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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
2章 Children Voice
33/59

32.ルビーな昔話

「……本当にこの先に山はあるのか……?」


 ドマックから直行で俺らは山へ向かう。先頭を行く花園の黒いガウチョパンツと白無地の緩いトップスがひらひらと揺れていく。


 花園曰く、昨晩肝試しをしたこの森を抜けると山への入り口があるとか。しかし、辺りはうっそうと茂る木や草ばかりで、そんな気配は全くない。


「確かここら辺に……あった!」


 しかし、花園がそう言うと、視界は急に開けて木一つないのどかな丘が広がるところに出た。子供連れのお母さんがレジャーシートを広げてピクニックをしていたり、中学生がバトミントンをしていたりしている。


「……ここが山の入り口ってとこなのかい?」

「うん。元々レジャー施設があったらしいんだけど、随分前に閉園したみたいで、ここは何もない状態のまま残ってるの。」


 とはいえ、さっきまで見ていた風景とはあまりに違いすぎて困惑してしまう。爽やかな風が吹き抜け、もうここで弁当を食べてしまいたい気分だが、さすがにまだお腹は減っていない。


「ってことはあれが山かい?」


 3人は開登が指指す方を見る。正面には山らしきものはなかったが、開登が指差したのは向かって西の方角だった。


「え、大きくない?」


 そこにそびえたっていたのは緑の木で表面が覆われた高い高い山だった。俺はその大きさに圧倒されたが、1つ問題点があった。


「これ明らかに200m以上あると思うんだが……どう思う?」

「……俺もそう思う。」

「私も。」


 山についてあまり詳しいわけではないけども、絶対に標高600mぐらいはあるはずだ。200mと言うと都会の高層ビルと同じくらいだけども、見ただけでも高さが異常だと思う。


「あ、登れるのは200mまでってことだよ。それより先は足場が整備されてないとか、とにかく危険らしいの。」


 なんだ……と俺を含めた3人は胸をなでおろし、再び山に向かって歩き始める。


「でもそういうのって何かわくわくしねえ?」

「あ、なんか分かるかもそれ。」


 そう言い出すのは開登と菜月。いつまでもこの2人は平和そうだ。足場が整備されてないっていうのは俺も少し気になるところでもあるけども、触れてはいけない存在な気がする。


「だ、だめだって。もうすっごい危ないんだから!おじいちゃんがそう言ってたし!」

「冗談冗談。多分行かないから安心してって。」

「多分!?」


 俺が突っ込む横でニコニコと笑い続ける開登と菜月。不安だ。とにかく不安だ。


「もう絶対禁止だからね!危ないのはだめです。」

「へーい。」


 しかし、花園がここまで注意してくるなんて、祖父からどんなおぞましい話を聞かされたのだろうか。


「あ、あそこに看板あるよ!あれ入口じゃない?」


 菜月がそう駆け寄る。俺らもついていくと、汚れた看板に色あせた薄い字で看板が立てかけてあった。


「平和山、標高924m……たけえなあ。」

「てことは700m分も整備されてないのかあ……。ま、とりあえず登るわよ!」


 先導していくのはいつでも元気な2人、開登と菜月。こういうところを見るとやっぱり仲がいいんだなあと思う。


 でも、俺はこの山に対して不思議な感情を抱いていた。上手く言葉に出来ないけど、変な感じだった。


「……どうしたの?神谷君。ぼーっとしちゃって。2人、先行っちゃったよ?」


 花園の言葉で考え込んでいた俺は現実世界に引き戻される。花園の言う通り、開登と朱音は階段を上ってしまっていて、花園と2人っきりだった。


「いや、何でもない。」

「……具合悪いの?」

「あ、大丈夫大丈夫!心配かけてごめんな。それより早く追いかけようぜ。」


 花園は何か言いたげだったが、黙って頷いた。



「パイナップル!」

「……る?るから始まる食べ物ってあるか?」


 自然溢れる山を登りながら俺らはしりとりをしていく。普通にやったらまず終わらないので菜月発案、食べ物のみの縛り付き。飲み物類のグレーなあたりはとりあえずなし。


「あるか?じゃない。考えるんだよ開登。」

「今俺の脳をフル回転させてるけどそんな食べ物はこの世に存在しない。断言してもいい。」

「答えられなかったら罰ゲームだよ?開登。」


 答えられなかったら罰ゲームという制度も菜月発案。何をさせるかは決まっていないらしく、菜月本人のその時の気分で決まるらしい。逆にそれが怖い。


「じゃあ逆に聞くけど君たち3人はるから始める食べ物知ってるかい?」


 菜月はそれを聞くと黙って俺に目配せをする。いや分からないんかい!


