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星野 天馬

自動扉を開けると少年と少女の姿をした2体の幽霊が現れた。正確には宙に浮かぶ質量の持たないアンドロイドだ。

初めて使う人が半分を占めるらしいそこには入ってきた人全員にこの2体が案内をしているらしかった。

遠くから「〇〇さんですね」という声も聞こえるから常連の人も把握してるらしかった。

『初めてのご利用ですよね?』

『もちろん自分が何の天才なのかみつけにきたのですよね?ね??』

少年の方は仕事をきちんとこなそうとしていて少女の方は食い気味に事を進めようとしていて性格は同じというわけではなさそうだった。

「え…えっと……」

『おっと!自己紹介をしてなかったようです!!』

少女の方はマイペースなのか?

『リリ、話が急展開すぎるよ』

『そう?そんなことないですよね??』

まさかこっちに話を振るとは思わなかったよ。

「で、自己紹介はしないの?」

まあやることなくて時間もあることだしかまってやるか。

『おお!お優しいですねぇ!!』

なぜ驚く

『私はリリと申します。で、こっちがレレです。』

『僕達は双子型アンドロイドです。素粒子状なのでこのようにどんな空間も自由に動けます。』

そうすると少年は楽しそうにふわりと宙返りをして見せた。

『で、ここでは人が足りn『言っちゃダメ!!』』

リリが言いかけたのをレレが口を塞いで慌ててる。元気なふたりだ。

『もうリリは黙ってて!!ここでは主に僕達がほぼすべての仕事をしています。』

おい少年。隣の少女がすんすんしてるぞ。

『案内だけではなく受付、説明、契約、発掘、その後のことまですべてです。

リリ、そろそろ怒るよ?』

すぐに開き直った少女は少年の背中をつんつんして遊び始めた。そして怒った少年に本気でびびってる。

「すべての仕事をしてるということは人はいるの?」

『だから足りてないって言ってるじゃないですか。一応いるんですよ。』

『リリ、言い方を考えて』

本当に仲のいいふたりだ。

『今言った通り一応いますが10人程度です。』

「こんなに広いのに10人しかいないのかい?どんな仕事をしているんだ?」

『すいません、それは秘密事項なので言えないです。』

少女の方はなんでもしゃべると思っていたがそうではなかったようだ。


『さて、そろそろ仕事をします』

少年、今のは仕事じゃなかったのか?

『あなた様の自己紹介が残ってますがこの紙に書いちゃえばいいのでささっと書いちゃってください!』

雑すぎないか少女よ。

「げ…質問内容多すぎないか?」

『これは住所、氏名から趣味や健康状態まで知りたいことを数を絞ってここに記してあります。これでも昔より減ったほうです』

キリッとしなくていいから。突如現れたメガネ絶対それだけのためだろ。


『ふむふむ…住所は貧相な住宅街じゃないですか。』

少女よ、真顔で言わなくてもいいじゃないか。今までの態度見てるとそっちの方が辛いよ。

『お名前は星野天馬ホシノ テンマ様ですね。…記入漏れもないのでこちらの紙に書いてることをすべて読んでこの同意書と天才登録証にサインと印鑑をしてください。』

『料金は星野様の口座から天才発掘後に引き落としになるんで引き落とし金額と口座番号を確認してください』

覚悟していたことだがやはり高いな…

あいつの保険金まで手を出して掻き集めたお金だ。一瞬でなくなるのか。

「ちなみになんで後払いなんだ?例えば俺が嘘の口座教えてトンズラこいたら終わりじゃないか」

『それは大丈夫ですよー。だって質問内容の住所も書き終わった段階で正確か戸籍と照らし合わせてありますし口座も確認済みです。それに優秀な防犯会社と連携してるのですぐに見つかりますよ』

