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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
最終章 On The Rooftop
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最終話.その後

 ピリリ……ピリリリ……!!


「……っさいなあ。」


 5月のある日、俺は半分寝かけのまま、無造作に鳴り続ける目覚まし時計を止めた。後30分。大学の授業がない日くらい、後30分だけ寝かせて……。


 そんなことを思いつつ、俺は時刻を確認した。


「8時……半。」


 なんだまだ8時半か。そう思って再び安眠の地へと帰ろうとした、その時だった。


「って8時半!?」


 俺は跳ね起きた。今日は絶対に遅刻できない、とても大事な用事があるのだ。凛の存在がいかに大きかったか、1人暮らしを始めてからやっと気づくとはこれいかに。



 俺の名前は神谷修。この春から都内で1人暮らしをしている新大学生だ。文化祭の後の修学旅行が終わった後、帰宅部特有の有り余る時間を生かして受験勉強に勤しんだ。


 そして都内のそれなりの大学に現役で合格することに成功。ひとまずは安心かと思われたけども、まさか1人暮らしがこれほどきついものだとは。


 うるさい妹からも別れることが出来ると内心喜んでいたものの、朝起こす時だけ家に来てほしいのが現状だ。


 着ていく服は決まっていた。だから跳ね起きてから家を出るまでに5分もかからなかった。集合は9時。電車に乗る時間を考慮してもギリギリ間に合うか、間に合わないかの世界だ。


「おっそーい!」


 ダッシュで集合場所に着くと案の定、俺以外の3人が揃っていた。時刻は9時5分。


「いやあ寝坊しちゃって……。」


 それでも俺は嬉しかった。懐かしい顔が見れて。


「修が寝坊なんて珍しいな。」


 今日は高校の友達と久しぶりに会うことの出来る、大事な日だったのだ。菜月朱音。入江開登。花園栞。


「まだ1人暮らしに慣れてなくてな……。」

「そんなの言い訳にならないわよ。私だって1人暮らしなんだから。」


 菜月は高2の時点では成績は下位の方だったが、地頭が良かったのか、高3からの猛勉強の末、有名な大学に合格。一時期は部活と勉強を両立して頑張っていたのだから、頭が上がらない。


