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体育祭 騎馬戦(玉城)

午前の最後の競技である男子対抗騎馬戦。

俺たち白組男子は、紅組男子と相対するように、グラウンドの端に集まった。


「いいか、お前達! 今の段階で我々白組は負けている! 逆転するためには、この騎馬戦での勝利は必須だ! 気合を入れていけ!」


騎馬戦を始める前、白組応援団長にして、騎馬戦白組総大将の遠藤先輩が俺たちを叱咤した。


「マジ熱いな、あの先輩」

「お前の苦手なタイプじゃないか?」

「なんで? めっちゃ格好良いじゃん」


遠藤先輩は体育会系の番長タイプである。チャラ男の長谷川の対極にありそうなものだが、意外にも長谷川は遠藤先輩を受け入れていた。


「玉ちゃん、マジでやろうぜ、これで逆転してやろうや」

「……そうだな」


俺は校舎に表示されている大きな点数表を見た。体育祭が始まってから数回競技を行ったが、紅組との点差は開くばかりだ。確かに直接勝敗を決められるこの騎馬戦を落とすわけにはいかない。

俺だって「負け」というのは気に食わないのだ。


「よし、みんな騎馬を組め! 俺たちで白組に勝利を……」

「はいはい、先輩! 作戦とか決めなくていいんすか?」


長谷川が遠藤先輩の話に割って入った。

こいつのこういう「空気を読まない技術」は本当に尊敬できる。俺はまずできない。

ただ、実は俺も長谷川の聞いた部分は気になっていた。このままだと「ただみんなで突撃する」ってことになってしまいそうだし。


「うん? 作戦? そんなもの決まっているだろう! 全力で敵の大将を狙う、それだけだ!」


……まさか、俺の予想通りだったとは。それは作戦とは言えない気がするのだが。もしかして、遠藤先輩は見た目通り、頭を使うのが苦手なのだろうか。


「いいか、みんな大将を狙いに行くぞ! 大将さえ倒せば俺たちの勝ちだ!」


この騎馬戦のルールは、敵の大将を倒すか、制限時間までに多くの敵の鉢巻を取っていた方の勝利だ。

だから確かに遠藤先輩の言うことは一理ある。あるのだが……


「あの……いいですか?」

「どうした、玉城、お前も質問か?」

「さっきの遠藤先輩の口ぶりだと、遠藤先輩も攻撃に参加するんですか?」

「もちろんだ! 俺は守るよりも攻める方が性に合ってる!」


いや、性に合うとか合わないとかじゃなくて、大将自ら前線に出るということは、それだけ負けてしまう可能性が高くなってしまう、ということなんだが……


「あの、遠藤先輩は戦わない方が……」

「よし! みんな騎馬を組め!」


俺の忠言は遠藤先輩が号令によってかき消された。


「おい、玉ちゃん、騎馬組もうぜ」

「……わかった」


……まあ、仮に忠言をしたところで聞いてくれないだろう。

俺はもろもろ諦めて、立て膝をつき、両手を後ろにやった。クラスメイトの男子二人が俺の後ろに回り、それぞれ俺の肩に手を置き、俺の手を握る。

そして長谷川が二人の男子の腕に乗った。


「おし、乗ったぜ、立ちあがってくれ」


俺たちは立ちあがった。

これが俺の騎馬だ。俺は馬の役で長谷川が騎手である。俺も騎手がやりたかったのだが、さすがにうちのクラスの男子では俺の重さに耐えられる騎馬が作れなかったので、俺が馬役になっているのだ。

その点、長谷川は細いし軽いから騎手にピッタリである。


『これより騎馬戦を行います、白組、紅組は並んでください』


マイクで指示があり、俺たちは向かい合うように、グラウンドの両端に並んだ。


「始まるぜ、玉ちゃん、緊張するなあ?」

「お前、やられるなよ」

「やられねえって、玉ちゃんこそ騎馬を崩すんじゃねえぞ」


それはいらない心配だ。フィジカルには少しばかり自信がある。それこそ三年生の運動部集団でもない限りは当たり負けすることはないだろう。


『制限時間は五分、それでは始めます』


体育祭実行員がピストルを空に向けた。


パンッ!


