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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
1章 Grew Heart
17/59

17.変われ

「とうとう本番か。」


 なんだかんだで体育祭も大詰め。残すはこの騎馬戦と、障害物競走、そして全員リレーのみだ。


 大縄も無事に終わり、その後のクラス対抗の綱引きの結果もまずまずといったところ。点数速報も出て、大縄で少し巻き返したのか7組は3位に浮上。


 現時点で2位の3組までは12点、1位の4組までは16点差。2位までは少し距離があるが、抜かしてしまうと優勝はすぐそこだ。


 ただそれは1位と2位が背っているということでもある。その優勝レースに入り込むためには大縄で引き込んだこの流れをある程度キープしつつ、点数を稼がなければならない。


 そのためにもこの騎馬戦は大事と言える。そして土台の3人も重要なのだが、明暗を分けるのは上に乗る俺だ。


「練習通りやりゃいけるいける。」


 渡部が自信ありげにそう言うも、練習と言っても適当に陣を組んだりしてみただけで済ましているのでぶっつけ本番と言えばそうなる。


「とりあえずまずは1年の帽子をどれだけ稼げるかだ。」


 この競技だけは全学年一斉にスタートする。1学年8クラスなので、24騎が争うことになるのだが、間の学年の俺らからすれば、1年の帽子を取っても、3年の帽子を取っても結局ポイントは変わらないのだ。


「でもそれって皆が考えねーか?」

「かといって3年に突っ込むのは無謀じゃないか……。」


 そんな行き当たりばったりの作戦を考えている中、俺は靴を脱いで3人の組んだ馬の上にまたがる。気持ちいい眺めだ。


 白線で囲まれた半径3メートルの円の中が戦場だ。


「位置について!」


 周りの応援の中、監督の先生がピストルを構える。


「……で、結局作戦ってどうなったんだ?」

「まあ取れそうなところから取っていこう!」

「って適当かよ!?」


 そこまで考えておいて結局それかよ!?まあ、作戦なんて上手くいくものじゃないしな。ましてはぶっつけ本番でやってのけるほど俺は本番に強くない。


 むしろその方が枠にとらわれないってものだ。


「スタート!」


 そしてバン!と銃声が鳴り響く。午前は暇に暇を重ねたこの体育祭。なんだかんだで個人競技としては初出場だ。


 最初の予想通り、9割9分ほどの騎馬はまだ慣れていない1年生を迷わず狩りに。残りの1分はどこかというと、俺らだった。


「準備しとけ神谷!」

「奇襲じゃあ!」


 最初は他の騎馬から距離を置いて様子見する馬もあるが、俺らの馬はそんなものはもろともしないフルスピードで先輩の強大な馬に突進していく。


 当たり前のように1年の方に向かっていた先輩も意表を突かれたのか、こちらの反応に少し遅れてしまう。慌ててこちらに向き直していざ対戦へ。


 先輩と言えども上に乗っている人は小柄な人ばっかりだ。そしてこちらには開幕フルスピードの流れと、腕のリーチがある。


 先輩の攻撃をすり抜けて、俺は帽子に腕を伸ばす。そしてガッシリと1つ目をつかみ取った。


「いいぞ神谷ー!」

「神谷君ファイト!」


 その瞬間にクラスの男女問わず声援が入ってくる。やっと俺も日の目を見られるときがやってきたか。元々、こういう目立つポジションはあまり好きではなかったけどたまにはいいものだ。


「ナイス神谷!このまま突っ込むぞ!」


 そしてその流れのまま1,2,3年生が入り乱れるフィールドへ。俺はその流れのまま一瞬にして背後から帽子を奪い取る。これで2個目だ。クラスの逆転を考えるともう1個欲しいところ。


 と、そのときだった。突然一番後ろを守っていた渡部が声をあげた。


「志賀!近藤!重心下げろ!」


 突然のことにびっくりするも、2人は重心をさげ、渡部本人も重心を下げたので、体勢が低くなる。あまりに急に下げられたので俺はバランスを崩しかけるも、なんとかもちこたえる。


