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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
1章 Grew Heart
3/59

03.イチニチメ

今回から1章になります。

よろしくお願いします。

「おにーちゃん起きて!朝だよ朝!」


 妹、神谷凛(かみやりん)に起こされて俺はぼんやりとしたまま少しだけ視界が開けた。そのまま枕元のスマホのホームボタンを押して起動させる。今はとりあえず現在時刻が知りたい。


 時刻は6時15分。家から学校までは丁度1時間程なので今起きるのははっきり言って馬鹿だ。俺は再び布団を被って二度寝の体制へ。


「起きて起きて起きて!」


 とうとう凛は俺の身体ごとゆっさゆっさと揺らすように。一体何がそこまで俺を起こさせようとしているんだ。

 正直言ってまだ春休み気分だけどさすがにもう少し寝かせてくれ……。


「おかーさん修起きない!」


 凛はようやく諦めがついたのか階段を降りて下のリビングで朝食を作っているお母さんに結果報告。しめしめ、今日は勝ったぞ。


 全く今年で中3だというのに反抗期の一つも訪れる素振りを見せない。未だにお兄ちゃんと慕って定期的に遊ぼうと言ってくるわ、お母さんの手伝いはかかさないわ、ブラコンだかマザコンだか分かったもんじゃない。


 まあそんなのはどうでもいい。後20分、寝てられるなこれは。これで再び安眠できるな……。


「ってあっつ!!」


 と思った矢先だった。何が起きて朝からこんなに叫んでいるのかというと突然頬に謎の高温の物体が接触したのだ。思わず布団そっちのけで跳ね起きる。


「おはよう。おにーちゃん。」


 謎の高温の物体の正体は熱々に焼けたソーセージだった。肉眼で見ても湯気がもくもくと出ていて暑苦しい。そんな凶器とも言えるものを菜箸に挟んで持ち歩いている、末恐ろしい妹だ。


「そこまでするのかよ……。」

「新学期くらいは早く起きてもらわないとね。」

「別に早く起きなくても学校には誰よりも早く着いてるし。」

「でもその代わりに朝ご飯食べてないじゃん。いい?朝ご飯ってのは一日の活動のエネルギーをチャージすると共に…」


 いやお前は中学校の保険の先生か!そんな説明小学生の頃から耳に胼胝ができるほど聞いているわ。


「ああ分かった分かった。今から行くから先行っててくれ。制服に着替えるし。」

「あ、ちなみにこのソーセージはおにーちゃんのだから!」

「もう好きにしてくれ!」


 全く朝から騒がしい。凛が部屋から出て行ったのを見るとクローゼットから制服を取り出し、着替え始める。普通の公立高校ということで男子の制服はどこにでもある学ランだ。


 女子の制服は下は紺のスカートに、上は白のブラウス、そしてその上に紺のブレザーを着てかつ学年で指定されたリボンをつける。今年で言うと新1年生は赤、新2年生は黄、新3年生は緑だ。


 正直言って学校周辺の中学生からはあの制服かわいいと話題らしい。近年では制服で学校を選ぶ方々もいるようだがこの学校はそういうことは出来ない。答えは簡単。無駄に偏差値が高いからだ。60後半くらいなかったっけ。


 とりあえず俺は制服に着替えるとすぐさま一階のリビングに向かった。せっかく早く起きたんだから朝食とやらを頂くことにする。


「あ、やっと降りてきた!ご飯冷めちゃうよ!」

「へいへいっと。母さんは?」

「もう仕事行っちゃったよ、起きてくるの遅いから……。」


 そんな凛の言葉を横目に席につく。ご飯に味噌汁、目玉焼きにソーセージ…何か洋食と和食が混ざりに混ざっている。むしろこのメニューにソーセージいるか?もしかして俺に攻撃するときに使ったソーセージを無理やり入れ込んだんじゃあ…。


