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泣きたい気分

作者: つねならむ

 1.祭りのあと

「ぎゃー!!!!!!!!!!!」


 隣人の叫び声で目が覚めた。


 目覚めの悪さと、昨夜の深酒のせいで頭が痛い。


 ベッドを抜けリビングに入る。


「oops. なんて日だ。。。」


 見たことの無い景色に理解が付いてこない。

 きっと夢を見ているだけで、眼に映るものは

 現実ではない。


 アルコールが残っているせいだと言い聞かせ

 気絶するようにその場に倒れ込んだ。


 何分くらい経ったのだろうか。


 目を開けると、これまで見たことのない酷い

 状況に変化はなく、現実を受け入れざるを

 得なかった。


 壁紙は、黒く塗られ、そこに英語の

 メッセージが書かれている

 知らないロボットが怪しく動き回り、

 元に戻したいならコインを払えと迫ってくる。

 しかも30秒おきにだ。


 2.受け入れ難い現実

 部屋を見渡すと、今まで集めた大事な物や写真、

 卒業アルバム、旅行のビデオ、手紙、資料

 何もかもひどい状態であった。


 よく見ると、元に戻したければ、

 コインを支払えと書かれた紙切れが辺り構わず

 散らかっている。


 何が起こったんだ。


 このマンションは、セキュリティが高く

 部外者は入れない

 外部から何かに入られたのだろうか。

 いやそんなことは、ある筈が無い。


 玄関を開けると、郵便受けに何か見慣れない

 装置が取り付けられていた。

 雑誌か何かでみた永遠の蒼という

 新しいブランド、The Shadow Brokersの

 ダブルパルサーに似たものだった。


 隣人の家の玄関も同じようになっていた。

 叫び声は、この隣人からだろう。


 他の部屋も同じような状況だった、

 何も変わらない部屋も数件あった。


 何も変わらない部屋の玄関をよくみると、

 郵便受けが妙に新しくなっている事に

 気がついた。


 相変わらず、リビングはひどい状態で

 トイレやバスルーム、キッチン、ベッドルーム

 全ての部屋が散々な状態になっていた。

 そんな事実を突きつけられても、

 我ながら驚くほど冷静だった。


 30秒おきにやってくるロボットは蹴飛ばしても、

 何事も無かったように起き上がり、

 また目の前にやってくる。


 3.見落とした警告

 思い返すと、マンションのロビーにある

 掲示板に大きな告知が1月前から張り出されて

 いた。


「緊急。郵便受けに不具合があるので、

  可及的速やかに新しい物に交換してください。

  無償です。」と。

 こんな事はよくあることで、ドアの建て付けが

 悪いだの水が漏れることがあるだの、

 経年劣化の部類の些細な問題だと

 鷹をくくり無視していた。


 このマンションは、Win7と呼ばれている、

 最新では無いが、そこまで古くは無い。


 隣の古いマンションは、WinXPと呼ばれ、

 何やらメンテナンス業者が撤退したためか、

 構造上の問題なのか数年前に退去するように

 通達があったらしい。

 そこから移ってきた住人もこのマンションには

 多数いる。


 そういえば、WinXPには人が住んでいない

 はずだが夜になると明かりが灯った部屋が

 幾つもある。

 全員は退去していないのであろう。

 いつまで撤去されずに残り続けるのだろうか。


 このマンションの後に、Win8やWin10という

 最新の物が建設されている。


 どうやら新しいマンションは、最新の設備になり

 様々な物がバージョンアップしているらしい。


 驚くことに新しいコンロは、お湯を沸かす時間が

 半分ですむ。


 喜ばしい事だが、カップ麺にお湯を注いでから、

 待つ3分に変化は無く、それを食べる

 自分のペースも早くなることはない。


 これといって今の部屋に不満はなく、

 移り住むまでの魅力を感じるには至ってはいない。


 そういえば賃貸借契約を結ぶ時に、