グラウンドに破裂音が響き渡る。


一斉に両組が走り出した。

先陣を切るのはやはり遠藤先輩だ。あの人やっぱりちょっと脳筋すぎないか。


「おっしゃ! いけえ、玉ちゃん!」

「待て、いったん落ち着け……」


グラウンドでは各地で戦いが起こっており、始まったばかりだというのにすでに脱落者もいる。せっかく騎馬戦という一年に一度の大イベントなんだ。軽率に敵の集団に突撃してさっさと終わり、というのはもったいない。

ここは様子を見るべきだろう。

指示を出すのは騎手である長谷川だが、馬である俺がその指示を聞くとは限らない。


さて、どうするか……とりあえず、一対一で誰かと戦ってみるか。


俺が辺りを見渡すと、乱戦の中、うらぶれた紅組の騎馬を一騎見つけた。


「よし、あれとやるぞ、長谷川」

「よっしゃ! やるぜ! 玉ちゃん、突撃だ」


向こうもこちらと目が合った。

俺が走り出すと、向こうは慌てたように逃げ出す。

いきなり逃げ腰とは弱気だな。勝負事は基本的にビビったら負けなのだ。


「あ、アイツら逃げやがった! 追おうぜ、玉ちゃん!」

「いや、逃げた時点で雑魚だ、それよりもむかってくるやつを倒そう」

「おお、なんかかっけえな、玉ちゃん」


段々と敵味方の数は減って生きている。

これから生き残った猛者たちとの戦いが待っているのだ。体力は残しておかないといけない。



さて、騎馬戦が始まってもう3分くらいが経った。


俺たちはまだ無事だ。

当然である、一度も誰とも戦っていないのだから。


「おいおい、みんな逃げちまうぞ、どうしたんだ」

「わからん……なんでみんな逃げていくんだ」


最初の奴らだけじゃない。他にも目が合った連中はみんな逃げて行った。みんな弱気過ぎじゃないか? と思ったけど、そいつらは、俺たち以外の白組とは普通に戦っているのだ。

