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男装ホストの異世界旅行記  作者: エルモ
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12話 マルガとの約束

 店主と女将に挨拶と礼を言った俺は、すぐに部屋に戻ってガーティを迎えに来た。が、そこには先程まで一緒に遊んでいたマルガとガーティの姿がなかった。俺は部屋の中のありとあらゆる場所を探したが見つからず、部屋から飛び出して玄関に居た女将に事情を説明した。もしかしたら他の客が2人を攫ったのではと考えたりしたが、女将が凄く申し訳なさそうな顔でペコペコ頭を下げてきた。

 訳が分からないまま女将に促された先は食堂の隅で、そこにはガーティを抱き締めて座り込んでいるマルガの後ろ姿があった。瞬時に状況を把握した俺に店主と女将が2人して頭を下げる。



「申し訳ありません、すぐに離しますので…」

「やーだー!!ガーティちゃんと一緒だもん!おにーちゃんとずっと一緒に遊ぶんだもん!!」



 俺、遊んでやった記憶ねぇんだけど…とは言えず、俺はマルガの後ろにしゃがんで出来るだけ目線を合わせる。気配を感じたのか、マルガの肩は過剰に見える程跳ねた。マルガの肩に顔を乗せているガーティは俺に必死のSOSアピールをしているので、なるべく早めに救出しなければ…。

 後ろからマルガにそっと声を掛ける。



「マルガ」

「…やだよぉ、おにーちゃんとガーティちゃん…行っちゃやだぁッ」



 グズグズと泣き始めるマルガを、俺は後ろからゆっくり抱き締めた。マルガの小さい体は震えていて、両親に叱られるのを覚悟で駄々を捏ねていたのだと理解した。少しでも時間を稼ぐために。俺とガーティとの時間が少しでも長くなるように…。

 マルガが一番分かっているんだ。どうにもならないことなんだって、ちゃんと理解しているのに、それを子供心が許さなかったんだ。宿屋の娘としての立ち振る舞いと子供としての想いが葛藤した結果なんだと思うと、いじらしく思えて仕方がない。


 震えながら泣くマルガの頭にキスをして、俺は地声の中でも極めて優しい声で話し掛けた。恐らく接客中でも出ないであろう、自分でも驚くような声で。



「マルガは、俺とガーティのことが好きなのか?」

「っ…すきぃ!大好き!」

「そうか、俺もマルガのこと好きだぜ。勿論ガーティもマルガのことが大好きだ。俺もガーティも、マルガのことは絶対に忘れない」



 抱き上げてマルガの目を見れば、大きく見開いたままポロポロと涙を流し続ける。涙を指で掬ってマルガの額と自分の額をくっつけながら、俺はこれからの旅のことを話す。



「俺達はこれから、シスネロス王国に行く。それから先のことはまだ分からねぇが…その旅が落ち着いたら、マルガに会いに来る」

「…ホント?」

「ん?マルガは俺が嘘を吐く人間に見えるのか?」



 俺の少し意地の悪い質問にマルガは首を横に振って否定し、自分の手で涙を拭ってから笑った。曇天のような顔をしていたのに、今はすっかりご機嫌な様子だ。



「絶対、絶対だよ!約束して!」

「あぁ、約束する。だからマルガも、約束してくれ。今度会った時も、笑顔で迎えてくれ。出来るか?」

「うん!出来るよ!」



 そう言って俺に抱き着いたマルガを抱え直し、店主に渡せばまた女将と一緒になって謝りだす。そんなに謝られてもこっちが困ると説明してやっと止めてもらった。ガーティも呆れているのか溜息みたいな息を吐いて俺の肩に飛び乗る。


 気を取り直して宿の出口に立つと、ガーティが急にカウンターに飛び乗って店主が抱いているマルガの手に鼻先を付けた。まるでキスしているように見えるガーティの仕草に一同はポカンとするが、ガーティはそのまま店主、女将の手や足に擦り寄る。その時、俺にはガーティの体から光るオーラのようなものが出ていることに気が付いた。超常的な何かを実際に目にしてしまった俺は、頬がヒクつくのをグッと堪えるしかなかった。

 一通りやって満足したのか、ガーティはまた俺の肩に飛び乗って悠々とした態度で座った。人の気も知らねぇで…。


 店主達はガーティが何をしたのかよく分かっていないが、懐いてくれたぐらいに思ったらしく、最後は嬉しそうな笑顔で見送ってくれた。真実とまではいかなくても、何かあると知っている方としては心苦しい。なるべく早くこの街を出ることに決めた俺はマルガに手を振ってすぐに街の出口を目指す。






 昼前の街は昨日と同じくらいの活気だが、出口に近付くにつれて歩いている人間の様子が変わっていくことに気付く。昨日よりも武装した人間がずっと多く、団体で動いている連中が殆どだ。それが昨夜店主が言っていた"冒険者"って奴なんだと気付いたのは、街にある雑貨屋に入ってからだ。


 中には屈強な男達が変わった道具を手に取って話し合っていた。買うか買わないかの相談だと思った俺は、その男達と程良く距離を取って棚の商品を見る。男達も俺の存在に気付いているが、特に声を掛けたりはしない。色んな恰好の奴が居る地域のお蔭か、昨日よりも視線は感じにくい。完全に視線がなくなった訳ではないから、チラホラと目が合うことはあるがな。


 変わった商品なんかを見ていると、男達は俺の存在を気にしなくなり、会話の続きを話し始めた。



「クソ、高いな~…。最後に王都に来てみたってのに、これじゃ無駄足だぜ」

「言うんじゃねぇよ、ったく。俺達みたいなDランクの冒険者じゃ、まだ魔石は買えねぇよな…」



 "Dランク"、"魔石"…。また新しい単語が出てきたなとか考えていると、スマホが震えるのを感知した。コートのポケットに入れていたスマホをそっと盗み見ると、画面にはあの通知が出てきていた。



【叡智の扉に"冒険者"、"ランク"、"魔石"が追加されました】



 スマホのあまりの高性能に俺は眩暈を覚えてしまった。疲れる…。

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