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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
2章 Children Voice
28/59

27.私達……もう友達、かな?

「お待たせー!待った?」


 まるでデートに遅れてやって来る彼女のような口調で、菜月と花園が顔を出す。服装は2人共テニスの練習着か何かを着ていて、下も練習着の流用だろう。


 可愛らしいパジャマ姿を想像していたのだろう開登は、俺の横で小声でため息をつく。本当に何に期待しているのだろうか……。


「まあ結構待ったな。長そうだろうとは思ったけども……。」

「女の子の風呂なんてそんなもんなのだ。上がったことだし、私達もコーヒー牛乳飲もっかな。」


 これだけ時間があれば、もう俺たちが銭湯の醍醐味、コーヒー牛乳を飲んでいると思ったのだろうが、実は俺たちもまだ飲んでいない。


「じゃあ俺たちも飲むとするか。」

「あ、あれ?神谷君達も飲んでないの?時間はあったのに……。」

「それが、2人で話して、4人揃ってから飲もうぜって話になったんよ!」


 風呂から上がってから時間が経ってからじゃ、美味しさも少し減ってしまうが、何より皆で飲む方が上手い。絶対そうだ。


「あんた達にしちゃ粋なことするじゃないの……。」

「たまにはこういうのもいいじゃないいいじゃない。」


 そんな会話をしつつ、4人は瓶に入った昔ながらのコーヒー牛乳を購入。120円にしては瓶だから小さいが、ここまで来て大きさに文句を言ってられない。


 そして腰に左手を当てて、立ったまま4人はグビグビと飲んでいく。銭湯でコーヒー牛乳を飲むお決まりのポーズだ。死ぬまでに1度やってみたかった。


「ぷはあ!」

「やっぱりこれ、ここで飲むと美味しさ1,5倍増しだね……。」

「初めて来たけど妙にしっくりくる味ね!」


 皆、口々に感想を言う。やっぱりこれを飲まないと終わらないな。定期券の範囲内だし、もう1度来るのも全然ありだ。


「……でさ、ずっと気になってたんだけど。」


 そんな中、開登が重い話のような切り出し方をする。何が言いたいかは俺も分かった。だって不自然すぎるもの。


「花園さんのポケットから異質な存在感を放つ、それは何……?」


 花園のポケットに何やら物体が入っているのだ。大した大きさではないのだが、ポケットに入っているのでやたらと突き出て見える。あからさますぎたから、向こうから切り出してくるだろうと思って放っておいたらこの感じだ。


「あ、こんなところにくじが。」


 そしてそれを指摘された花園は何をするかと思ったら、まさかの棒読みで中に入っているものを取り出す。


 中からは小さめの正方形の箱に、割り箸が4本突き刺さっていた。どこからどう見てもくじだ。


「こ、これは肝試しをやるときの組み分けをするくじに違いない!」

「は、花園さん?」


 いつもおどおどしている花園とのギャップが凄まじく、見ているこっちも中々に辛い。


「くじということは同じ番号を引いた者同士、ペアになればいいんだね!じゃあ早速引いてみようか!」


「……よく頑張ってるわ、栞。」


 その後ろでは菜月が涙を流している。やはりこいつの差し金か……。にしても花園にこんな演技が出来るとは……。



「……なんか、どきどきするね。」


 コースは既に菜月が決めてあるらしく、なぜか準備されてある紙を受け取って、スタート地点であるこの銭湯を出発する。


 くじを引いた順番は、開登、菜月、花園、俺の順。引きたがりそうな2人は最初に引かせたのだが、そこで1と1がくっ付いたので、俺らはくじを引かずにペアが決まったというわけだ。