 俺も黙って首を横に振る。そうなると後は1人しかいない。俺と菜月は無言で花園に向けてまなざしで訴えかける。


「ルビーグレープフルーツ、かな?」


 しばらくの間、歩きながらも沈黙が流れる。まさかグレープフルーツに正解が隠れていたとは……。完全に盲点だったわけで。


「開登の罰ゲーム、何にしようか。」

「……なんでもかかってこい。」


 ボソッと呟いた菜月の言葉に開登も腹を括ったみたいだ。とうとう負けを認めたらしい。


「……なんかごめん。入江君。」

「ぜ、全然大丈夫。」


 そう言う開登の笑顔は若干引きつっていた。楽しいハイキングなようで何よりだ。そこで満を持して、俺が地雷を投入する。


「で、罰ゲームって何になったんだ?」

「それがいざ考えみても全く決まんなくて。何かいい案ある?」

「罰ゲームなんてやめよう、うん。ここは平和的解決が必要……。」

「入江開登のスベらない話でどうだ?罰ゲーム。」


 開登の言葉をもみ消して、俺が提案。全てはルビーグレープフルーツが言えなかった開登が悪いのだ。


「お、いいわね。じゃあどうぞ。」

「どうぞって言われても……そんな急に話が出てくるわけでもないし、ね?」

「じゃあお題があればいけるってことよね?」


 そういうわけではないと思うが……。


「お題にもよるがないよりはあった方がそりゃいいよね。」

「じゃあかけそばで頼むわ、お題。」

「いや無理難題すぎない!?どうあがいてもスベる未来しか想像できないんだけど!?」


 4人は爆笑の渦の中へ。空気が綺麗な森の中を賑やかに通り抜けていく。


「私は入江君の恋バナが聞きたい……かな。」


 こう発言したのは、クスクス笑っていた花園。


「栞ってほんと恋愛話大好きだよね。私もだけど!」

「でも俺でさえ開登の恋バナなんて聞いたことないぞ。」

「ふふーん。これがあるんですよ。聞きたい?」


 3人は声を揃えて言った。


「聞きたい!」



 それは俺が中3のときだった。結構最近だけど。その頃の俺はある生徒に恋をしていたわけ。名前はここでは出さないけども、ショートボブがよく似合う女子で、クラスでも可愛いって評判だった。


 そいつとはあまり接点が無かったから、掃除の時くらいしか話さなかったんだけどね。席が近くなったこともなかったし、部活も違かった。


 でも、ある日驚くことが起きた。それは模試の日で、偏差値とか出るあれよ。会場は俺の最寄りから5駅離れたところだったんだけど、当然同じ中学のやつは全員電車で行くわけ。


 最寄りの駅からは30分程歩くらしい。バスも通ってはいるけど、本数も多いとは言えないし何より混むのは分かり切っていたから仲がいい3人組で歩いて行くことになっていた。


 で、駅で降りて少し歩いたらびっくりしたことが起きて、なんと俺が好きな子が1人で50mくらい先で信号待ちしてたんだよ。


「あれ、1人?」


 俺が話しかけた。こっちとしては願ってもないチャンスだったし、目が合ったから話さないのは不自然。


「そうなの。一緒に行くはずだった子が寝坊しちゃって。」


 そして追いついた。依然として前の信号は赤のまま。つまり、その好きな女子と俺ら3人が横に並んだわけ。しかも俺の隣はその好きな子。


 信号が青になった。この時点で俺はじゃあねと別れを告げる予定だった。でも、もっと驚くべきことだったのは他2人が凄まじい速さで歩いて行ってしまうことだった。


 気づいた頃には俺とその女の子は2人っきりだった。今更、1人にして置いていくことなんて出来なかったし、俺は一緒に会場に行くことを決めた。


「しかし大変だなお前も。」

「ほんとだよ。後できつーく言っておかないとね!」

「そうだな!」


 そして、沈黙。しばらくしたら俺がまた話しかける。


「……模試の勉強した?」

「理科が苦手だからそこはしっかりやったけど、勉強したところが出るといいなあ。」

「そっか。偏差値上がるといいな!」


 そしてまた沈黙。絶望的に会話が続かない。というかテンパっちゃっていつも教室でふざけてるときのように話せない。


 そんな感じで俯いていると、向こうの方から話しかけてきた。


「そういや、開登は行かなくてよかったの?あんな仲いいのに。」


 中学の時は男子からも女子からも下の名前で呼ばれてた。そしてこの時好きだってことを悟られたかな、と一瞬思った。


 そりゃ途中からクラスの男子が隣に歩き始めたら誰だってそう思うよねって。そんな気持ちが俺の焦りを加速させたのか、俺は思わず言ってしまった。


「お前って……好きな人いるの?今。」


 言った瞬間、これは失言だな、と思った。10秒前に戻りたかった気分だった。でも、ちゃんと返事が返ってきた。


「……いる。誰にも言わないでね。」

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