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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
2章 Children Voice
32/59

31.朝食はいかが?

「ふわーあ……。」 


 ゆっくりと視界が開けた。時刻は7時40分。枕が変わるとあまり寝付けないというが、寝起きの極めて悪い俺がこんな朝早くに起きれるのだからそれは本当の話なのだろう。


 横では開登が大の字になって豪快に寝ている。他人の寝相や寝顔を見る機会なんて滅多にないが、このことだけは記憶から抹消しておこう。


 夏休みに入ってからは、深夜まで起きていて昼頃に起きる良くない生活リズムの典型みたいな毎日を送っていたから、朝の日差しがとても眩しいもの。


 とりあえず着替えることにする。今日はベージュの短パンに白無地のTシャツ、そしてその上に腕まくりをした黒ジャケットを着る。


 することもないから、ひとまず起床後の集合場所となっているリビングへ直行する。女子組が既に起きていると信じて。


 リビングまではすぐだ。昨晩ツイスターゲームをやった部屋の向かいのドアを開けるとリビングがあるらしい。


 ドアの前に立つと何やら奥からサクサクと音が聞こえてくる。包丁で何かを切っている音だろうか。と、なると誰かが既に起きているのは確定、俺はゆっくりとドアを開ける。


「あ、おはよう。神谷君。」

「修おっそいわよ。これだから帰宅部は。」


 ドアを開けるとそこにはエプロン姿の2人が立っていた。キッチンとリビングの間は仕切りで隔たれていて、その上エプロンの上からだからあまり服は見えなかったが、花園はいつもの黒髪ポニテに戻っていた。


「それは悪うござんしたね。おはようございますっと。」


 花園は早起きをしてても何らおかしくないが、普段遅刻すれすれの菜月がこんなに早起きをしているというのは意外だった。


「修は?まだ寝てる?」

「ぐっすりだよ。つーか女子組起きるの早すぎだろ。」

「起きたのは6時くらい……かな?」


 6時……。高校に入ってから6時に起きたことなんてあっただろうか。


「うわ早え……。で、そんな早く起きて何作ってんだ?」


 俺はリビングからキッチンを覗き込む。すると台所にはキャベツと、長方形に切られた白いパン、そして卵やトマトが目に入る。


「見ての通り、お弁当よ。中々クオリティ高いでしょ?」

「お、じゃあこれはサンドイッチか。うまそうだ。」


 さっき、ドアの外から聞こえてきた音はキャベツを切る音とみていいだろう。


「でも、弁当なんかこしらえて2日目はどこに行くんだ?」

「ふふ……よくぞ聞いてくれました。1日目は海と来たら次は……?」

「……山か?」

「ザッツライト!」


 そう言って菜月は指をパチンと鳴らす。朝からテンション高けえなおい……。


「神谷君も山登るのに賛成かな?一応聞いておきたいんだけど……。」

「全然いいぞ。で、どこに登るんだ?この近くに山はあるのか?」

「どこって昨日行った森よ。」

「え?あそこに山なんてあったか?」


 肝試しの時点では既に暗かったからあまり定かではないが、山なんてあっただろうか。


「確かにそう言われるとあれは山って言っていいのか分からないけど、あの森を少し進むと山らしきものはあるんだよ。標高は200mくらいだけどね……。」


標高200mと言われてもいまいちピンとこないが、富士山の標高が3776mであることを考えると相当低そうに聞こえる。比較対象が間違っているかもしれないが。


「ま、俺らもガチな登山の服装なんか用意してないしそれくらいが丁度いいかもな。」

「そういうこと!後は開登だけだけど、開登は何でもオーケー出しそうだし大丈夫っしょ、うん。」


 相変わらずの開登の雑な扱いっぷり。なんか安心するものがある。


「ところで、朝はどうするんだ?弁当ってことは今用意しているこれは昼飯ってことだろ?」

「だから朝は近所のドマクドナルドでもいいかな?」

「了解っと。」


 ドマクドナルドだと今の時間帯は朝ドマックがやっていて、いつもとハンバーガーのメニューが違うし、それはそれで楽しみだ。


 俺がそう了承して会話が終了すると、菜月と花園は再び調理に集中。俺はその間リビングに座っているわけだが、2人が頑張っている真横でテレビを勝手に点けて見るわけにもいかない。


 つまりは暇、ということだ。開登を起こしてきてもいいが、気持ちよく寝ているのを邪魔するのは気が引ける。毎朝、鬼のような妹に安眠を邪魔されているからなおさらだ。


「……何か俺に手伝うことはないか?」


 と、いうことだから俺はエプロン姿の2人に話しかける。今更俺の入るスペースがあるのかどうか分からないが、物は試しだ。


「手伝うって修何か料理出来るの?」

「悲しいことに皆無です。パンにバター塗るくらいしかできない。」


 凛の料理のスペックが昔から高いから、俺が何もせずにここまで育ってきたのが現状だ。お母さんはたまに家に帰ってくるけど、そのような日は大抵外食で、あまり手料理の印象はない。


「って言われても下ごしらえはほとんど終わっちゃったから……」


 まあそうだよな。この2人が起きてから40分後に俺が起きてきているわけだから、菜月は今更何言ってんだこいつみたいに思われているかもしれない。


 と、思ったが束の間だった。菜月の言葉にはまだ続きがあった。


「栞にレクチャーしてもらってサンドイッチに具でも挟んでくれる?」


 これに動揺したのは花園。それもそうだ。いきなりこんなこと言われたら俺が花園の立場だったとしても困る。


「いやいやいやいや、神谷君にも迷惑かかっちゃうかもだし、ここは朱音ちゃんが……。」

「あ、じゃあ私髪整えてくるから!」


 菜月はわざとらしく俺と花園をキッチンに置き去りにしていく。エプロンを脱いで初めて菜月の服を詳しく確認できた。


 白のフリースに茶色のロングスカート。何というかボーイッシュな菜月からはあまり想像できない清楚な一面が見れた。そしてそのままドアを閉めて行ってしまう。


 ……気まずい。とても気まずい。肝試しの時は何とか話題を出せたが、共同作業となると何ともぎこちなくなってくる。


 だが、こうなってしまったからにはやるしかない。


「……このサンドイッチには何の具を入れればいいんだ?」


 花園はさらに動揺した様子だったが、すぐに応答してくれた。


「それは、卵とハムかな?」

「了解っと。」


 そう言われて俺はまずはゆっくりとハムを入れていく。花園の指導がなければ何もできない自分だから、お言われたことは忠実に、忠実にこなしていく所存だ。


 丸形のハムを入れた後、卵を塗っていく。料理をしたのは中学の家庭科の調理実習が最後だっただろうか。それすらも皿洗いに専念していたから料理をしたとカウントしていいのか分からない。


「あ、それ。」

「……何か間違えたか?」


 花園がストップをかける。俺は言われた通りに卵を塗っていたつもりだったが、どうやら間違っていたらしい。


「卵は中央に寄せて塗った方がいいかなって。食べるときにはみ出ちゃったらもったいないし……。」


 言われてみれば、俺は均等な厚さで塗っていた。言われてみないと気づかないものだ。


「なるほど……。」

「お、おせっかいだったらごめん。」

「いや目から鱗だ。花園ってやっぱ料理できんだな……。」

「い、いや全然だよ!ほら次行こ!次!」


 赤面して焦りながらもそう謙遜する花園は、どこか嬉しそうだった。

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