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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
最終章 On The Rooftop
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51.仲直りしよう

 なんでこんなに涙が止まらないんだろう……。


 何でも出来る朱音ちゃんと自分を比べてしまったから?朱音ちゃんが出来すぎているの?それとも私に落ち度があったの?


「は、花園さん大丈夫?」


 入江君は私を心配して声をかけてくれます。こういう時、私は友達に恵まれたなあと思います。


 そりゃ誰だって、目の前で泣きだしたら心配もするでしょう。何だこいつと思われるかもしれないけど。


 でも、入江君は上っ面だけじゃない。それは私でも分かる。でも、今この時、一緒にいてくれている友達が、神谷君だったらどうだろう。


「ごめん……入江君。」


 いや、違う。神谷君だって、同じ行動をしてくれるはず。


 だって、あの時、あの行動をしてくれたから、私はあの人を好きになったのに……!


「……気持ちは落ち着いたかい?」


 そう思うと、やっと涙が止まってきます。私の目、赤いだろうなあ……。


「…………うん。」


 でも、この涙は無駄じゃなかったみたい。だって、この3分の間で揺らぎに揺らいでいた私の決意は、完全に固まったから。


「入江君。」

「……?」


 私の周りの人はみんな優しい。でも、優しすぎるんだ。少しぐらい、鬼になったっていいはず。ましては好きな人を取り合っているんだから。


「私、今日、告白する。神谷君に。」


 これでお化け屋敷内に神谷君がいたりして、この言葉を聞いていたらそれはもう笑い話でしかありません。でも、それでも、私は告白する。それほど意識はそちらに向いていました。


 これを聞いた入江君は少しびっくりしたような顔をしたけど、すぐにいつもの笑顔に戻って言いました。


「応援してる。俺の分まで頑張って。」


 これも、入江君じゃなかったら成立しなかった会話なんだろうなあって、ふと思いました。いきなり泣き出して、その後告白するって宣言するって、普通の人が聞いたらまともに話を聞いてもらえないかも。


 だから、みんな優しいのです。その優しさの中、真向から勝負をかけに行きます。今までとは違う、心を鬼にして。


 その後も、自分達の仕掛けた仕掛けに驚かされながらも、純粋にお化け屋敷を楽しみました。そして、前方からは出口の明かりが見え始めてきました。


「……もうすぐ出口だけど気持ちは大丈夫かい?」

「……うん。ありがとう。」


 私はコクリと頷くと、出口へのドアを開けました。その瞬間、一気に現実に引き戻された気がしました。


「そういや、これからどうしよっか?」

「チュロス食べない?昨日、特別券みたいなものももらったし。」


 私は即答しました。丁度今は昼の時間だし、誘うには絶好の機会でした。


「……俺なんかでいいのかい?」


 入江君はすぐにはOKと言いませんでした。恐らく、神谷君と一緒に食べないのか?って言いたいんだと思います。


 でも、私はそれすらも一蹴しました。


「あの人とは、後でプライベートで行くから。」


 この時点で、もう私の意思は1人にしか向いていませんでした。入江君もそれを悟ったのか、すぐにニコリと微笑んで言いました。


「りょーかいっ。」


 でも、その前に、1つだけやることがありました。


「あ、でもその前にトイレ行ってていい?悪いんだけど、先、並んでてもらってもいいかな?」

「あ、オッケー。」


 チュロスを売っている教室は1つしかないから誰でも分かるはず。


「ありがとう。」


 私は短くそう言うと、すぐにトイレに向かって歩き始めました。でも、目的はトイレではありません。


 そして私はトイレに入ると、すぐに神谷君とのラインを開きました。でも、そこから思うように手が動きませんでした。


 時間設定も頭の中で決めてありました。後は神谷君に告白する旨のラインを送るだけ。送るだけなのに、ここにきて体が思うように動かない。


 また失敗するのが怖いの?入江君にあんなこと言っておいて、また私1人で逃げるの?


 私はかぶりを振りました。だめ。今日を逃したら、もうチャンスすら来ないんだから。そして、私の指はゆっくりと動き出しました。


 今日の17時半。屋上で待ってます。


 震える手で、そう打った。後は送信するだけ。朱音ちゃんが今日の何時に告白をするか分からない。けど、私はこの時間に、この条件で告白するって決めたんだ。


 私は息を呑みました。すると、始業式の前日のあの日から、今日の今までの記憶が蘇ってくるような感覚に襲われました。


 あの日、海の前で振られてから、体育祭、泊まり、花火、そしてこの文化祭。あ、まだあった。


 1年前のあの日、あの部活の日から私の恋は始まったんだっけ。


 そんなことを思っていると、急に全てが懐かしくなって、また泣いちゃいそうになります。でも、私は首を横に振りました。


 もう、泣かない。


「……送った。」


 携帯の液晶画面には、告白するメールが送信されていました。


 もう絶対に後ろは向かない。そしてトイレから出て入江君のところに戻ろうとしたその時、携帯が通知で振動しました。


 つまり、もう誰かから、ラインが来たということ。私はドキドキしながらゆっくりとラインを開きました。


「神谷君……。」


 そして、ラインを開くと、短い文章でこう書いてありました。


 少し遅れるかも、ごめん。


 まさか、とは思いました。いやそんなわけはないと思いつつも、遅れるなんて理由が1つしかなかった。


 朱音ちゃんと告白の時間が被った……?


 じゃあ、もし、朱音ちゃんと神谷君が結ばれちゃったら、私は告白することすら出来ないの?


 でも、もう後戻りはできない。一度送っちゃったものはもう取り消すことはできない。じゃあ、朱音ちゃんが告白するのを失敗することを願うしかないの?


 朱音ちゃんは友達。部活だけじゃない、いつも私の隣には朱音ちゃんがいたし、楽しくて、でも少しくだらない話で盛り上がったりして。


 確かに私よりスペックは高い。何でもできて、私が勝つ要素なんてもしかしたらないのかも。


 でも……でもでもでもでも……!


「そんなこと、できないよ……。」


 やっぱり根は変えられないみたい。こんな微妙な関係のまま最期を迎えたくない。


 出来ることなら、17時半までに朱音ちゃんともう1度話したい。ちゃんと話し合って、純粋な仲良しの関係に戻りたい。


 ごめん、入江君。まだもうちょっと待ってて。


 私の足は、どこにいるかも分からない朱音ちゃんの元へと向かっていました。

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