「ま、俺らも遠いところからはるばるやってきたんだからな。」


 開登と花園は地元の国公立大学に進学。つまり2人は実家で暮らしているということになる。


「ま、まあ遅れって言ったって5分だし、ね?」

「もお……栞は優しいなあ。」


 どうやら花園様のお言葉で、菜月も納得してくれたらしい。まじ感謝。


「で、今日はどこに行くんだっけ?」

「そういや、菜月が行く場所決めるって言ってなかったか?」


 5月の今、集まっているのには理由があって、ゴールデンウイークで全員の予定が合いやすいというのが主だ。


 せっかくなら都会に行こうということで落ち着いて今ここに集まっているわけなのだが……。


「……あれ、そんなこと言ったっけ?」


 菜月の相変わらずっぷりに全員が肩を落とす。


「ラインで自分で言ってたじゃない!?」


 開登がラインの画面を開いて携帯の液晶を見せる。


「あ、忘れてた。」


 そしてさらに全員が肩を落とす。大学生になっても何も変わらなかった……。それが菜月らしいと言えば菜月らしいのだが。


「じゃあさ、都内のおすすめの観光場所みたいなの、紹介するのは?」


 そんな中、花園がこんな案を出した。


「お、それいいんじゃね?」

「で、誰が紹介するん。」


 全員の視線が俺に一直線に向けられる。まあこうなるとは思ってましたよ。


 でも俺は案がないわけじゃなかった。




「綺麗ー!」

「このサメでかすぎじゃね!?」

「こっちも神秘的だよー!」


 俺が連れて行ったのは水族館だった。俺が前々から行きたいと思っていたところでもあるし、ここなら開登と花園にも楽しんでもらえそうだと思ったのだ。


「そっちの水槽もいいけど、こっちに海中トンネルあるぞ!」

「海中トンネル?なにそれ?」


 そして俺は怪訝そうな顔をする3人を引き連れ、トンネルの中へ。


「ってすごい!」

「どこ見ても魚が泳いでる!」


 海中トンネルの中に入ると、そこはまるで海の中のようだった。360度、どこを向いても魚が泳いでいる。その中の道をゆっくりと俺らは進んでいく。


「言うて俺も来るのは初めてなんだけどな。」


 トンネルの中は多種多様な魚が動き回っていた。小さいクラゲから、そこそこ大きな魚まで。そしてそれはあっという間に過ぎていった。


「あれれ……もう終わっちゃったね。」

「ま、楽しい時間は早く進むって言うしな。」


 トンネルが終わってしまったことに花園ががっかりしたような表情を見せる。


「……ってあれ?朱音ちゃんと入江君は?」


 花園はいち早く異変に気付いたようだった。言われて周囲を見渡してみると確かにどこにもいない。連絡が来てないかとラインを開くも音沙汰なし。


「……はぐれちゃったみたいだな。」


 それを聞くと、花園はもじもじとして言った。


「じ、じゃあさ、見つかるまで一緒に回らない?」


 異論は当然なかった。だって彼女なのだから。


「そうだな。行くか。」


 それからの時間は束の間の幸せだった。進路の関係で滅多に会うことが出来なくなってしまったのもあるけど、なんだか新鮮な気持ちになった。


 高校時代はこれが毎日できたと考えると無性に高校時代に戻りたくなる。


「……手、繋がない?」


 ふと、花園がそんなことを言った。そう言えば、隣で歩いたことはあるけども、手を繋いだことはなかった。


「おう。」


 そう言って、俺はゆっくりと、花園の小さな手を握った。それはとても温かくて、とても安心する何かだった。


「なあ、花園。」

「……花園なんかやめてよ。他人行儀、だって。」


 花園はそう言って、頬をぷっくら膨らませて、怒ったような表情をした。怒ったような表情をしてもなぜか和んでしまう。


「じゃあ……し、栞?」


 今まで不愛想に苗字呼び捨てで呼んでいただけあって、なんだかこっちまで恥ずかしくなってくる。傍から見たらやっていることはバカップルだ。


「し、修君。どうしたの?」


 花園、いや、栞は完全に赤面。でもそれは俺も同じことなんだろうなあ、と。


 俺は今日会ってから、ずっと思っていたことを短く口にした。


「……好きだ。」


 それは赤面しきった花園の表情にいわばとどめを刺すような形になったのかもしれない。


「私も。好き。」


 もう1度、高校時代に戻りたい。さっきはそう言った。けど、遠距離恋愛というか、今のこの形もそれはそれでいいのかもしれない。


 たまにしか会えないくらいが丁度いいのかもしれない。


「おーい!2人ともー!」


 そんなことを考えていると、前方からよく聞きなれた高い開登の声が聞こえてきた。それは水族館の中でもよく響き渡る。隣には菜月、いや、朱音もいた。


 俺と栞は反射で繋いでいた手を離してしまった。半ばもう遅いと分かっていながらも、なんだか恥ずかしさもあったのだ。


「ねえ、最後にもう1つ聞いていいか?」

「……何?」


 最後にもう1つだけ、2人のうちに聞いておきたいことがあった。


「何で、俺の事を好きになってくれたんだ?」


 栞は少し驚いたような顔をしたけども、精一杯の笑顔で返答してくれた。


「ナイショ、です。」


 ……だろうな。別に俺は驚きもしなかったし、それ以上問い詰めようともしなかった。


 1つ心当たりがあったからだ。もしあの時、あの会話が無かったら栞の恋は始まってなかったのか、それが聞きたかったけど答えてくれないならそれはそれでいい。


「そこで何やってんだよー!!飯食うぞ!」


 ただ、結論から言う。


 部活を辞めるのは良いことではない。でも、確かに悪いことではなかった。


「……今すぐ行く!」

「私も!」

これで本編は完全に終了となります

更新が滞ったこともありましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。

初投稿で拙い文書でしたが、少しでも楽しんでいただけたらこちらとしてもとても嬉しいです。

こちらの忙しさ次第でエピローグを書くかどうかは分かりませんが、また投稿する時はよろしくお願いします!

本当に5ヶ月間ありがとうございました!

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