彼らの行動が解せない。


「……いや、まあ逃げるだろうよ」

「俺だってやりたくねえしな」


ボソリと俺の後ろにいる二人の呟き声が聞こえた。

どういうことだ、聞く前に、パン! パン! とピストルの音が鳴った。

騎馬戦終了の合図である。


「え、終わっちまったのか? 何もしてねえぞ」

「どっちが勝った?」

「わっかんねえ」


長谷川がキョロキョロと見渡している。


すぐに終わらせたくはなかったが、何もしないで終わるのは、それはそれで悔しかった。こんなことなら長谷川の言うとおり、とりあえず突撃でもしておけばよかったか……


『ただいまの結果を発表します、白組と紅組の大将が一騎打ちになり、同時に騎馬から落ちたため、いま現在残っている騎馬の数で勝敗を決めます』


なるほど、そんなことがあったのか。遠藤先輩がひたすら紅組大将に突撃していく姿が目に浮かぶ。


『一旦全員騎馬を崩してください、そして、まだ鉢巻が残っていて競技中に騎馬を崩していない騎馬の騎手だけ、その場に立って下さい、それ以外の人はみんな座って下さい』


体育祭実行委員の支持のもと、俺たちは騎馬を崩して、長谷川以外座る。


立っている数は紅組と白組で同数だった。

この場合どうなるんだ。引き分けで終わりだろうか? でもそれで終わりというのはちょっとさみしい。どうせなら白黒はっきりつけてほしいものだ。


『えー……残っている数も同数でした……今回の試合は引き分け、そしてまた再試合を行います』


うおー! とグラウンドにいる男子全員が体育祭実行委員の発言に歓声を上げた。


どうやら他のみんなも俺と同じ気持ちだったようだ。


『ただし、再試合は騎馬の数を減らします、大将を合わせた五騎で競技を行ってください』


どうやら再試合は巻きでやるつもりのようだ。五騎ということなら、多分三年生が選出されるだろう。


俺たちはそれぞれグラウンドの両端に戻った。


「よし、再試合だ! 今度こそ気合を入れていくぞ!」


早速、遠藤先輩が仕切っている。気合を入れるも何も、遠藤先輩が騎馬から落ちたからこうなったのでは……と思ったけど口には出さないでおいた。

遠藤先輩はリーダーシップこそ取れるのだが、ちょっと単純すぎるところがある気がする。


「それで、選出する五騎だが……さっきの試合で生き残っていたのは誰だ?」

「はいはいはーい! 俺、生き残ってました!」


長谷川が、いの一番に手を上げた。こういう時は三年に譲ってやるものだと思うが……さすがお祭り男、いろんな意味で空気を読まない。


「お前は二年か……うん?」


遠藤先輩が長谷川の隣にいる俺に気が付いた。


「玉城、お前の騎馬か?」

「はい、そうです」

「ということはお前が生き残ったのか?」

「騎手はこいつです」


俺が長谷川を指差す。

遠藤先輩が俺と長谷川を何度か見比べて、俺の肩を叩くと、


「お前が騎手で騎馬を作れ」

「え?」

「そして大将をやれ」

「……え!?」


いきなりとんでもないことを言い出した。


「あ、あの、意味が分からないんですが……」

「おい、遠藤、何言ってんだお前……」


遠藤先輩の隣にいる三年生たちも驚いている。


「俺は守るのが苦手だ、守るくらいなら攻めた方がいい、だが、さっきの試合で分かった、大将は攻めない方がいい」


まったくもってその通りなのだが、出来ればそのことは試合をやる前にわかってほしかった。


「だから、お前が大将をやれ」

「いや、でもそれだったら、他の三年生の先輩の方が……」

「お前の方がいいだろう、身体もデカいし……何よりも敵の騎馬がビビって近づかないはずだ」

「え?」


ビビって近づかないってどういうことだ。


「みんなもそれでいいか? 大将は『半殺しの玉城』だ」


半殺しの玉城……? なんだその暴走族のあだ名みたいなやつは……

しかし、三年生の先輩たちがそのあだ名を聞いた瞬間に、ざわついた。


「遠藤、まさか玉城って……他校の生徒を殺して少年院に入ってたやつか」

「え、あの噂マジだったの? てっきり盛った話だと思ってたんだけど」

「ただボコボコにして殴っただけだろ? さすがに殺してはないはずだぞ」


おい、なんだその話は。俺は誰も殺してないし誰も殴ってないぞ。リョウ君を軽く突き飛ばしただけだ。

遠藤先輩が俺の事を誤解していたように、長谷川の流したデマがかなり悪い形で変形しているらしい。


「まあ、半殺しの話自体は本当にただの噂なんだが……だけど、もしこいつが大将なら紅組の連中はビビって鉢巻を取りに来れないだろう、鉄壁の守りだ」


周りの男子から「なるほど」という声が聞こえてきた。俺が大将になることに、なんとなく同意形成が出来始めている。


「なんだよ、向かってくる奴らがいなかったのは、玉ちゃんにビビってただけなのか……」


そう言って頭をかいている長谷川の首に腕を回した。


「おい、長谷川」

「な、なんだよ、玉ちゃん」

「俺がいつの間にか少年院帰りの暴走族みたいな感じになっているんだが、どういうことだ?」

「え、い、いや……それは……なんでだろう、な?」

「お前が、変な、デマを……流したせいだろうが!」


