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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
最終章 On The Rooftop
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48.皆、嘘

「え……。」


 私は茫然としてしまった。全てが唐突で、突然すぎて、私はどう言葉を発していいか分からなかった。


 今まで、純粋な友達だったはずなのに。


「……私は本気。」


 朱音ちゃんは静かに続けます。でも、それによって私にある選択肢が生まれたのです。


 私も告白してしまえば……無理矢理同じ土台に立てる。でも、そんな軽い気持ちで思いを伝えるなんてできない。


 目の前の朱音ちゃんも、何年も、何年も、ずっと一途に神谷君のことを追いかけてきた。だからこそ、本気なんだと思う。


 ずっとずっと言いたかったことが言えるってすっきりする。けど、結果は保証できない。ましては私なんて……。


「私……。」


 私も対抗して、そう言うべきだった。私も明日告白するって。でも、ここにきてその勇気が出ない。言ったら最後は絶対にやらなきゃいけない。それが怖いの。


 また、振られたらって考えると、ね。


 そして、タイムリミットは突然やってきたのです。ギギギギ……と静かに校内から繋がる古い屋上のドアが開きました。


 私と、朱音ちゃんの視線はドアに釘付けとなります。そして、ドアの向こうから顔を出したのは……。


「……やっぱ、ここにいたか。」


 私達の会話の渦中にいる、男子でした。


「……!」

「……!?」


 私と、朱音ちゃんは声が出ませんでした。今の今までこの人のことを話していたなんて、なんだか恥ずかしくなってくるし、それに、ここまで来たってことは……。


「……ここまで、探してきてくれたの?」

「当ったり前だ。皆教室で待ってるし帰るぞ。」


 神谷君にも、皆にも予想を遥かに超えたメイワクがかかっちゃったな……。そして虚無感と罪悪感に包まれたまま、ぼやくのでした。


「ごめん、修。」

「ごめんね、神谷君。」



 それから教室に戻ると、見慣れた顔のクラスメイトと、河辺先生が帰りを待っていました。


 とりあえずトイレに行ってて遅れたってことにしとけ、と助言してくれたのは神谷君です。本当のことを言うべきなのだろうけど、さすがにここでそれを言うわけにもいかない。


 つまり、私は嘘つきなのです。皆を騙して、適当に言い訳をしてごまかす。


 やっぱり、私って最低だなあ……。


「……私も、か。」


 そう呟いて、今晩、布団に潜り込みました。


 決心がつかないまま、明日はやってくるのです。




「おにーちゃん、今日も文化祭行くからねっ!」


 その日は、一見、何もない普通の朝のように見えた。事実、起きてから俺の身に起きていることはいつもと何ら変わらない日常であり、何も不思議じゃない。


 現に今も、いつものようにエプロンをした凛が目の前に立っている。


 でも、決定的に何かが違う、今日で文化祭が終わってしまうからだろうか。それとも、昨日の最後、あんなことがあったからだろうか。


 とりあえず、考えていても仕方がない。俺はいつものように家を出た。


「よっ、修!」


 学校に着くと、いつものように近藤や志賀が話しかけてきて、いつものように会話を交わす。


 唯一変わっているのは、お化け屋敷風の教室の内装。壁にはいたるところにお化けの絵が飾られていて、電気がないと黒カーテンで真っ暗闇だ。


 この内装を見ていると、今日で文化祭も終わりかあ、としみじみと思う。来年は受験で忙しいんだろうし、まともに楽しめるかどうかは分からない。


 そんなことを思いつつ、暇つぶしにスマホをいじり出したその時だった。


 ティロンと鳴り、ラインの通知が来た。ラインを開いてみると、たった今来たものであることが分かった。


 そして、そのラインには短くこう書いてあった。


 17時半、1人で理科講義室に来て。

                  菜月朱音




「……ねえ、皆、心配してた?」


 屋上から教室に戻る途中、菜月が話しかけてきた。その声は少し震えていたようにも感じたぐらいだ。迷惑をかけてしまっただとか思っているのだろうか。


「まあ心配はするわな。教室にいるはずなのにいないんだもんな。」

「……本当に悪いこと、しちゃったね……。」


 花園も肩を落としたようにこう言うけども、俺には疑問点しかなかった。菜月はともかくとして花園は真面目だからこういうことをする人じゃないはずだし、そもそも何で2人で屋上にいたのか分からなかった。


「いやそんなことは気にしなくてもいいんだ。後で教室の皆にでも謝ってくれれば。」


 聞いてはいけないことを聞くような気もしたけど、俺は構わず言った。


「でも、何で菜月と花園は屋上にいたんだ?」


 案の定というかやはりというか、花園と菜月はこの質問に言葉を詰まらせる他なかった。すぐ答えないあたり俺には言えないことなんだろうなあとは思った。


「あ、いや……まあ色々?」

「う、うん?何というか大人の話というか……。」


 いやもうその台詞だけでも怪しさ満点だって……。俺は心の中で突っ込む。決して口に出そうとは思わなかった。


「いや、別に言えない話だったら無理して言わなくてもいいぞ。」


 俺がそう言うと、菜月と花園は下を向いてしまった。よほどさっきの言い逃れが恥ずかしかったのだろうか……。


「本当にごめん。」

「ごめんね……。」


 なんか柄にもなく申し訳なさそうな顔をするものだから、俺の方が逆に戸惑ってしまう。


「い、いや、だから俺には謝らなくていいって。その分をクラスの奴らに回してくれ。」

「で、でもクラスの人にはなんて言おうか……。遅れといてこんなこと言うのも図々しいんだけど。」


 そうか……よくよく考えてみれば俺に言えない話をクラスの人全員を前にして言えるはずもなく。そうなると必然的に嘘をつくことになってしまうのか。


「うーん、安直な気もするけど、トイレにでも行ってたって言えば何とかなるんじゃね?まだ何とかなる時間だし。」

「それもそっか。じゃ、そうするか。」

「いやお前は相変わらず決断早えな……。」


 そういえば菜月は昔から立ち直り早かったなあ……と回想。過ぎたことをいつまでも悔やまない人だし、それはこれからも変わらないはずだろう。


 そんなことを話しているうちに、教室の前までやってきた。菜月と花園は、教室のドアの手前まで来て、ドアを開ける決心がつかないのか踏みとどまる。


「……開けないのか?ドア。」

「いやまだ心の準備が……。」

「じゃ、俺が開けちゃうぞ。」


 そして、返事も聞かず俺は勢いよくドアを開けた。その先には開登を含め、見慣れた顔ぶれの数々。


 トイレに行っていたと言い訳をすると決めていながらも、やっぱりいざ言うとなると後ろめたさもあるみたいで、花園と菜月は皆を前にして、硬直してしまう。


 だけども、勇気を振り絞って、言い切ろうとした。


「皆……ごめん!ト、ト、ト……。」


 しかし、その2人の声はクラス全員にもみ消された、良い意味で。


「菜月さんと花園さんだ!!」

「やっと全員揃った!!」

「そうだ写真撮ろ写真!」


 俺を含めた3人はニコリと笑って、写真の中に笑顔で映り込んだ。


 こうして、俺の文化祭1日目は終わった……はずだった。


「ねえ、修、今日一緒に帰らない?」


 菜月に小声でこう言われたのは写真を撮り終わった直後だった。俺は唐突すぎて驚きを隠せなかった。こんなことを言われるのなんて1学期のあの日以来だし。


 でも、なぜか俺は断れなかった。


 1学期のあの日とは違って、微妙な心境のまま2人で横並びで帰るのだ。

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