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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
1章 Grew Heart
14/59

14.準備期間

「さあ、騎馬戦どうしようか。」


 あれからさらに数日が過ぎた。本番も近くなっていることで、クラスの一体感というものもまとまっている中、個人競技は個人競技で調整しなければならない。


「どうするってまずは土台の3人を決めるところからだよなあ。」


 ここでメンバーを紹介しておくと、俺と、柔道部の近藤、志賀、野球部の渡部の3人。土台の3人を決めるということは上に乗る1人を選ぶことに等しいのだが、


 残りの3人は柔道部と野球部なのだ。必然的に俺以外の3人はガタイがいい大柄なやつが揃うことになる。


「決めるってお前ら無言で俺の方見るなって……。」


 このメンバーだとまあ俺が上に上がることは必然となるわけだ。俺以外の3人のうちどれかが上がるよりは俺が上がる方が賢明だ。


「いやだって体格的に神谷になるじゃん……?」

「体格的って言われても他の3人のガタイがやばすぎるだけで俺は平均身長、平均体重なんだよなあ……まあやるけど。」


 何度も言うが俺は平均身長、平均体重だ。身長も高くはなければ低くもない。体重も重くもなければ軽くもない。もっと小柄な人がいたらまさにぴったりなのだが、こればっかりは仕方がない。腹をくくろう。


 後、昔からの友達のように呼び捨てで話しているが、俺はこの3人とは全くの初対面。ああ、あそこでジャンケンに勝っておけば今頃こんな会議をせずにすんだろうに……。


「よしじゃあ決まりだ!今から練習しに行くぞ!」

「今から!?」


 謎の流れでそうなるが今は昼休み中だ。さすがに皆が教室でのんびりしているこの時間にまで練習をするのは……。


「善は急げだぞ!」

「それちょっと使い方間違ってない!?」




「いくよー!」

「せーのっ!」


 結局、あれから大縄の回し手はガタイもよくてパワーもある柔道部の2人に決まった。まあそれは最初から分かり切っていたことなのだが、今思うと俺と開登が回すくだり明らかにいらなかったよなあ……と。


 悪い例を見せられたことで回し手に緊張感を与えることが出来たとは……さすがに考えられないか。ポジティブすぎる。


「お疲れ様ー!」

「もうすぐ本番だねー!」


 それから数分後、本日の練習は幕を閉じる。練習の時間というのは学校側から既に決められていて、8時10分には終わらせましょうということになっている。


 まがりなりにも進学校だから朝学習の時間は確保しておきたいという考えなのだろう。


「にしてもこんな上手くいくとはなあ……。」

「ね!もしかしたら本当に優勝できるんじゃない?」


 何が面白いかというと、このクラス、やたら跳べるのである。まあ大縄なんて言ってしまえばタイミングに合わせて跳ぶだけなのだが、それでも苦手な人はごまんといる。


 基本10回以上は続くし、30回続くことだってある。続いて跳べるごとに皆のモチベーションが上がっていくから良循環なわけだ。


「やっぱ回し手って重要だわ。」


 そう皮肉をこめるのは優秀な回し手の近藤くん。目線も俺の方向きながら言っているしこれは宣戦布告とみていいのだろう……。


 近藤の一言でクラスには笑いが起きる。このクラスもまだ始まって1カ月だけども、ようやく雰囲気が良くなってきた。


「俺は跳ぶ側のプロフェッショナルだからいいんだって……。開登もなんか言ってやれ……ってあれ。」


 俺はそう言ってから気づいてあたりを見渡した。やけに今日は周りが静かだと思ったら入江開登がいない。


「俺もずっと気になってたんだけど開登どこ行ったんだあいつ……。」


 志賀も会話に入ってくる。普段あんだけうるさいからいなくなるとすぐ分かる。


「そういや入江君いないねー。」

「1人いないだけでなんか寂しいよねえ。」


 どこへ行ったんだ……?




