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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
1章 Grew Heart
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08.2回目のコクハク

「なるほど……。そんなことがあったのか。」


 俺は昨日の帰りのことを全て開登に話した。もちろん、不覚にも菜月のことを一瞬かわいいと思ってしまったとかそういう感情的なことは一切話していない。恥ずかしいし。


「なんだよその顔……。」


 開登はその話を聞くやいなや不敵な笑みを浮かべている。もうなんか一周回って気持ち悪い。


「なんだよって言われましても、一緒に帰るなんてロマンチックじゃないですか。」

「お前だって一緒に帰ったことあるだろ?あいつと。」


 ここで忘れてはいけないのは、菜月が俺にだけしか帰ろうと言っているのではないということ。去年、開登は菜月と委員会が一緒でたまに一緒に帰っているのを見かけたことがある。


 つまり、なんだかんだ言って、菜月と開登は仲がいいのだ。


「でも朱音は口を開けば暴言しか吐かなかったけどね!」

「その点昨日の俺との会話は暴言なんか無かったぜ。ふつーに会話してるって感じ。」

「ていうかあいつ俺にだけ当たり強いからなあ。全く何がいけないんだか。」

「どう考えても開登のいじられキャラのせいだろ……。」


 元から菜月は男子にもガンガン攻めてくるボーイッシュな性格だけども、開登相手だとそれがさらに増す。これは昔からそうだった。


 おもむろにスマホの電源を入れると、お湯を入れた時間から3分が経過していることが分かったので、俺はふたを開ける。


「やっと朝ご飯ですかい?」

「お前さえこなきゃもっと早く食べれたんだがな。」


 俺はそう皮肉るとズーズーと麺をすすり始める。俺が食事に入ると開登は会話する相手がいなくなって急激に暇になったから、スマートフォンをいじり始めた。


 その間は人同士の会話は無く、俺が麺をすする音だけが室内に響き渡る。すると、急に開登が口を開いた。


「ぶっちゃけ、花園さんのことどう思ってる?」


 あまりに急すぎる問に俺はゲホゲホとむせてしまう。


「急すぎるだろおい……。」


 この静かな流れで花園栞の話題が飛んでくることを予言しろなんてそんな酷な話はない。


「いや考えてみたらさ、お前なんであの人振ったの?容姿端麗、性格優秀、社交性抜群、振る要素がないじゃん。」


 そんなに熟語を並べないでくれ、まるで中国語の字幕を眺めているみたいだ。


「……何でだろうなあ。」

「自分の気持ちも知らないで振ったのかい?」


 知らないで振った、という表現は少し違う。違うのは分かっているけどもそれを上手く言葉に出来ない。


「それとも、また部活かい?」

「いや、そういうわけじゃ……な」

 