『後払いのことに関してはとある天才だけ費用を免除してるからなんです。』

「その天才とは?」

『トップシークレットです!』


サラリーマンの父とパート勤めの母、結婚して子供もいる姉。まわりから見るとごく普通の幸せな家庭に見える。実際そうだった。俺を除いて。

俺は中学までは優等生だった。もともと根は真面目なほうだったから模範生徒にも選ばれたこともある。ただ高校受験で失敗してしまった。確実に行けると言われていた高校に落ちた。俺はショックではあったけどすぐに滑り止めの高校に気持ちを切り替えてた。両親はそうはいかなかった。今まで優秀だった息子にいろいろな期待を抱きすぎたんだろう。その分裏切られた気持ちは大きかったらしい。昔はたくさん褒めてくれた親父はいつしか俺を否定するようになった。たくさん笑ってたお袋も俺を見る度にため息をつくようになった。

滑り止めの高校は目指してた高校よりは偏差値は全然下だったけど決して頭が悪い学校ではなく、俺は3年間楽しく過ごせた。

ただその3年間、両親の態度の変化と反抗期が重なり家庭環境は最悪だった。

「なんでお前らは俺に期待しすぎたんだよ!勝手に期待して勝手に裏切られた気持ちになって勝手に態度変えるとかないだろ!!」

「期待させたのは誰だ?天馬、お前だろ??人のせいにするんじゃない。お前が受かってれば俺だって態度を変えなかったさ。これ以上期待を裏切らないでくれ」

「自覚済みかよ。親父こそ人のせいにしてんじゃねぇよ!お前がすべて正しいと思うなよ!!頭硬すぎるだろ。それにどうせもう俺に期待なんかしてないだろ。裏切るもクソもねぇよ!!」

ドンッ…お袋の泣き叫ぶ声とそんな音の名残は今も実家の壁にある。そんなに大きくない穴なんだからさっさと直せばいいのに。

あの日以来、俺は家にあまりいた記憶がない。小遣いほしさに始めたバイトもいつしか家にいたくないという逃げる口実に使っていた。

ちょうどその頃姉貴が一人暮らしを始めたからよく居候していた。

高校を出て俺は親が行かせたがった大学には行かずに東京のプログラミングの専門学校に行った。

そして上京して初めての合コンに彼女はいた。初恋だった。何回かの交流を得て俺達は付き合うことになった。彼女が大学を卒業したのを期に俺の妻になってもらった。彼女は俺の中で最高の人だった。気が効いてこんな俺にいつも元気と癒しをくれるやさしくふわりと笑う人だった。こんな俺でいいのかと何回か聞いたことがあったがいつも俺がよかったのだと言ってくれた。

やがて俺達の間に二人の子供が出来た。娘と息子は性格が真逆で苦労することもあった。俺はあの人のような子育てをしたくなかったからできる限りのことをした。愛情と信念を持って…

親父には会わせなかった。


幸せは一瞬で壊れるものだった。

今思うと俺にはあんな幸せ不釣り合いだったんだ。

(なんで旦那さんもついて行かなかったのかしら)黙れ…(かわいそうよね。旦那さんだけ残って)黙れ…

黙れ黙れ黙れ!俺が一番後悔してるよ。俺が俺を一番責めてるよ…

追い打ちをかけないでくれ。同情もしないでくれ。なんだかあいつら否定されてる気がするんだよ…

妻と子供が事故で死んだ。日曜日の昼。オレの誕生日に俺が昼寝してるうちにサプライズをしようとしてるらしかった。遺品には〈パパ大好き〉という妻と子供が書いた小さなメッセージカードとともに箱に入ったネクタイがあった。話によると買い物の帰り道に左折したトラックにはねられたらしかった。