「……ちっ!」


 見ると俺らが背後から帽子を取ったのに同じく、俺らの背後にも敵が迫ってきていたのだ。最後尾を守っていた渡部だけが勘づくことができた。


 が、重心を下げたことにより一時的に攻撃を防ぐことが出来たものの、機動力が著しく低下したのである。まだ生き残っている騎馬はこれを見逃すはずもなく、一斉に攻め込まれる。


 さすがにもうきついか……。そう俺が諦めかけた時だった。


「まだ終わっちゃいねえ!」


 土台を担っていた近藤、志賀、渡部の3人は一気に下げた重心をあげ、帽子を取ろうとかが見込んでいた敵にアッパーを食らわせる。


 相手が先輩だった気もしなくはないがこれはお祭りだ。俺はもろに全身アッパーをくらってひるんでいる騎の帽子を奪い取る。


「よし!ってあっ……。」


 と、同時に快進撃を起こし続けた俺の馬もとうとう倒れた。背後から帽子を取られたのだ。



「神谷すげえなお前!」

「皆のおかげで逆転したんじゃない!?」


 返ってくると同時に皆は大盛り上がり。帽子自体は3つだけだが、上位はやはり強い先輩で固められているため、2年の中では好成績な方だろう。


 1つにつき4点はいるので、4かける3で12ポイントだ。


「2年学年1位!6組!16点!」


 終わると同時に学年ごとに順位が発表される。どうやら6組が俺より一つ多く帽子を勝ち取ったらしいが、優勝レースには全く関与していないクラスだから対して支障はないはずだ。


「2位、7組!12点!」


 そしてそれを聞くと同時に再度クラス中が歓喜に沸く。これで少なからず3組と4組には差を縮められる。にしても行き当たりばったりでも何とかなるものだ。


 そして俺らの活躍で満面の笑みをこぼすクラスを見て思わずにやけてしまう。開登の気持ちが何となく分かった気がした。




 私はずっと観客席から見ていました。全員リレーで皆の応援の力で3位に入り込んだ様子も、大縄でラスト1回で逆転する様子も、そして騎馬戦で高得点を取って喜んでいる様子も。


 でも、私は皆と一緒には喜べないでいました。競技に参加できないから。でもその代わり、声を出して応援するってずっと前から決めていました。


 でも、いざ本番になると……だめでした。小さい頃から引っ込み思案な私が、今更大声で応援もできるわけなかったのです。


「体育祭、楽しんでいるかい?」


 そんなネガティブなことを考えていると、私の隣に河辺先生が座りました。こうして先生と2人っきりで話すのは何気に初めてかな?


「見ているだけでも楽しいです……。」


 私の口からは嘘が飛び出てしまいました。見ているだけでも楽しいというのは間違ってはいないのですが、やっぱり出たいものは出たいのです。


「まあけがは仕方ないよね。でもその分応援しないとね!」

「は、はい……。」


 私は少し胸が痛くなりました。眼鏡の先でニッコリと笑う先生はとても眩しかったのです。だけど、すぐその顔は曇ってしまいました。


「……なんか煮え切らない顔だね。」


 私はビクッとしました。曇った顔で言うものだから尚更です。やっぱり先生は先生。簡単にごまかしきれるものではなかった……。


「本心を言うと、競技に出たかったなあ……って。」


 私は本当だったらこの後の障害物競走に出るつもりでした。先生の言う通り、けがは仕方がないことなんですけども、その競技がこれから始まるとなると、出たいという気持ちが加速してしまいます。


「……花園さんが本心を言うなんて相当のことだね。」


 先生は何を言うのかと思ったら、青い空を向いておぼろげにこう言いました。


「えっ?それってどういう……。」

「数カ月しか接してないけど、花園さんは言いたいことがあっても心にしまいこんじゃう人だよな……って以前から思ってはいたんだけど、珍しく正直に言ってくれたからさ。」


 自分でもその自覚はありました。昔から物事を正直に言って、相手が傷付いたらどうしようとか余計なことまで思ってしまうのです。


「つまりは自分に自信を持て!ってことだね。」


 そう言って先生は私の腰をドンと叩きました。自分に自信を持て!入江君からもこの前言われたことでした。


「じゃ、先生また本部の方で仕事あるから!最後まで頑張って!」


「……ありがとうございました。」


 私はそう言って立ち去る先生の小さい背中に向かって深々と礼をしました。


 変わるなら今しかないのかもしれないーーーー。

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