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1.召喚された?

「なぁ正輝~早くしろよ~。日誌なんて適当でいいだろ~」

目の前で椅子の背に顔を突っ伏している友人、嶋田祐司に、滋野正輝は日誌から顔を上げる。

「うるせぇなぁ。だから先に帰ってていいって言ってんだろ」

「もうここまで待ってるから。意地でもお前と帰るぞ」

顔を上げる祐司に、好きにしろよと返して、また日誌に向き直る。

放課後の教室は夕暮れ色に染まり、運動部のかけ声が響いて聞こえる。

「変なとこで真面目だよねぇ。いや、几帳面?融通が利かない?損をするタイプ?」

「はぁ?うっせえよ。邪魔するなら帰れ」

「怒りっぽいのは確かだ」

よけいに帰るのが遅くなりそうなので、そのまま無視を決め込む。

ようやっと書き終わり、教室の戸締りをし、職員室に日誌を出して、校門を出るころには空が少し暗くなり始めていた。

「明日からテストかー。やだなー」

「早く帰れるのが救い」

「確かに」

ダラダラと中身のない会話をしながら、いつものように帰り道を歩く。

十字路に差し掛かり、「じゃあな」と手を振り互いに背を向け別れた。

帰ってから、数学の教科書くらいでも開くべきか……と考えていると。

足元から光が差した。

「は?」

反射的に下を見れば、なにやら光り輝く、漫画でよく見る魔法陣のようなものが。

「なんだこ、れ!?」

足元の魔法陣が一際光を放ち、体を包み込もうとする。

慌てて周りに助けを求めようと顔を上げた正輝の目には、自分を囲むように浮かび上がる複数の魔法陣が映らなかった。次いで感じたのが、上下左右様々なところから壮絶な力で引っ張られるような感触。体がバラバラになりそうな、味わったことの無い痛みに、無意識に涙が溢れ出す。

「いだだだだだ!?なん、体がっ、ちぎれ……っ!!」

痛みに叫ぶが、助けは来ない。もがこうと反射的に伸ばした手も、目の前の魔法陣に吸い込まれる。

(痛い痛い痛いイタイイタイいたいいたい……!嘘だろ……!俺、しぬのか?こんな、よくわからないことで?)

ビリィッと制服に裂け目が生まれた音が聞こえた瞬間に、正輝の意識は死を予期したのか、強制的に暗闇に落とされた。


そして、正輝は魔法陣と共に慣れ親しんだ町から、厳密に言えば地球上から、消え去ってしまった。




最初に感じたのは、暗闇。そして誰かの呼ぶ声。

「……さま!…ゆうしゃさま!」

(ゆうしゃ……?……勇者?)

ゲームやアニメでしか聞いたことのない様な語句に疑問を感じ、正輝は重い瞼を必死にこじ開けた。

すると目に飛び込んできたのは、視界いっぱいに広がる、赤紫色の瞳。

「うわぁ!?」

見慣れない色の目に思わず声を上げながら、体を起こす。

「あぁ!勇者様!ようやく目を覚ましてくださいましたね!」

とても豪奢なドレスを纏った同い年くらいの少女だ。金色の長い髪に、繊細な造りの髪飾りには綺麗な赤い石が大きく一つ煌めいている。

目鼻立ちはその全体図を壊すことなく、むしろ引き立てる様にバランスよく配置されている。

「うっわ美人……じゃなくて!はぁ!?勇者!?」

思わず見惚れそうになる正輝だったが、『勇者』という言葉に声を荒げる。

目線を合わせる様に座っている少女は、顔を曇らせた。よくよく周りを見渡せば、細かい模様が描かれているローブを纏った者たち。兵隊のような、甲冑を纏った者たちが正輝を囲んでいた。地面には先ほど見た魔法陣のようなものが大きく描かれており、少し離れた正面には一段高い椅子に座る、鬚を蓄えた老人。その隣に、目の前の美人が老いたらこんな感じになるんだろうな、と思わせるような老女。二人の頭には、冠が輝いている。

どの人物たちも、(甲冑で顔を隠している兵士は分からないが)一様に顔を曇らせている。

「そうです。我が国は、今回魔王討伐のために勇者召喚の儀を執り行いました。私はこの国の王女、キアと申します」

「え、あ、どうも……いや待って!魔王!?討伐!?むりむりむり!!俺勇者とかじゃないし!一般人だよ!?」

「はい……私たちも、まさか貴方のような幼い子が召喚されるとは思っていませんでした……貴方を魔王の地へ送るなど、それこそ私たちが魔族に堕ちてしまいます」

だ、だよな……と落ち着こうとした正輝ではあるが、何やら引っかかる語彙がある。

「幼い……?」

反復して言う正輝に、王女キアは少し笑みを浮かべる。

「あぁ、『幼い』というのは、子どものようなという意味の言葉で……」

「いや!それは知ってるから!!馬鹿にしてる!?」

「いいえ!とんでもないです!申し訳ありません。勇者様の年齢くらいには、難しい言葉だと思ってしまい……」

「いやそれ馬鹿にしてるだろ!俺は貴女とそう歳変わらないと思いますけど!」

いきなり妙な情報を与えてくる上に馬鹿にしてるとか何なんだ、とイライラした気持ちをそのままぶつけてしまうと、キアはポカンとした表情を浮かべた。

かわいいなおい、ムカつく。と考えていると、周りもポカンとした表情を浮かべている。

訝し気に思い、思わず顔をしかめてしまう正輝に、キアは恐る恐る声を発する。

「あの……勇者様は……失礼ながらおいくつでしょうか」

「はぁ?17だけど」

「じゅ……っ!?」

周りがざわつく。

「勇者様の世界では、私たちと年齢の数え方が違うのでしょうか……」

そう呟くキアに、正輝はまたも「はぁ?」と声を荒げる。

どうにも目が覚めてから腹の虫の居心地が悪い。多大なストレスの結果だろうか。馬鹿にされているとしか思えない言動にむしゃくしゃして反射的に頭をかく。

すると、妙な違和感に気づく。

手を止め、今しがた動かしていた体の一部を目の前にかざせば、そこには妙にぷにぷにとしていて、小さい、まるで幼い子どものような手が……。

ざっと顔を青くさせて正輝は自分の体を確認する。

普通に生活していればまずお目にかかれないような美人と妙な場所と情報の急展開に、違和感を持つ暇もなかった。

改めて考えれば、腰を下ろしているわりには地面と目線が近い。

天井はあまりにも高すぎるし、周りの者たちも背が高すぎる。

なにより同い年に見えるキアが、座って前かがみの状態でやっと目が合っているのだ。

「鏡!!鏡はありますか!?」

いきなり顔を青くさせたと思えば叫びだした召喚者に、周りは慌てて鏡を用意する。

その姿見には、5歳くらいの幼い男の子が青い顔でこちらを見つめ返していた。ローブのようなものを纏って。


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