13話 叡智の扉…ヤベェな
叡智の扉にどうやら新しいワードが増えたようだ。ペルセニアについての情報が新しく入ったって考え方で問題ないと見た俺は、雑貨屋をあとにして人気のない路地に入った。壁に背を付けて周りに人が居ないことを確認してから小さく「"叡智の扉"」と唱えると、前回の鑑定した時の画面とは別の画面が現れた。年季が入った羊皮紙に手書きだが達筆な文字が、まるでインクが滲むように浮き出る。
【叡智の扉 ≪ペルセニア編≫
・冒険者 … ペルセニアに存在する職種の1つ。"冒険者ギルド"と呼ばれる組織に所属し、個人から町村、更には国からの依頼をギルドが紹介し、それを冒険者が引き受ける。依頼の種類は多種多様なため、冒険者はパーティを組んで依頼を受ける事が多い。冒険者になるには各都市にある冒険者ギルドで登録を行う。その際登録料が発生するが、冒険者は世界共通の職業であるため国や街に入るために必要な通行料が免除される。ギルドが制定した規約を破った場合、罰金・ランク降格・実刑・奴隷落ちのいずれかに処される。種族を問わずになれる職なため、ペルセニアでは最も人気な職である。
・ランク … 冒険者の階級。上からSS、S、A、B、C、D、E、F、Gと分けられており、冒険者になってすぐは全員Gランクと認定されている。ランク昇格の方法は様々ではあるが、一般的にはギルドが規定した数の依頼を達成することで昇格出来る。例外として、その冒険者の素行が認められない、違法なやり方で依頼を達成したと判断された場合は昇格出来ない。尚、ランク昇格には"ギルドマスター"の許可が必要である。
・魔石 … 魔獣の体内で形成される魔力で出来た石。大きさは魔獣の体格、魔力の多さや純度で変わってくる。魔力の塊である魔石は魔法道具に欠かせず、巷では高額で取引される。魔石は魔獣全てが持っている訳ではないのも高値の理由である。相場では人差し指に乗るサイズの魔石で金貨1枚】
うーわ…、叡智の扉あれば情報収集とかいらねぇじゃねぇか。俺が色々聞きまくって肉食女子に狙われた昨日の買い物は一体何だったんだ…。
仕方なく、コミュニケーション能力と価値観の確認が出来たと前向きに受け止めることに決めた。
ここまで分かるスキルなら、昨日から気になっていた通貨の価値についても知りたい。そう考えただけで画面が新しくなり、通貨についての情報が出てきた。
【叡智の扉 ≪ペルセニア編≫
・通貨 … ペルセニアの通貨は大陸によって価値が変わる。人間が用いる通貨の種類は、純金貨・白金貨・金貨・銀貨・銅貨・鉄貨の6種類。その内純金貨・白金貨・金貨は貴族や王族で使われており、市民でも金貨を持っている者は少ない。
日本円に換算すると、鉄貨…10円、銅貨…100円、銀貨…1000円、金貨…1万円、白金貨…10万円、純金貨…100万円となる】
マジか…、じゃあ周りから見た俺は変わった身形の金持ち男ってことか。道理で悪目立ちすると思ったぜ…。これからは金の出し方に注意しねぇとな。
日常で欠かせない重要な知識を得た俺は早速買い物を再開した。まず先に野宿に必要な道具を買いまくった。ナイフ、火種、寝袋代わりになるモンや水を入れる容器、あとは食器なんかも買った。野宿とは言えまともな飯が食えないのは嫌だからな。他にも色々買うべきか迷ったが、食料もとい調味料を出来るだけ多く持っておきたいのでこの辺で諦めた。
昨日の店以外でも調味料を扱ってる店はそこそこあったので、多く買える店でまとめて買っておいた。これだけで金貨4枚は飛んだから、この世界の調味料は中々厄介だ。自分で作れたら問題ないんだが、俺にそんな技術はないので断念した。スキルを使いこなせるようになるしか方法はないか。
一通りの買い物が終わった俺は、すぐに街の出口へと向かった。行く道で思ったが、出口から町の中心に向かう連中ばかりで俺のように出口に向かう奴が殆ど見当たらない。街の連中はこの街から出るつもりはないようだ。国王の元なら安全だと思っているのか、それとも…。
「おい、次の男。来い」
考え事をしている間に俺の番が回ってきていたのか、門番の男が不機嫌そうに呼ぶ。ガーティの耳が僅かに跳ね、尻尾の毛は逆立つ。余程男の態度が気に入らなかったらしい。
俺は相手にするのも面倒なのでさっさと済ませた。入るのには色々検査するが、出るのには特にすることがないためあっさり通された。こんな単純な作業に一体何をあんなに苛立っているのか分からずに通り過ぎると、聞こえるか聞こえないかってぐらい小さな声でボソリと囁かれた。
「チッ、顔が良いからって偉そうにしやがって…」
それを聞いて、あぁなるほど…と俺は納得しちまった。男装を始めてから何かと言われるのが男からの僻み、中傷、暴言の数々。女にウケるこの姿は男の敵を作ることが多く、道端でいきなり殴りかかってきた奴なんてのも居たから、これぐらいのことはスルー出来る。門番の男の顔は世辞にも整ってるとは言えない微妙な顔だったのが俺の怒気を鎮めるのに十分だった。
俺が門をくぐり終えて暫く歩いた時、ガーティの身体からフワリと光る何かが出て風に流された。一瞬で嫌な予感がした俺が振り向く頃には、門から野太い男の悲鳴が聞こえた。さっきの男の身に何かあったのかと考えた俺は真っ先にガーティを肩から降ろして問い詰めた。
「ガーティ、お前一体何をした!?」
『心配しないで、あの男の髪がすこ~し寂しくなるだけだから♪』
「お前な……」
悪びれた様子もなく悪魔のような所業をするガーティを俺はどう対処すべきか悩む。叱るべきなんだろうが、俺も嫌な思いをしなかった訳じゃない。誰だって悪口なんて聞いたら気分が悪くなるだろうが、俺はただ気にする価値もないと思っていたんだ。それをコイツは…。
『……怒ってる?』
「は?」
溜息を吐きそうになったが、ガーティが恐る恐る俺を見上げながら話し始めたので飲み込んだ。耳まで垂れているところを見ると、反省し(始め)ているようだ。
『…勝手なことして……、その…ごめんなさい。でも私!イサギが悪く言われるの、嫌なの!』
心なしか喋り方が幼くなっている気がする。ひょっとしたらこっちが素とか?そんなことを考えつつも、ガーティを抱き締めて頭を撫でる。俺のことを思ってしたとなれば、叱る気にはなれねぇよ。
「次はするな、分かったか?」
『うん、しない…』
「ならいい。さっさと行くぞ」
『えぇ!』
落ち込んでいたのが嘘のようにピョンと元気に俺の肩に飛び乗るガーティを見ていると、俺…ひょっとして絆されてる?とか考えそうになる。次はちゃんと叱らねぇとな…。