「どうしてお前が守ってやらなかったんだ」

と親父に言われて返す言葉もなかった。

俺は生きがいをすべて失った。俺はあいつらのために生きてるに等しかった。

首を吊って死のうとしたのを姉貴に見つかって引っぱたかれた。

「どうして死のうとするの!?子供たちが生きられなかった分の人生どうして簡単に捨てられるのよ!あの子達の分まで生きようと思わないの??」

でもどうしようもないんだ…あいつらのいない人生俺には意味が無いんだ……


死ぬことを許されなかった俺はただ息をするだけの生活になった。仕事はやめた。そんな気にはならなかったから。そんな俺に呆れて姉貴は霊媒師を連れてきた。

「私はヒメラ木公認の霊媒師です。あなたが話したいのはお子さんですか?それとも奥さんですか??」

「両方」

「申し訳ございませんが私が呼び出せるのは1日一人までなんです」

「じゃあ3日間通ってくれ。まずは妻を呼び出して欲しい」

そう言うと霊媒師は無言で頷いた。そして彼女に体をかした。

「天馬、久しぶり。すっかり痩せたわね。しっかり食べなきゃダメよ。」

「俺、お前がいないとダメなんだ。」

「でも私はもういないよ」

「だからどうしよう、俺」

「好きなことしていいのよ?再婚だってしていいの。」

「お前以外最高な女いないよ。俺はこんなになってまでもお前しか愛せない。お前がいないとダメなんだ。」

「なりたいこととかないの?」

「あるさ。自慢されるような親父になりたかった。」

「実は私のへそくりあそこにあるから好きなように使って。」

「じゃあ霊媒師つかって1日一回お前達を呼び出すよ」

「そんなのこっちが疲れるわ。向こうでゆっくりやりたいもの。天馬、私の言いたいことわかるでしょ」

「…ああ。」

「天馬、愛してる。私もあの子達も。向こうで見てるよ。何かあったら守ってあげる。」

「俺も愛してる。困った時は頼むよ。」


「…どうしましょうか?依頼していただけるんなら明日も来ますが」

「いや、いい。」

さて、俺はあいつがいないと何も出来ない。この時代に一度やめた仕事につくのは無理だろう。

なら天才にでもなるか。気軽に天才になれる時代になったのは幸か不幸か。天才になって何かをしようなんて思ってないが俺の中で何かを変えたかった。

あそこに行くにもお金がかかる。ありがたく彼女のへそくりを使わせてもらう。でも足りない。保険金下りたっけ。ここで無駄にすると思うかもしれないがこれ以外俺に使う気はなかった。変な天才になっても俺達の人生だ。ゆっくり考えながら行こう。


『ではこちらで脳波の測定をします』

連れてこられた部屋は無機質だった。

『寝て待ってればいいですよー』

このふたりはどこかあの子達に似てる。そう思いながら眠りについた。


『起きてください!』

『測定が完了しました』

あっという間だったな。この結果でこれからのことを考えないと…

少年はまたちょっかいかけられながらも続けた。

『発掘結果はこちらにあります。あ、理由は聞かないでくださいね。天才に理由なんて後から付いてくるようなものなので。』

〈発掘結果:保育士の天才〉

文章には簡潔にそれだけ書いてあった。

なにか因縁みたいなのを感じた。悪くないとも。

『ではこの結果を契約通り全世界で公開させていただきます。』

『保育士の募集がいくつか来てますがどうします?』

少女も少年にすべてしごとをおしつけるきはないらしくきらきらした目で紙を渡してきた。

『気になるところに後日でもよろしいので電話をかけていただければお話しは進むかと思います。』

『あ、その際こちらの証明書をご提示ください。ヒメラ木公認の天才という証明になります。』

『さっきも言いましたけど定期的に通うことをお勧めします。強制は致しません』


あのふたりはああいってたけどもう通うことはないだろう。天才じゃなくなってもこれなら続けようと思い始めたから。


「パパ先生さよーなら!」

あの後保育園に就職し、俺は新たな人生を歩み出した。数年間しかかかわれないけどあの子達よりもいい子に育てようとする意気込みでやっている

「星野先生、今度合コンがあるので行きません?」

たまにそんなことを職場の人から言われる。

「星の先生はだめよ。奥さん大好きだから」

「ああ。あの人以外俺の全部を受け止めてくれる人いないし俺もあの人以外絶対に愛せない」

「亡くなってまでこんなに愛されてるなんていい奥さんだったんですね!いいなーわたしもそんな夫婦になれるように頑張らないと!!」

「ははっw俺の妻みたいになれる人なんてそうそういないぞ。」

「もうのろけはいいです!!」

「もっとしてやろうか!!」


お前のいない人生つまらないと思ってたのにお前のおかげで楽しくなった。

お前には敵わない。

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