 何やらオプションを付けたほうが良いと

 勧められ深く考えずに、契約した事を思い出した。


 このオプションは、「新しいマンションが

 建設されたら、優先的に無償で移り住む権利が

 与えられる」


 引っ越し費用や新しい家財などは、

 当然、自分で支払わなければならない。

 あのころは、細かい事を理解せずに

 新しいマンションが出来る度に引っ越す事を

 夢見ていたんだろうか。


 このWin7もあと3年もすればWinXPと同じ状況に

 なることを思い出した。

 正確には、知ってはいたが、日々の生活が忙しく、

 このことを考えることを避けていた。


 4.昨日の過ち

 昨晩のことだ、初めて入った店で支払いを済ませ

 手土産を貰ったことから始まる。


 いつもよりも飲みすぎたせいか、崩れるように

 ベッドに横になり、ふと手土産の入った袋を

 覗いた。


 そこには、「色々な悩みが解消される、

 有名人の秘密の情報、絶対に儲かる投資

 誰にも見られないように、そっと部屋で

 開けて下さい。」

 と書かれた手紙が添えられていた。


 普段だったら、絶対に開けないと思うのだが、

 その夜は深酒のせいか、初めての店で飲んだ

 名前の知らない酒のせいなのか

 興味本位で開けてしまったようだ。

 記憶が定かではないが、そのまま眠りについて

 しまったようだ。あまりにも馬鹿馬鹿しい。


 5.不穏な活動

 箱の中からは、見慣れないロボットのような物が

 多数現れた。

 ロボットは、まるで自我を持つように

 プログラミングされているようだった。


 実行開始、これからミッションを開始する。


 1.他の部屋に侵入し、これから行うミッションと

  同様の事を実行せよ。


  手始めに、玄関の郵便受けにダブルパルサーを

  設置せよ。

  他の部屋の郵便受けにも同じ事をおこなうこと。

  このマンションに限らず、到達できる範囲で

  無作為に同様のミッションを実行せよ。


 2.侵入に成功した後に必要な物を速やかに設置し

  即行動を開始せよ。


 3.壁紙を書き換えよ。


 4.大切な物を破壊、もしくは鍵をかけ簡単には

  復元出来ない状態にせよ。


 5.金庫や隠されているものをこの部屋から

  探し出し、全てに鍵をかけよ。

  ただし、一部のゴミのような物は、無視して

  構わない。

  なお、ガス、水道、電気等の重要な設備には

  変更を加えないこと。


 6.解除するための解除キーを入手する方法を

  ターゲットに提示せよ。


 7.解除キーをTorトランシーバーから司令本部に

  通知せよ。


 8.仲間が殲滅されないように、必ず動作するものを

  隠しておけ、玄関が空いたら即起動できように

  準備せよ。


 数分のうちにミッションは、完了し

 見るも無残な状況になった。

 他の部屋も同様だった、そして今もなお近隣に

 広まり続けている。


 6.これから先

 隣の住人は、目覚めると見るも無残な状況に

 思わず声を上げた。

 昨日は何もしていないし、外出もしていないにも

 係わらずだ、目の前で起こったことが

 理解できないようである。


 その隣の住人も違う階の住人も同じ状態に

 なっていた。

 後から知った話だがWin7は被害が最も

 大きかったらしい。


 郵便受けを交換した住人は、何の変哲もない

 日常生活を送っていた。

 それは、郵便受けを交換する手間を

 惜しまなかった為に得られた平穏な日常だった。


 もし時間を戻せるなら箱を開ける前に戻りたい。


 迫ってくるロボットの言うように、

 コインを払うだけで元に戻るなら

 払いたいとも思ってしまった。

 しかも3日以内なら、コインの枚数も

 ディスカウントされている。


 何から手を付けたら良いのやら途方に暮れる。

 まったくもって、泣きたい気分である。


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