②ジェットコースターで起こった事故とは
「楽しみだなー。遊園地なんて、何年ぶりだろ? それに、まえ氏と二人だけでお出かけってのも初めてだし。嬉しーなー」
「どこからまわろうかなー」と、ニコニコと罪のない笑顔を向けてくるキサたそ。彼女はウサギが好きだ。それもモフモフ系ではなく、ツルツル系――人工的なものに近いウサギが。少々感性がズレていると思うのは、自分だけ? ちなみにキサたそと仲良くなったきっかけは、兎好きという共通点からだった。
園内は当然、がらんとしていて、空気も澱んでいる。さっきまで晴れていたはずの天気も、いつの間にか曇り空だ。すでにホラー。裏野ドリームランドの案内パンフレットを見れば、胡散臭い笑顔を向けてくる、この遊園地のマスコットキャラ『ラムリー・ドン=ウサギ』(二足歩行で、人間サイズで、顔の構造も人間に近くて、むしろ長い耳と前歯と短いしっぽ以外にうさぎの要素がない、自分の好みでないウサギ)と目が合ってしまう。てか、こっち見んな! キサたそは「かわいー!」と言って頬を染めていたが、自分はその笑顔に騙されたりしないからな! お前、絶対悪いウサギさんだろ!?
*
裏野ドリームランドの噂
②ジェットコースターで謎の事故?
*
「まえ氏はジェットコースター平気? 私、小さい頃、身長が足りなくて乗れなくて……ずっと前から乗ってみたかったんだ」
「別に良いけど、これ動くの?」
「大丈夫だよ! ほら。すみませーん、学生二人お願いしまーす!」
キサたそが、ジェットコースターの乗り込み待合入り口の奥、操作室に向かって声を掛けると、ガッコン、と無人のはずの機械諸々が動き出した。
「ホラーだ……」
「そんな構えなくても大丈夫だってば! なるようになるよ。さあさあ!」
「キサたそ馬鹿なの!? 強いの!? 鈍感なの!?」
「まえ氏ぃ、前へ前~」
結局、自分はあらがうこともできず、キサたそと最前列に乗ることになった。そして、ゆっくりと坂を登り始めるジェットコースター。安全ベルトはしっかりと固定されている、が、過去にあった事故……という噂のことを考えると、転落事故や、脱線事故といった最悪の事態が頭の中を支配する。
「キサたそ、やっぱこれマズいんじゃ……」
「まえ氏! 『ぷーにょ、ぷーにょ』って叫ぶと怖くなくなるらしいよ! 一緒に言おう! せーの!」
「ぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷーにょっぷー」
それはもう必死だったのだが、そのうち「『にょっぷー』って何だ……?」となり、気づいたら、あの何ともいえない不快な浮遊感に襲われていた。そして、その瞬間は、なぜだかバナナを連想させた。
結論としては、普通のジェットコースターだった。ただ、少し機体がサビ付いていて、座席がカビ臭いことに目をつぶれば、また乗ってもいいかもしれない。
「ねー? 乗って良かったでしょ? んふふ、じゃあ、もう一回……」
そこではっと、キサたその息を飲む音がして、見ると彼女は驚愕に目を限界まで見開き、みるみる蒼白になっていった。ブルブルと震え、涙までためている。
「あ、あれ……」
急いで彼女の指し示した方を見ると、そこには、
慌てた様子の『ラムリー・ドン=ウサギ』の後ろ姿――しかも、背中のチャックが全開の……
「やだぁラム・ドン……そんなことってないわぁ……」
キサたその嘆く声をききながら、自分はそのとき――否、そんなわけあるか、と。でも――思ってしまった。ジェットコースターでの事故、それは――『ラムリー・ドン=ウサギ』の中の人を、目撃してしまったことによる、夢の終わり。
てか、ラム・ドン。なぜそんな見られるところで脱いだし……