「おはよう、花園さん。」


 私が教室の窓から皆が跳んでいるのを見ていると、突然後ろから入江君が話しかけてきました。ここのところ毎日、朝はこんな感じで窓際の席の友達から机を借りて、座って見ています。


「おはよう。練習はどうしたの?」

「ちょっと職員室に用事があってね、今から校庭に出ても練習ももう終わりだしいいかなって。花園さんこそ、怪我の方は大丈夫なのかい?」


 あれから、病院には行ったのですが養護の先生が言う通り、大事ではありませんでした。しかし、全治2,3週間に加え、絶対安静を余儀なくされました。


 入江君は隣の席に座りました。隣って言っても机と机の間隔はそれなりに空いているので、隣ってほどの隣でもないですよ……?

 

「静かにしていれば大丈夫だって。でもあまり歩きすぎて悪化しても、ね?」

「……だからこんなところから見てるのか。」

「本当は皆のそばで見ていたいんだけどね……。」


 入江君も去年から同じクラスだったけど、あまり話すことはなかったのです。だけど何というか一つ一つの言葉に優しさがあるというか、とても話しやすいのです。


「本番はどうするんだい?」


 本番までは後1週間ほど。全治には最低でも2週間かかる見込み。当然、その間の運動はNG。


「出れないから私は旗でも振って応援してようかなあ……。」


 教室の後ろにはまだ作成途中のクラス旗がありました。クラスに1つずつ、自由な絵を描くのです。私は制作に関わってないからあまりデザインまでは分からないけど……。


「花園さんが応援してくれるとなれば百人力だね!」


 そう言って入江君は無垢な笑顔を見せます。この笑顔にもどこか少年の頃が残っているというか……。そういえば、いつかの部室で聞いた少年時代の話の続き、まだ聞いてないなあ……。


「もう……じ、冗談言わないで。私なんか……。」

「いやもう全然だよ!花園さんはもうちょっと自分に自信を持ってもいいと思うよ。」


 入江君は私の言葉を無理矢理遮ってこう言ってくれました。


「それは……どういうこと……?」

「どういうことってそのままさ。花園さんかわいいから、もうちょっと自信持ってもいいんじゃないのって。」


 私はそれを聞くと無意識のうちに顔がカーっと赤くなるのを感じました。かわいいなんて同性にもあまり言われたことないのにましては異性からなんて……。


「そっ!そ、そんなことないって……。」


 思わず声も裏返ってしまいます。動揺してるのバレバレだよこれ……ああ恥ずかしい。


「……まあこれは本人の気の持ちようだしね。」

「じ、じゃあ逆に入江君は……自分に自信があるの……?」


 私は真剣な眼差しで聞きました。


「俺?俺はね……。」


 私が息を呑んだ瞬間、教室のドアがガラリと空きました。そう、皆が帰ってきたのです。


「……。」

「……。」


 ここで初めて、自分が置かれている状況に気づきました。教室で男子と2人っきり。はたから見たら付き合っているみたい……。


「やーやー皆さんお帰りで。いやー、今日用事があって練習出れなく……。」

「お前花園さんに何をしたあ!?」


「へ?」


 私と入江君は開いた口が塞がらないというものです。


「何をしたって僕はただ純粋に会話を楽しんでいただけで何もしていなくて……。」

「嘘つけ!本当のことを話せゲス野郎!」

「いや本当に何もしていないんだって!!」


 そういえば入江君クラスだといじられっぱなしだったなあ……。気が付けばクラスの男子は皆入江君を追いかけまわしています。


「お、修!聞いてくれよこいつら人の話聞かなくてさ!」


 そう言って遅れて教室に入ってきた神谷君に泣きつきますが


「お前らこいつ捕まえたぞ。後は煮るなり焼くなり好きにしてくれ。」

「ナイス参謀!」

「お前もグルかあああ!」


 そのまま神谷君はガッシリと入江君を掴んで話しません。女子はそれをクラスの端で眺めながらクスクスと笑うばかりです。

 そしてバトルは入江君対入江君以外に突入します。

 

「そういえば栞ちゃんは入江君と何を話してたの?」


 そんな中、話しかけてきたのは香住優紀さん。おっとりした目のかわいらしい女の子です。他の女子も興味津々って感じで私の方を見てきますが、私はニッコリと笑って答えました。


「秘密っ。」

「えーーずるいー。」


 そういえば、入江君の職員室の用事って何だったんだろう……。まあ今はいいか。




 そして1週間後、遂に本番の日がやってきたーーーー。

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