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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
1章 Grew Heart
13/59

13.ぷらくてぃす

今回からずれにずれた時系列は元通りになります。

よろしくお願いします。

 時刻は6時10分。外では小鳥がチュンチュンと鳴いていて、朝の日差しが心地よい。そんな朝早くに俺はトースターとにらめっこして朝ご飯を作っている。


 作るといってもそんなたいそうなものでもなくて、本当に一時的に胃を満たすものだけだ。凛は自分で毎朝早く起きて、主菜、副菜と作っているらしいが改めてすごいと思う。


 お母さんは朝いる日もあればいない日もある。俺がまだ小さい頃にお父さんは不治の病で亡くなったとかかんとかで、お母さんはその分も女手一つで育ててきたというわけだ。


「……まあこんなものでいいか。」


 程よくパンが焼けたところでトースターの電源を切り、パンを取り出す。後はバターを塗るだけだ。


「おはよー……って何でいるの!?」


 台所でバターを塗っていると凛が起きてきてリビングまで降りてきていた。凛の声は静かな部屋によく響き渡る。

 とはいえ、まだピンクのパジャマ姿の凛を朝見るのはとても久しぶりだ。普段は俺が起きる頃には中学校の制服に着替えているし。


 凛の疑問は至極最もだ。当然、理由があるから俺も苦手な朝を克服して早起きをしているのだ。


「今日から体育祭の大縄の練習があるから、とりあえず今日は早く起きてみたんだ。」

「早く起きれるなら毎日そうすればいいのに……。」


 凛はそう言いつつもリビングを横切って隣の洗面所へ。ボッサボサの寝ぐせを直したり、顔を洗うためだろう。しかしショートカットでよくそこまで爆発できるな、その寝ぐせ。


「別に今日は早く行かないとっていう使命感があるだけだしな。今日ひとまず行って参加率悪いようだったらまた明日からはゆっくり起きるさ。」


 こんな言い方だけども、一応、普段のペースでも相当早く登校している。要は朝練の開始時間がそれ以上早いということなのだけども果たしてクラスの半分以上来るのだろうか……。


「相変わらず発言が後ろ向きだねえ。そんなんだからカノジョできないんだよ修クン。」

「それとこれとは全く関係ないだろ……。」

「女性だって前向きなカレシが欲しいものです。」


 知ったこっちゃねえと俺はパンをむさぼるが、パン1切れなんか食べ終わるのはすぐだ。そして食べ終わると同時にもう1枚焼いておけばよかったなあと後悔の念。


 気づけば台所では既に凛が朝ご飯を作っていた。


「あ、なんか作るけどいる?」

「……じゃあ、ソーセージで。」




 学校に着くとどこのクラスなのかは分からないが既にたくさんのクラスが練習をしていた。行事熱心なのもこの学校のいいところなのかもしれない。


 うちのクラスは校庭にはまだいないようだったが俺が荷物を置きに教室に行くと、既にたくさんの人が教室に来ていた。


「修おっそい!」


 ドアを開けるやいなや真っ先に目に飛び込んできたのはジャージ姿で仁王立ちしている菜月。他はジャージだったり制服だったりまばらだが、パッと見るだけでも他の人よりも明らかにやる気がにじみ出ている。