「また、部活のせいにして逃げるのかい?」


 そう俺の言葉を遮る開登の目はいつになく真剣だった。俺はただ単に、やっぱりこいつは恐ろしいな、と思った。口調は穏やかなのにそこには有無を言わせない迫力があった。


「……。」

「ま、俺も部活辞めたようなものだから人のこと言えないんだけどねっ。」


 開登は昔からこうだ。たまに緊張した顔つきになったと思ったら気が付いた時にはいつものおちゃらけた顔に戻っている。


「実はさ、俺、菜月にマネージャーをやらないかって誘われてるんだ。」

「おおう……俺の強大な情報通信網をもってしてもそいつは初耳だ。」


 開登が聞いていたのは、昨日の教室での俺と菜月の会話の最後の部分しか聞いていなかったんじゃないか、と思って切り出してみたらどんぴしゃりだった。


 俺はその言葉を皮切りに、昨日の放課後の教室での一件を全て話した。


「なーるほどね。色々強引な内容だねえ。」

「だろ?俺もそう思った。」

「てことはやっぱ断ったの?」

「いや、2日後の月曜までに決めるって自分で言った。」


 正直、あの時、あの教室でこう言ったのには少し後悔した。今更マネージャーやるなんて、一度抜けた部活にまた入ることとほぼ同義なのに。


 しかも男マネージャーなんて前代未聞だろうなあ。規則上は何ら問題ないらしいけど。


「修のことだからもう蹴ってるのかと思ったよ。」

「実は俺もちょっとびっくりしてる。もしかしたら心のどこかでまだ部活をやりたい自分がいるのかなって。」


 部活の思い出が無いと言えば噓になる。主に中学生の頃だけど、仲いい同級生とダブルスを組んで県大会に出場したりもしたなあ。


「お、選手として入り直しちゃう?テニス部。」

「馬鹿言え。でも菜月にいつかは伝えないといけないんだし、今日の午後あたりでちょっと練習にお邪魔してみようとは思ってたけどね。ほんのちょっとだけ。」

「でも朱音達、今練習試合中だぞ。」


 俺はその言葉を聞いてきょとんとする。それ以前になんで開登がその事実を知ってるんだよ。


「まじ?」

「まじまじ。ダメ元で今日の朝遊ぼうぜってメール送ったら今練習試合中って怒られたから。」


 朝からこいつは何やってんだか……。


「じゃあ部活行くのはまた今度だな。」

「お兄ちゃん部活行くの!?」


 そう呟くと突然聞き覚えのある高い声が。恐る恐る振り向くと俺と同じ短い緑色の髪を赤のカチューシャで留めた凛がそこに立っていた。


「お前……いつからそこに……。」

「あ、凛ちゃん久しぶりー!」

「あ、お久しぶりです開登君。」


 話に夢中で全く気配に気づかなかった……。思えば服装はウィンドブレーカーなんだからちょっとでも動けばシャカシャカ鳴って分かりやすいはずなのに。


「で、さっきの話は何だったの?とうとう部活行く気になったの!?」

「いや、そういうわけじゃなくてだな……。」


 凛は俺の話に全く聞く耳を持たず、グイグイ迫ってくる。


「実はこいつ、やっと部活入るんだってさあ。」

「本当なんだあ!お兄ちゃんが部活にかける情熱を取り戻してくれて凛は嬉しいよ。で、何部なの?」

「茶道部。」

「これ以上話を紛らわしくさせるな開登!」



「ナイスファイト!栞!」


 今日の練習試合も無事怪我もなく終わりました。高校生のソフトテニスの試合というのは基本ダブルスで行われるのですが、その2人のペアというのは前を守る前衛と、後ろで主に打ち合いをする後衛に分かれるのです。


 私は前衛で、朱音ちゃんは後衛なのですが、今日の試合は朱音ちゃんとペアでした。今日の戦績は4勝1敗。決して相手が弱いわけではありません。


 私の調子もいつもより良かったのもあるけど、朱音ちゃんとの息がぴったりだったってのが一番かな。そしてここは試合終了後の部室。私達だけ今日の試合が早めに終わったので部室で休んでいるのです。


「お疲れ様。今日もラリー凄かったよ!」

「いやいやあ、栞がボレーとかスマッシュとか決めてくれたからこそだよ。」


 ボレーというのは前衛が取れそうなボールが地面に着く前に直接当てることで、スマッシュというのは高くあがったボールを上から叩くことです。


「ひょっとしたら6月の大会もこのペアなのかな?」


 6月の大会かあ。先輩にとっては最後の大会、これが終わると3年生はみんな引退です。


「6月の大会もそうだけど、新入部員来ないと6月でこの部活も終わりなんだよね……。」

 

 先輩が引退してしまうとこの部活は2年生3人だけに。最近は硬式の方に人が流れているらしいし、本当に新入部員は入ってくれるのでしょうか。


「まあそこらへんは大丈夫っしょ。修が何とかしてくれるよ。」


 突然神谷君の名前が出てきて私は肩をすくめてしまいました。


「そう言えば、神谷君をマネージャーに誘ったのって朱音ちゃんだったよね……。」


 この場面で困ったことと言えば、朱音ちゃんは私の渦中の相手が神谷君だと言うことが分かっているのです。

 

 以前夏休みのお盆の期間にテニス部でお泊り会をしたのですが、色々あって夜中の恋バナで好きな人を暴露してしまったのです。つまり同じ部活の人はみんな知ってます。


「そうそう。栞って結構控えめだから私が応援してあげようってなったじゃん。栞が告白できるようにさ。」


 朱音ちゃんのその言葉を聞いて私はさらに肩をすくめました。そういえば朱音ちゃんには私が始業式の前日に神谷君に告白したことを未だに知らせていなかった、あれだけ応援してくれたのに……。


 私は決心しました。


「朱音ちゃん。私、もう告白したの。神谷君に。」


 それを聞くと、朱音ちゃんはいかにも驚きを隠しきれないって様子でした。


「で、振られちゃった。」

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