45.繋がるということ
「……修早く行けっておい。」
「何だよ……もしかしてびびっちゃってるのかな開登君?」
俺らがそんな会話をしているのは真っ暗闇の中。外へと通じる出口は黒カーテンによって完全に閉ざされ、お互いの顔すら見れやしない。
「そ、そんなわけなかろう。俺はただ色んなアトラクションを回りたいだけだからこんなところでゆっくり時間を使ってられないのだよ。」
結局30分は待たず、15分くらいで入れたのだが文化祭クオリティとはいえ、中々に怖いものがある。敵情視察とは言えどもこれはかなりの好敵手なのかもしれない。
「はいはいっと。」
俺が懐中電灯を適当に周りに向ける。オーソドックスなものなら壁から死人の仮面か何かが顔を出しているのだが。
「わっ!?」
予想的中。正面に照らし出されたのは、血だらけの髪の長い女性の絵。
正直、俺は分かり切っていたことなので開登のみ悲鳴をあげる。夏の肝試しの時といい、俺は心霊系には強いのかもしれない。
「お前そんな驚くなって……。よくあるやつじゃんこれ。」
「いやこんなのあったらそりゃ驚くでしょ。てかお前こういうの得意なんだな。」
「得意っつーか慣れじゃね?俺小さい頃から遊園地のお化け屋敷大好きだったし。」
そんな会話を交わし、気も緩んでいたところに第二の試練が襲い掛かる。
「えっ何々!?」
急に下の床が揺れ出したのだ。これはさすがに俺も予期していなく、困惑してしまう。どういう仕組みかは分からないが床が地震かのように揺れているのだ。
そして後ろから両手の感触が。いきなりの出来事に俺はぞっとする。これもギミックだというのか……そう思い始めたその時だった。
「怖い、行くぞ。」
その両手の主は開登だった。あまりにもびびりすぎた開登が後ろから俺の身体を押していたのだ。その上恐怖のせいからか発する言葉が全て片言になっている。
「ってお前かい!?」
「そうだよ悪いか!」
その後開き直った開登に押され、お化け屋敷内を駆け抜ける。動く床から出口までの、途中は何があったかは全く覚えていない。
色々と仕掛けはあったようにも思えるがそれすらも見させない開登の猛ダッシュで出口に到着する。というかこんなに苦手なら来なきゃよかったのに……。
「ありがとうございましたー!」
出口にも女子が立っていて、恐らく出口担当の生徒なのだろう。暗くて顔は見えなかったが、そもそも開登のせいで顔を見る余裕すらない。
そしてその女子をスルーするかのようなダッシュの勢いそのままにドアを開け、退室しようとしたその時だった。
「あ、お客さんちょっと待ってください!」
ドアを開けようとしたその瞬間、俺と開登はその女子に呼び止められた。呼び止められたのが女子だからか、あれだけ怖がっていた開登の足も1回止まる。
「これ、男女でもう1回来ると素敵なプレゼントがあるんで、ぜひ仲の良い異性の方とお願いします!」
そう言って渡されたのは特別券のような小さい紙だった。素敵なプレゼントというものが何かは少し気になるところではあるけども。
「もう1回来るって、もう1回同じところを回るってこと?」
「いや、普通に考えたらそうなんですけど、私達のお化け屋敷、明日には内装が変わっているので2回楽しめるんですよ!」
内装が変わるというのは新しい発想。俺らはそんなこと全く頭になかったなと感心しつつ、俺は返答する。
「ありがとうございます。」
そう言って今度こそ俺は外の明るい世界へ繋がるドアを開ける。
「……なんか生きて帰ってきたって感じだなあ、うん。」
ドアを開けた先はいつもの明るい昼間の廊下。いつもと違うのは文化祭中だから、人通りがとても多いこと。コスプレをしている人も見かける。
「開登はいちいち大げさなんだよ……。」
「まあいいじゃんいいじゃん。また行こうぜ。」
「お前とは一生行かねえよ!?」
そう断りながらも、俺の目線はこの券に向けられていた。
出来ることなら、あいつとー……。
「……チュロス、どうしようか。」
私は短く尋ねました。もらった券を眺めながら。
「どうしようかってどういうこと?」
「いや、この券をもし、使う相手がいるなら……私と行く意味はないかなって。」
この券にも書いてあるように、同性である私と行くメリットはない。でも、行く人がいるとも限らない。
「……。」
でもさ、もし、もしの話だけど。もし、朱音ちゃんが今、一緒に行きたい異性の人がいるなら……これは願ってもないチャンスのはず。
そして、それは私も同じ。朱音ちゃんは静かに口を開きました。
「あははいるわけないじゃん!いたらもうとっくに誘ってるところだしね。」
そう言う朱音ちゃんはいつもと変わらないようにも見えました。実際、朱音ちゃんのこの言葉を聞いてどこかほっとする私もいました。
でも、何かを隠している。不思議とそんな気もするのです。
「……そっか。じゃあチュロス買いに行こ?」
「うん。今丁度人いないしね。」
「オッケー。」
私達のすぐ前には、うちの学校の制服を着た男女が、手を繋いで待っていました。恐らくカップルでしょう。
そんな幸せそうなお2人の姿を見ていると、知らない人のはずなのに、どこか嫉妬してしまう。でも、心のどこかでこうなりたいという願望もあるのです。
「ねえ、栞ってさ。いつ告白するの?」
朱音ちゃんが突然こう言い放ったのは私が壁によっかかって一息ついたその時でした。急すぎてまた私は跳ね上がってしまいます。
それと同時に周りを確認。いないよね?神谷君。
「ちょ、ちょっとどうしたの急に!?いきなりすぎるよ!」
「あはは栞焦ってる。」
朱音ちゃんは私の隣で無邪気に笑います。正直言って今の朱音ちゃんが何を考えているか、私には分からなかった。
「もう……からかわないでよ……。」
「いや何かさ、前のカップルさん見てたら気になっちゃってさ。」
そう言われて私の目線はまた前のカップルさんへ。もし、次また告白して、オーケーもらえたら私もああいう風に幸せになることができる。
でも、もし振られたら。冷静に考えても1回目がだめだったら2回目の可能性は相当低いはず。
それでも、キッカケが欲しかった。このまま終わるなんて嫌だし、キッカケさえあれば、もう1度、1度だけ……。
それがこの文化祭。文化祭のはずなのに……。
「私はしばらくは……いいかな。」
私は大切な友達の目の前で嘘をついてしまった。
口に出してこの文化祭で告白する、なんて私にはできない。始業式の前日のあの日から、私は本当に1ミリも変わってないのかな。
「そう……まあ無理しないペースでいいと思う、よ。」
朱音ちゃんは私と目を合わせようとしなかった。普段明るい朱音ちゃんがどこか暗い顔をしていた。
そして私は確信した。
これってさ。やっぱり朱音ちゃんも……。




