガーティが身を乗り出して前足で方向を示した。
『あっちよ!すぐ近くだわ!』
「あいよ」
言われるがままに足を進めていけば開けた場所に出てきた。俺の身長の倍ぐらいしかない滝と小さな湖だけのこじんまりとした水場だった。
俺の肩から降りたガーティは一目散に湖の反対側まで走り、俺を促す。小走りで向かうと、なんとそこには横たわる見事な青毛の馬が居た。驚いたのはそれだけじゃない。この馬、額に銀色のドリルみたいな角を生やしている。ファンタジーにそこまで強くない俺でも知っている、有名な幻獣…ユニコーンだ。
この世界に来て初めて見たファンタジー要素に焦るが、ユニコーンの脇腹から銀色のドロリとした液体が出ていることに気が付いた。ユニコーンの血って銀色なのか、とか場違いなことを考えながら俺はそっとその傷を観察する。
そこまで深い傷じゃないと分かるが、ユニコーンの息の荒さから体力があまり残っていないと判断出来る。だが俺に治療のスキルなんて存在しない。どうしたものかと頭を働かせていると、ガーティが俺の手に自分の前足を置いて口を開く。
『落ち着いて、イサギ。大丈夫、私の言う通りにして』
「ガーティ…?」
『いいから。まず、傷口に手を添えて』
「あ、あぁ。…それで?」
『魔力を注ぐのよ。イサギが持っている魔力を彼の傷口に流し込むイメージで』
「待て待て!魔力自体どんなモンか分からねぇのに、ンなこと出来る訳ねぇだろ」
『大丈夫、イサギなら出来るわ。イメージとしては、身に纏っている温かいオーラよ。それを意識して、傷口に集中するの』
いきなりスパルタな魔力講座が始まり戸惑う俺をガーティはケロッとした顔で急かす。自棄になった俺は、自分の中のエネルギーを掌に集中させ、そこから傷口へと移動するイメージをする。
すると、自分の手から金色に発光した何かが出てきた。ガーティの言う通り、オーラに見えるそれはユニコーンの傷口に入っていき、傷口をどんどん塞いでいく。あまりにも神秘的なその光景に見入っていると、傷口は完全になくなった。俺の手から出ていたオーラも消えたかと思えば、ポケットに入っているスマホがまた震えた。
何事かと電源を入れれば、あの通知が出ていた。
【回復魔法『治癒』を会得しました】
…こんなドタバタで魔法を使えるようになっちまったのか、俺。