「お前……普段登校遅いのにこういうときだけ……。」


 そういやこいつ、小さい頃から運動絡みの行事だとスターだったな……。足は速いわ無駄に器用だわで。


「まあ体育委員だしそこらへんはね!」


 そう言ってえっへんと胸を張る。昨日のシリアスな菜月とは180度違う……というかこれがいつもの菜月朱音なのだが。


「花園の件はどうなったんだ?」


 俺はこれはタブーかな、と思いつつ勇気の質問をする。昨日の時点で相当気にかけているようだったし。


「それは……まあ色々あって解決しました。私が全面的に悪いんだけど大事にはならなかったみたいだし大丈夫だって。」


 それを聞いて俺はほっとする。元々花園が優しいっていうのが幸いしてどうやら丸く収まったみたいだ。ここでもめ事を起こすような生徒はここにはいないと信じているけども。


「私も何も償わないのは……って思って否定しようとしたんだけど、栞がいつまでも引きずるなんてらしくないよって言うから……。」

「……何か感動するものがあるなあ。」


 本当の友情というものを垣間見た気がする。


「まあそれでも本人の前では気を遣うようにはしてるけどね。」


 こうして思うことだが、いつもは傍若無人な振る舞いも見える菜月も、結局は常識人なんだな、と。この会話は必要以上に友を大事にしているという証だ。


「やーやーお2人さん!なんか朝からしんみりしちゃって!」


 こんないいムードを一瞬でぶち壊しにして俺の後ろから登場したのはお察しの通り、入江開登。そして間髪入れずに菜月が回し蹴りを決める。


「お前は一生教室に入ってくるな!」

「ジャージだから……パンツが見えな……い。」


 音速で廊下まで蹴り飛ばされた開登はその遺言を残して息を引き取った。


「よっし!じゃあうちのクラスもそろそろ練習始めようか!」


 菜月のその言葉につられて、皆が倒れている開登を踏みつけつつ廊下を移動していく。俺も流れに乗って踏みつけつつも、全員が行った後にしゃがんで開登に話しかけた。


「開登生きてるか?」

「……大縄を飛びたい人生だった。」




 俺らのクラス、2年7組が校庭に出る頃にはもうほとんどのクラスが練習を始めていた。どこのクラスも熱心になるのには理由があって、実はこの大縄、1回勝負なのだが、跳んだ回数がそのまま得点になるのだ。


 要は100回跳べば100点入るし、1000回飛べば1000点入るが、0回で引っかかったら0点ということだ。怪我をしていない人は強制参加。


 大縄なんて練習しなければ普通は1回も跳べない、跳べても4,5回。だからどこのクラスも熱心に練習をするのだ。


「……で、誰が回すの?」


 というわけで、とりあえず外に出てワイワイ騒いでいたところで、誰かが疑問をぶつける。


「回すなら男子だよねえ。」

「力ある人がいいよね!」


 男子組は特に何も言っていないが、女子の間で勝手に話が進んでいく。まあこういう流れになるのは自然の流れなので別に不満はないが、問題は男子の中で誰が回すか、だ。


「……回してみる?修。」


 そんな中、開登が俺にこう提案する。まあ開登も顔が笑っているし、冗談だとは思うが俺は丁重にお断りする。


「俺回したことないからパス。」

「……つれないやつだなあ。」


 冗談じゃない全く……。教室とかでワイワイ騒ぐ分には何も問題ないけども、俺はあまりこういう大舞台で目立ちたくない。これで今年も回し手とはおさらば……の予定だったが、


「神谷君と入江君いつも仲いいしいけそうじゃない?」

「ねー。そう思うよねー。」

「一回回してみたらいいんじゃないかな!」


 なぜか女子の方でこんな会話に発展。思わず女子の方を二度見してしまう。断ったのになんでそうなる!?


「お、いったれいったれ修と開登!」

「帰宅ガチ勢の力を思い知らせてやれ!」

「かっこいいぞお!」


「お前ら俺らに押し付けてね!?」

「いや全然!」


 厄介なことに周りの男子も女子に便乗して茶化しまくる。悪ノリがすぎるぞお前ら!


「……しゃーねえやるか。もう後には引けねえ。」

「そうこなくっちゃ。」


 俺はしぶしぶ縄を握る。もしかして開登これを見越してそんなことを言ったのか?いやいや、それはない。もし仮にそうだとしても俺と大縄を回すメリットはないだろうし。


 俺らが縄を持った瞬間皆が縄に沿って並ぶ。やっぱり誰かが回すのを待っていたなこいつら……。


 並びはある程度決められていたらしく、背の低い生徒が外側の両端に立って、真ん中にかけて身長が高い生徒が並ぶというオーソドックスな並びだ。


「いくよー!」 


 間髪入れずに開登が第1声をあげる。随分ノリノリじゃねえかおい。まあ今まではただ跳んでいるだけだったけど、対して難しい動きをしているわけでもないし、見よう見まねで回してみよう。


「せーのっ!」


 そしてその開登の声に呼応して皆が掛け声をあげる。あれ、なんかいい感じじゃねこれ?


 なんだかいけそうだぞ!


 そう思って縄を回すも俺と開登の縄の回し始めるタイミングがバラバラだったのに加え、回す力がなかったので縄は回り切れずに頂点で止まった。


 そして皆の頭上にパチン!と一直線に降りてきた。


「いってえ!!」


 うん、やっぱりだめだこれ。

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