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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
最終章 On The Rooftop
45/59

43.始まり

 暗幕に包まれた体育館は一見静かなようで、これからの文化祭が楽しみでたまらない生徒達がガヤガヤと騒いでいた。


 あれから1週間。とうとう文化祭当日がやってきた。すぐに保健室に送ってくれた来栖のおかげか、俺の怪我も大したことなくて、皆から心配されつつもすぐに準備に復帰できた。


 そして本当に期間内に終わるのかと危惧された準備も1日前のギリギリの時間に全て終え、めでたくお化け屋敷を開催することができる。


 初めはメイド喫茶をやろうと企てていたとは思えないような出来で、作った俺らでさえも驚いている。高校生活でも1番遊べる今の高2の時期にぴったりかもしれない。


「はーい皆さんお静かに!」


 そんなことを考えているとステージの方からマイクを通して高い声が聞こえてくる。声質的に男子だろうか。


 しかし、ステージは黒カーテンで隔たれたままだ。このアナウンスでざわついていた体育館の声もだんだんとおさまってきた。


 でも、このアナウンスの声、どこかで聞いたことあるような……。


「ではではお待たせしました!これより第41回千鳥高校文化祭、オープニングセレモニーを開式いたします!」


 そんな俺の不安とは対照的に再び盛り上がる館内。それに応えるようにゆっくりと黒カーテンが開け、隠されていたステージの全貌が明らかになる。


 俺の嫌な予感は的中していた。ステージの中央に立って顔を出したのは平均よりかなり高い背、凛とした容姿、男子にしては高めの声。


 入江開登だった。なぜ開登がステージに?


「はいはい静粛に静粛に!」


 盛り上がる会場を一旦落ち着かせようとする開登。しかしすぐにはおさまらなかったが、一向に開登が喋り始めないところを見るとさすがに空気を読んだのか、徐々に黙り始める。


 お調子者の開登にしてはここまで待つというのは珍しいことのようにも思えたが、それには開登なりの理由があった。


「はい、皆さんが静かになるまで30秒もかかりました。」


 そして潮の満ち引きのように再び会場は笑いで湧き上がる。やっぱり開登はこういう前に出る仕事に向いている。


「えーでは、今年もやってまいりました、千鳥高校文化祭!皆盛り上がってるかい!?」

「いえーい!!」


 そして開登に続くように全校生徒が一丸となって盛り上げていく。やっぱり文化祭はこうでなきゃ。


「あ、申し遅れました。」


 しかし、開登は改まって静かに言う。


「私、このオープニングセレモニーの進行かつ、今年度の文化祭の実行委員長を務めます、2年の入江開登と申します。以後よろしくお願いします!」


 え?今なんて?実行委員長?


 ええええええ!?


「おい、開登って実行委員長だったのかよ。」


 俺はあまりに突然の事に驚きを隠せなく、偶然近くにいた渡部に尋ねる。


「そうだぜ。修が怪我してるときに初めてあいつ口にしたからお前は知らなくて当然かもな。」


 俺が来栖といる時に教室ではそんなことが……。でも今思えば開登が教室のお化け屋敷の準備にほとんど参加してなかったのは実行委員の仕事があったからなのか。


「はいじゃあ早速ですが、この文化祭の予定についてお話したいと思います!ちょっと堅苦しい話かもだけど、少しばかり付き合ってください!」


 そう言われて、俺や俺の周りの生徒は一斉に予定の書かれたパンフレットを見る。


「この後9時から文化祭がスタート及び一般公開も同時にスタートします!それまでに準備とかお願いします!」

「いえーい!」


 そして始める前からテンションMAXの在校生が元気のいい返答。元気が良すぎて語彙力がなくなっている気もしなくはない。


「昼は各自でお願いします!教室内で持参した弁当を食べるのは無しでお願いします!」

「いえーい!」

「一般公開の終了は15時半、一般公開が終わっても17時までが今日の日程となります!完全下校は18時です、時間厳守でお願いします!」

「いえーい!」


 ここら辺は去年と大体同じか。でも今年はシフトとかが忙しいから、去年みたいに校内のブースを回れるかどうか心配だ。


「明日も今日と同じ日程です!ただ1つだけ違うのが最後に花火があがることです、18時半から校庭で打ち上げられる予定なので見ることをおすすめします!」


 あれ、花火なんて去年あったっけ……。確か去年はなかった気がするから、今年から新しく始められたものなのだろう。


 それと同時に脳裏にあの夏の日のことが思い出される。


 あの時、キスした時も、花火があがってた……。



「ねえ。神谷君。」


 俺は目を見開いた。


「キスしても、いい?」


 あまりに咄嗟のことで、声が出なかった。本当は断らなきゃいけないんだ。いけないはずなのに、断れなかった。


 俺はもう別の人とキスをしてしまったのに。でも、心の奥底に、花園とキスすることが嫌じゃない自分がいた。


 それでも、断ろうとした。でも、既に花園の綺麗な顔はすぐそばまで近づいてきていた。そんな顔を見てしまったら、なんだか無性にドキドキしてくるし、そんなこと、言えない。


 そして、また唇を重ねてしまった。


 草むらの奥だったし、誰も見ていないはずだった。人前でキスをしたというわけでもない。なのになんでだろう。


 この、罪悪感は……。



「何か質問はありますかー?」

「今年はリア充イベントはないんですかー?」

 

 そして、誰の声か分からないその質問で俺は我に返った。何を連想しているんだ……。


 その質問に呼応するように大部分の男子がおおー?と歓声をあげる。飢えすぎかよ……。


 もう、自分の気持ちに嘘はつかない、そう決めたはずなのに。ただ、心のどこかで期待をしてる自分もいた。


「ありますって言いたいところなんだけど、今年は本部の方では用意していないんですよ……。花火とかの準備でそこまで手が回せなくて……。」

「ああー……」


 そして男子が落胆する。恐ろしく分かりやすいな……。

 

「ただ、どこかのアトラクション施設でやってるかもしれないので、片っ端から回ってみる必要ありです!」

「おおー!?」


 そして速攻で復活。開登のご機嫌取りが上手いのか、この学校の生徒が単純なのか。だけどうちのクラスはそういう企画はやってなかったはずだから必然的に他のブースになる。


「他に質問はありませんかー?ないなら次の企画行きます!」

「いえーい!」


 男子勢は完全復活。ノリの良さもこの学校のいいところ、だと思う。


「ではでは、次の企画!突発一発ギャグ大会!」

「いえーい!!」


 そして会場はだんだんと熱狂的な盛り上がりへ。ようやくオープニングセレモニーらしくなってきた。


 文化祭、いよいよ開幕。

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