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③アクアツアーの不気味な生き物、その正体

「さて、気を取り直して……次行こっか、まえ氏!」

「さすがだね、キサたそ。偉いね、夢壊されても、強い子だね。良い子だね」

「あの、なんか、ちょっと……やめてください……お願いします」

「ごめん」


 ✳︎


 裏野ドリームランドの噂

 ③アクアツアーで目撃される不気味な生き物


 ✳︎


 アクアツアー――水の旅行? とにかく舟に乗って、水上をまわるのである。しかもここは、謎の生物が生息しているといういわく付き。

 キサたそは一見、ホワンとした儚げな少女だが、意外とアクティブだ。そもそも、ここまでにキサたその詳細な外見描写がなかったので、意外と、と言われても困るかもしれない。ちなみに自分(まえ氏)は男である。女の子の親友が男の子ではいけないという決まりもないし、親友との遊園地だから、これはデートではない。しかも既に廃園なので、ムードもヘッタクレもない。これはひと夏のホラー体験談である。

 と、さっきから自分は何を……というのも、キサたそが自分の服の裾を引っ張りながら、後ろをついてくるのである。彼女曰く、「ラム・ドンはなにがあってもラム・ドンなんだ!」とのこと。どうやらキサたそ、事故の後遺症が深刻である。


「大丈夫だよ、ラム・ドンは本物がいるって。ただ、さっきのは少し……その……休憩中だったから、代わりの人がやむを得ずに」

「まえ氏ぃ……」


 キサたそ、いまだ半泣きである。


 そうこうするうちに、アクアツアーの乗車入り口に到着した。これまた無人のはずだが、なぜだかキサたそが声をかけると、機械が作動。もはや魔法か? それにしても、考え方を変えれば、一日中貸し切り状態である。良いことではないか!

 またもや、自分たちは舟の先頭付近に座った。否、アクアツアーでそんな端っこにって、水を被ったり、落ちたりするんじゃないか……?


「も〜、まえ氏はビクビクし過ぎ!」


 ようやく元気を取り戻したキサたそ。


「写真撮れるかなぁ? どんな生き物なんだろうね〜大きいかな? 写真に入りきるかな?」


 やはりキサたそは強い子なのだと、つくづく思った。


 舟に乗ってしばらくの間、相変わらずの曇天だったが、ツアーはつつがなく進行した。どこかのジャングルを真似た人工の水路を、舟はゆっくりと進み、二人して「あれは凄い」「こっちも迫力がある」と話し合いながらも、少しは晴れてくれれば、水の上も気持ち良く感じるだろうにと思い……でもそれなりに楽しかった。


 “それ”が現れたのは、ツアーも終盤というときだった。


「だと思いました……」

「来た来た来たよ、まえ氏ー!」

「わかった。わかってるから、そんな前のめりになって落ちるからキサたそっ!」


 舟は一見ゆっくりなのだが、実はそれなりのスピードがあるので、今ここで万が一にも落ちたら――モーターに絡まるキサたそを想像してしまい、むしろ自分はそちらの方にぞっとする。

 謎の生物なんて目撃したところで、こちらに危害が来なければ、自分にとって、さして脅威ではない。

 それに、謎の生物の正体はもうわかった。またしても、『ラムリー・ドン=ウサギ』である。

 突如として水中から覗く、巨大な影。数十メートルはあるのではないかというその影に、最初はたしかに自分も恐怖を感じた。しかし、


 ――  ぷ  は  っ


 水分を多量に摂取したことで、膨張? 巨大化したラム・ドン。そのシルエットがはっきりとしたところで、自分の興味は減退していった。またお前か……と。ラム・ドンが水面から顔を出したところで、キサたそも、ようやっとその正体に気づき……


「キィアアアアアア〜〜〜〜!」


 奇声を発した彼女は、そのまま白眼を向いて仰向けに倒れた。それはもう、盛大に、バゥンッとバウンド付きで。おまけにタラッと一筋の鼻血を垂らしながら――彼女の白い肌に、その赤はよく映えた。

 キサたそ……君の方がよっぽどホラーだよ。

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