「……いただきます。」


 思えば朝ご飯をまともに取るのっていつ振りだろうか。春休み中は起きるのが遅くて朝ご飯兼昼ご飯みたいになってたし。


 何はともあれ時間があるって良いことだ。心にも余裕がもてる。


「ごちそーさまでした。」

「……はええなお前。」


 一方の凛は俺とほぼ変わりばんこに完食。向かいのプレートを覗くも米粒一つ残っていない徹底っぷり。見ているこっちも清々しい。


「まあねっ。じゃ、私ガッコ行ってくるから。鍵閉めといてね。」


 食器を洗面台に置いて、休む間もなくバッグを担ぐ。


「……そんな早く学校行って何するんだよ。」

「何って朝練だよ朝練。バスケットボール部の。」


 ……朝練か。久しく部活に行ってないものでその選択肢が頭からすっかり抜けてしまっていた。


「……おう、じゃあな。」


しかし凛は出て行かずにずっとドアの前に立ったままだった。


「おにーちゃんなんか最近変じゃない?」

「変って何がだ?」

「なんか上手く言葉に表せないんだけども…なんかこう変なの!」


 なんだそりゃ。顔からもどかしさは伝わってくるが一体何を言おうとしているのやら。


「もしや恋とかしちゃってたり……?」


 って精一杯絞り出した言葉がそれかい。そう言って凛は精一杯の上目遣いをするが俺はそれをばっさり切り捨てる。


「ねえな。絶対。」

「……だろうねぇ。じゃいってきますっ。」


 そう言って凛はバタンとドアを開けて出発。あれだけ焦らしといていざ出発ときはあっさり行っちゃうんだな。


 凛がいなくなっただけで急に部屋の中が静寂に包まれた。うるさい奴がいなくなったんだから当然だわな。


「……さっさと食って出てしまうか。地味にクラス替えも気になるしな。」


 来年も同じクラスになれるといいね、か。昨日、花園と開登と菜月の3人から同時に言われた言葉が頭をよぎる。


 もし、本当に4人で同じクラスになれたら……。いや、そんな作り話あるわけないか。


 そう否定しつつ俺はソーセージを頬張った。


「……上手いなこれ。」



「やっと来たか修!やったぞ、俺らまた同じクラスだぞ!」


 校内に入るや否や壮大なネタバレを食らったのは全て開登から発せられた言葉のせいとしか言えない。俺は元々の登校時間が早いのでいつもの時刻で家を出たが、クラス替えの表が貼ってある正門前には予想を遥かに超える人だかりができていた。


「……あのなあ。同じクラスなのは素直に嬉しいけども、やっぱりそういうのって自分で見たいじゃん…?」

「いやあ早くこの気持ちをお前と共有したくってな。にしても普段は微妙に冷めてる修もやっぱそういうのは気になるんだな!」

「知ったことかい。」


 俺はそう言って強引に開登を振り切り、人が寄り集まっているクラスの名簿の表のところへと急ぐ。2年1組から右に2,3,4組と並べられている。

 高校2年ともなれば自分の出席番号が大体どの辺かさすがに把握しているものだから、大体10番あたりを探しているとどんぴしゃり、7組の9番だった。


 後は7組の列を縦に読んでいくだけだ。上から読んでいくとまず目に留まったのは2番の入江開登。なるほど、確かに同じクラスだ。


 後は去年同じクラスになっていて、名前が知っている人もいれば、完全にお初にお目にかかる人まで様々だったが、次に目に留まったのは相当後だった。


「菜月……。」


 27番、菜月朱音の名が7組の表に刻まれていた。ここまでで幼馴染三人が何と同じクラスに。こんな偶然ってあるのか?


「あら、呼んだ?」


 幼少期から聞いている高い声に俺はコンマ2秒の速さで振り向く。するとそこにはお馴染みのショートカットの菜月朱音がそこに立っていた。


「ってお前いたのかよ!びっくりするなあ……。いつもは登校遅いからなおさらだし。」


 菜月はお世辞にも素行が良いとは言えない。登校は時間ギリギリか遅刻の2パターンだし、それだからこそ今この早い時刻に菜月が学校にいるのが意外中の意外なのだ。


「その言い方って私がいつも素行不良みたいじゃない。」

「いや、そのまんまなんですけど……。」

「まあこんな茶番はどうでもいいわ。やっぱりクラス替えって気になるじゃない。」


 自分から始めておいて茶番扱いとはこれ如何に……。というか俺と菜月が全く同じ思考っていうのが何か嫌だ。


「当然、明日からもこの時間に来るんだよな?」

「さあね。ええっと私の後ろの出席番号は……。」


 俺の渾身の皮肉を華麗にスルーしつつ菜月は名簿を眺める。そういや、俺も菜月から後ろの出席番号を確認してなかったな。


「ええっと……仲村さん、丹羽さん、野田君に…」


 すると後ろからさらに聞き覚えのある声がしてきて、俺と菜月は振り向く。


「31番、花園さんだね!」


 いつの間に後ろにいたのか分からない。ただ気が付いたころにはいつもの屈託のない笑顔の開登がそこに立っていた。

 声の主は開登だった。

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