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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
1章 Grew Heart
10/59

10.備えあれば憂いなし……でしたね

「よし!じゃあ体育祭の種目決めするよ!席着いて席!」


 6限のLHRが始まった。最後の授業がLHRというのは精神的にも、身体的にも良心的だ。この後が数学とか古典とかだったら確実に寝ていた。


 皆がワイワイはしゃいでいる中で担任の河辺先生が着席を促す。ここで席に着くのがこの学校、千鳥高校クオリティだ。まあ対して荒れている学校ではないんだけども。


 もう既に黒板にはぞろぞろと種目と、それに割り当てられた人数が書かれている。右から100m走、400mリレー。800m走、二人三脚、ムカデ競争、綱引き、騎馬戦、障害物競走だ。その後、ラストの競技として全員参加のリレーが待ち構えている。


 400mリレーは他の競技と掛け持ちOKの選抜式で、ムカデ競争以外の競技は4人ずつとなっている。ムカデ競争のみ5人。計40人。


「神谷君は何にするの?」


 ぼんやり黒板を眺めている俺に前の席のオレンジ髪の女子が振り向いて話しかけてくる。確か香住さん……だっけか。今年から同じクラスになったから、まだいまいち名前を覚えきれていない。


「俺は100mかな。すぐ終わるし。香住さんは?」

「私はまだ決めてないんだよお。余ったのでいいかな。」

「余ったのにするのだけは絶対にやめといた方がいい。800m走になってしまうぞ。」


 黒板を見ても陸上部でもない限り明らかにハズレだ。体育祭の競技の1種なだけなのに出るだけで異常に疲れるし、歩こうにも学校のトラックがコースに指定されているので歩いたら歩いたで悪目立ちする。


 しかも、この競技の悪質なところは学年別の上位5人がいるクラスにしか点が入らない。長距離が速い奴なんか元から決まっているし完全に出る意味がない。その代わり、配点は他の競技に比べて少し高めに設定されている。


「……じゃあ選んだ方がいいよね。」

「ま、それが利口だな。」


 そう2人が納得したところで河辺先生が呼びかける。


「じゃあ希望するところにチョークで名前書いていって!」


 そう言い終わるのと同時に体育会系の男子はアドレナリンMAXで黒板へ。言っとくけど早く書いたってその競技になる確率が高いわけじゃないからな?しかも溢れたらジャンケンだぞ、ジャンケン。


 体育会系の男子とやらが書き終わった後、残りの男子と女子が名前を書きに前に出る。その残りの男子に開登もいたから、声をかける。


「開登は何にするんだ?」


 開登が何にするか、といったところで俺の運命に影響はないが、あくまで気休め程度だ。


「800m!」

「とうとう血迷ったか……。」


 開登が長距離走が得意なら話は別だが、記憶だと開登も俺と同じ短距離型だった気がする。


「いや考えてみなよって。全学年が一斉にスタートするのって800mだけじゃん?その人数の中、上位5人に入ったらモッテモテだぞ?」

「入れたら、な。」


 大体そんなことしなくても黙ってさえいれば開登はモテるだろ、と言いかけて呑み込む。そんなことを言ったらまた調子に乗ってしまう。


「まあ見とけって俺の勇士を!」

「本番でコケねえかなあいつ……。」


 俺は100m走の欄に名前を書いて速やかに席に戻る。後ろの方の席ってこういうときだけ不便だ。やけに遠いし。俺は席に着いた後、既に名前を書き終えて席に着いていた香住さんに競技を聞いてみる。


 まああれだけ800mはやめとけって言った直後だしパン食いあたりにでも……


「結局、香住さんは何にしたの?」

「あ、800mだよ!」

 

 ってあれえええ!?人の話聞いてた!?もしかしてこの人天然……?


「いやさっき俺、800mはやめとけって……。」

「あ、そういえばそうだったね。」


 俺はその恐ろしき天然っぷりを見て驚きのあまりフリーズする。


「……まあいっか。」


 よくねえ!全然よくねえ!俺の目の届かないところで勝手に話が進んでいる……。


「大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。中学の頃のマラソン大会2位だったし。」


 2、という驚愕の数字を聞いて思わず二度見してしまう。


「……学年で?」

「学校全体で!」


 やべえ、の一言しか思い浮かばない。まさかこんな身近にスーパーマラソン少女がいようとは……。逆にそんなに凄いんだったら余りものとかにするんじゃなくて、最初から長距離を選んでおけば……とは思う。


「すげえってレベルじゃねえぞそれ。でもなんで俺が800mを馬鹿にしたとき、色々否定しなかったんだ?」

「んー忘れてた。」


 あ、これ天然じゃなくてただの馬鹿だ。俺がそう確信した瞬間、河辺先生がまた提案をする。


「んーちょっと100m8人は多いね。4人削って騎馬戦に移動してくれないかな?」


 こちらはこちらでそんなたわいもない話をしている場合ではなさそうだ。黒板を見ると100m走が8人もいる代わりに騎馬戦は0人。そしてその他は4人ずつ綺麗に埋まっている。


 つまり、100m走さえ決まれば競技決めは終わりなのだ。あれだけ俺が馬鹿にしていた800m走もなんだかんだいって4人埋まっている。


 というわけで、8人で教室の後ろの方で固まってジャンケンをすることに。100mなんて俺みたいにすぐ終わるから決めた人か、純粋に足が速い人のどちらかかしかいないんだ。


 俺が勝った後、純粋に足の速い人が勝つのが最善の流れだ。いずれにしても俺が勝つことは前提。


「じゃーんけーん。」


 何を出すかは決めている。困った時はグーを出せって亡くなったひいじいちゃんに教わったんだ。


「ぽん!」

 


「お疲れ様、修君。残念だったね。」


 俺はその後泣き崩れることになる。そう負けたのだ。ここは結果論だがひいばあちゃんの教えに従ってパーを出すのが正解だったらしい。


「顔が笑っているぞ開登……。」


 LHRが終わって開登が文面は労いの言葉をかけてくる。


「ま、お前が嫌ってた800よりはいいじゃん。つーか騎馬戦ってむしろあたりじゃね。普通に楽しそうじゃん。」

「だといいんだけど、楽しそうな競技だったら誰も希望しないわけがないんだよな。」


 騎馬戦は騎馬戦で800m走とは違ったハードさがあるのである。1年の頃に出た人はその恐ろしいまでの先輩の強さがトラウマにでもなったのだろう。


「そういや修、テニス部は結局どうしたんだ?」

「それもこれからだってのに、ため息しか出ないもんだぜ。」

「やるのか?」


「……やんねえけどな。」


 そう言って俺は教室を後にした。向かう先は職員室だ。テニス部の顧問の先生がいる可能性が最も高い。どうせ断るのにコートにはなるべく行きたくない。




「危ない!栞!」


 後衛の菜月朱音の打ったボールが盛大にすっぽ抜けた。ボールは本来の軌道ではなく、もの凄い量のイレギュラーな回転をしながら審判台に突っ込んでいく。


 審判として台に登っていた花園栞は反射でボールを避けようとしてしまったのか、ボールの飛んでくる向きと同じ向きに体重をかけてしまう。


 花園栞は目を見開いた。全てがスローモーションのようだった。ただ、自分が落ちていく様を体感している。


 元々古かった審判台はゆっくりと片足が地から離れ、横に倒れていく。突然の出来事に周りの部員が対応できるわけもなかった。

 その瞬間、テニスコートにいる誰もが動きを止めた。


 ガシャアアアアン!

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