 それにより、俺、花園ペア。菜月、開登ペアに別れたわけだが、何とも不安だ。


「……そうだな。ええっと、この紙によれば……中間地点にお札が落ちてて、それを拾ってゴールの墓に貼ればいいらしいな。……なんかすげえ凝ってるな。」

「なんてったって朱音ちゃんが考えたんだからね……。」


 そんな会話をしつつ、俺と花園は距離を取って森の中を進んでいく。ここ数時間の楽しい時ですっかり忘れていたが、俺は花園栞を1度振っているのだ。


 2人きりになるとそれがとてもこみ上げてくる。思えば今までにしたスキンシップの回数はあのハイタッチの1回。何となく良いムードなのは分かっているのだが、手を繋ぐなんて飛ばしすぎだ。


 そしてこの森もどことなく不気味だ。花園もそれを感じ取っているのか、徐々に俺との距離が縮まってくる。露骨に避けるわけにもいかないし、どうすればいいのか。


「……何かさ、最近この関係がおかしいなって思うんだよね、私。」

「……この関係って?」

「1年の時は、部活で一緒だったのにも関わらず、あんまり接点なかったけど、今になって朱音ちゃんや、入江君を通じて、仲良くなることが出来たって……ことかな。」


 そう言われればそうだ。気まずくなるだけだから、向こうもあの始業式の前日のことには触れないようにしているが、振った人とここまで距離が近づくなんて、その時の俺は考えもしなかった。


「……そうだな。今こうやって泊まりに来てるのも、あいつらのお陰かもな。」

「ねえ。」


 花園栞は森の小道で立ち止まった。それにすぐに気づけず、俺は少し先で立ち止まって、花園を振り返る。


「……?」


 花園栞はしばらく俯いていたが、やがて大きな黒い瞳を俺にキラキラと向けて、ゆっくりと話した。


「私達……もう友達、かな?」


 俺はその問いに目を見開いた。難しい質問だった。数学の難問にもない、英語の長文読解でもない、それとはまた違う意味の難問だった。


「それは……!」



「しっかしたまには開登に乗っかってみるものねえ。」


 森を移動中、私は予定通り、栞と修を先に行かせると、思わず出てしまった本音を開登にぶつけた。


「これに関しては、失敗しなかったことに俺も驚きだよ。結構綱渡りだったからねえ。」


 最初から私と開登は手を組んでいた。開登は栞の恋心を知らないはずだから、修と栞を2人にさせたら何か面白そうじゃない?って開登に話を持ち掛けたら案の定オッケー。


 それからの作戦はこう。私が言うよりその方が面白そうだから、栞に肝試しをやろうって言わせて、言い出そうとしなかったら開登が無理矢理、栞に尋ねる。栞の対応はちょっと予想外だったけど。


 そして最初に開登と私が引く。種明かしをすると、このくじには最初から1番しか入ってない。ということはどれを引こうが出るのは1。これで私と開登を確定で結びつける。


 後は、2人を先に行かせて、開登が考えたコースは回り道するよう作られているから、私達が先に行って、驚かせる側につくってわけ。


「まあでも開登は驚かせる方が好きでしょ?自分が驚かされるより。」

「ご名答。今回も張り切ってグッズを用意してまいりましたよっ。」


 驚かすための手段は私が考えるよりも、悪知恵がはたらく開登に考えさせたけども、今になってそれが不安になってくるものね……。見れば開登、不敵な笑みを浮かべてるし。


 そして開登が紙袋から取り出したのは、クマの着ぐるみと、お化けの着ぐるみ。私の体がすっぽり入りそうなほど大きいサイズのもの。


「想像以上に張り切ってるわね……。」

「そう見えるけど、これ2つとも100均で売ってたものだしね。実に良い買い物をしたよ。」

「最近の100均ってこんな進化してるのね……。」


 そんな会話の最中で既に開登はクマの着ぐるみに着替えている。というか私に選択権は無いのね!


「ま、ここら辺でいいかな。」


 驚かすポイントは2つ。お札の前後。私達は適当に目測をつけると、ターゲット襲撃に向けてスタンバイした。

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