③アクアツアーの不気味な生き物、その正体
「さて、気を取り直して……次行こっか、まえ氏!」
「さすがだね、キサたそ。偉いね、夢壊されても、強い子だね。良い子だね」
「あの、なんか、ちょっと……やめてください……お願いします」
「ごめん」
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裏野ドリームランドの噂
③アクアツアーで目撃される不気味な生き物
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アクアツアー――水の旅行? とにかく舟に乗って、水上をまわるのである。しかもここは、謎の生物が生息しているという曰く付き。
キサたそは一見、ホワンとした儚げな少女だが、意外とアクティブだ。そもそも、ここまでにキサたその詳細な外見描写がなかったので、意外と、と言われても困るかもしれない。ちなみに自分(まえ氏)は男である。女の子の親友が男の子ではいけないという決まりもないし、親友との遊園地だから、これはデートではない。しかも既に廃園なので、ムードもヘッタクレもない。これはひと夏のホラー体験談である。
と、さっきから自分は何を……というのも、キサたそが自分の服の裾を引っ張りながら、後ろをついてくるのである。彼女曰く、「ラム・ドンはなにがあってもラム・ドンなんだ!」とのこと。どうやらキサたそ、事故の後遺症が深刻である。
「大丈夫だよ、ラム・ドンは本物がいるって。ただ、さっきのは少し……その……休憩中だったから、代わりの人がやむを得ずに」
「まえ氏ぃ……」
キサたそ、いまだ半泣きである。
そうこうするうちに、アクアツアーの乗車入り口に到着した。これまた無人のはずだが、なぜだかキサたそが声をかけると、機械が作動。もはや魔法か? それにしても、考え方を変えれば、一日中貸し切り状態である。良いことではないか!
またもや、自分たちは舟の先頭付近に座った。否、アクアツアーでそんな端っこにって、水を被ったり、落ちたりするんじゃないか……?
「も〜、まえ氏はビクビクし過ぎ!」
ようやく元気を取り戻したキサたそ。
「写真撮れるかなぁ? どんな生き物なんだろうね〜大きいかな? 写真に入りきるかな?」
やはりキサたそは強い子なのだと、つくづく思った。
舟に乗ってしばらくの間、相変わらずの曇天だったが、ツアーはつつがなく進行した。どこかのジャングルを真似た人工の水路を、舟はゆっくりと進み、二人して「あれは凄い」「こっちも迫力がある」と話し合いながらも、少しは晴れてくれれば、水の上も気持ち良く感じるだろうにと思い……でもそれなりに楽しかった。
“それ”が現れたのは、ツアーも終盤というときだった。
「だと思いました……」
「来た来た来たよ、まえ氏ー!」
「わかった。わかってるから、そんな前のめりになって落ちるからキサたそっ!」
舟は一見ゆっくりなのだが、実はそれなりのスピードがあるので、今ここで万が一にも落ちたら――モーターに絡まるキサたそを想像してしまい、むしろ自分はそちらの方にぞっとする。
謎の生物なんて目撃したところで、こちらに危害が来なければ、自分にとって、さして脅威ではない。
それに、謎の生物の正体はもうわかった。またしても、『ラムリー・ドン=ウサギ』である。
突如として水中から覗く、巨大な影。数十メートルはあるのではないかというその影に、最初はたしかに自分も恐怖を感じた。しかし、
―― ぷ は っ
水分を多量に摂取したことで、膨張? 巨大化したラム・ドン。そのシルエットがはっきりとしたところで、自分の興味は減退していった。またお前か……と。ラム・ドンが水面から顔を出したところで、キサたそも、ようやっとその正体に気づき……
「キィアアアアアア〜〜〜〜!」
奇声を発した彼女は、そのまま白眼を向いて仰向けに倒れた。それはもう、盛大に、バゥンッとバウンド付きで。おまけにタラッと一筋の鼻血を垂らしながら――彼女の白い肌に、その赤はよく映えた。
キサたそ……君の方がよっぽどホラーだよ。