俺はそのまま腕に力を込める。長谷川の首を一気に絞め上げた。


「ぐっ!? た、たまちゃ……ゆ、許して……くれ……」


許さん。ただでさえこんな顔と図体のせいで誤解されるのだ。俺の恨みを思い知るといい。


「ということで玉城、お前が大将だ、いいな?」

「え、あ、はい……」


周りの先輩方も異論はないようだ。というか、明らかに俺に対してビビっている人たちがチラホラいるような……


「あの遠藤先輩、仮に俺が大将をやるにしても、俺の乗せられる騎馬がないと思います」

「うん?」

「俺、結構重いので……だから俺が馬役をやっていたんですけど……」


遠藤先輩が長谷川と馬役の二人を見た。

俺たち四人の仲良しグループで組む時、一番体重が軽い長谷川を騎手にし、一番体重が重い俺を先頭の馬役にしたのだ。こいつらが俺を持ち上げるのはかなり大変だろう。

そして、仮に持ち上げられたとしても動きまわるのは厳しいと思う。


「確かにそうみたいだな……それなら崩れた三年生を適当に見繕って騎馬を作ればいい、えーと、田中、斎藤、小林、お前ら頼むぞ」


遠藤先輩が三年生の三名の先輩たちを呼びだした。遠藤先輩が呼んだ三人はいずれも屈強そうな体格をしていて、俺が乗っても大丈夫そうだ。


「あ、あの先輩……今さらなんですけど、大将変更ってオッケーなんですか?」


長谷川が俺の腕の中から聞いた。


「それは今から交渉してくる」


そう言い残し、遠藤先輩は朝礼台の横にあるテントに向かって走っていく。


「あの先輩、豪快っつうか……行き当たりばったりすぎじゃね?」


長谷川の率直な感想に俺は心の中で頷いた。




『白組大将の遠藤君の要望により、白組の大将を二年の玉城君に変更します』


実行委員のアナウンスがグラウンドに響く。遠藤先輩の要望は通り、俺は再試合に挑む五騎のうちの一騎、しかも大将として参加することになってしまった。


「いいか、今度こそ俺たちが勝つ! 気合を入れていけ!」


遠藤先輩が檄を飛ばす。


「作戦は簡単だ、玉城以外は大将を狙う! 以上!」


相変わらず作戦という言葉の意味を知っているのか聞きたくなるような内容だが、もうそんなことも言っていられない。遠藤先輩の言うとおり、この試合に俺たちは勝つのだ。そのためにもしっかりとこの鉢巻は守らなければならない。


「玉城」

「はい」


馬役で正面にいる坊主頭の田中先輩が俺に声をかけてきた。


「守ってくれる他の騎馬がいないからな、来た奴らには、まず一発かまして時間を稼ぐぞ」

「分かりました……でも、かますって何をするんですか?」

「とりあえず、ビビらせるんだ」

「はあ……」


ビビらせると言っても、どんな風にビビらせるのだろうか。とりあえず睨みつけていればいいのか?


パンッ! 


そんな事を考えていると、ピストルが鳴り、二度目の騎馬戦が始まった。

やはり一番槍は遠藤先輩だ。真っ先に敵の大将めがけて突撃している。他の三騎もそれに続いて走り出した。

一方、俺の目の前にも紅組の騎馬が一騎、迫ってきていた。


相対するのはやはり三年生だ。恐らく、紅組は全員三年生だろう。


ジリジリと距離を詰めてくる紅組の騎馬。

とうとう一戦交えるか、そう思った時、


「おい、それ以上近づいていいのか?」


田中先輩が相手に向かって声をかけた。


「え? どういう意味?」


相手の騎馬が止まり、騎手が田中先輩の方を見る。


「お前、この二年、誰か知っているのか?」

「え?」


騎手は顔を上げた。俺と目があう。


「この人はな、他校の生徒をぶっ殺して去年まで刑務所にいた玉城さんだぞ」


三年生に対して非常に失礼な言い方だが……何言ってるんだ、こいつは?


「は、はあ? 何言ってんの?」

「お前も聞いたことあるだろ、うちの生徒が他校の生徒をリンチしたって話を」

「あ、ああ、それなら……え、まさかコイツ!?」


紅組の騎手が驚愕の表情を浮かべるが、断じて違う。俺は人畜無害なただの男子高生だ。突き飛ばしたりとか締め上げたりしたかことを抜かせば、一切他人に暴力行為をしたことがない。


「そうだ、下手に手を出すとあとで殺されんぞ」

「……いや待って、そのリンチって確か今年の話じゃないか? 去年、他校の生徒をぶっ殺したって、そんな話は……」

「バカ、去年は他校の生徒を殺しちまったから、今年はリンチするだけにとどめたんだよ!」


待て待て待て、いくら相手をビビらせるためとはいえ話を盛り過ぎだ。いや、盛るっていうレベルじゃなくて、完全に無から有を創造している。


「……玉城、ぶっ殺すって言え……」

「……ぶっ殺すだ、ぶっ殺すって……」


しかも、後ろの先輩たちも、相手に聞こえないくらいの小声で俺に指示を出し始めた。勘弁してくれ。

さすがに「ぶっ殺す」とは言えず、さりとて先輩のデマを否定することも出来ず……俺はとりあえず、相手を睨みつける、という行動に出た。


「おい、どうした、ビビったか?」

「……くっ」


ただ、睨むだけでも効果があったようだ。相手は明らかに臆している。

時間稼ぎという作戦は成功しているが、俺への名誉が著しく毀損されているような気がしないでもない。


そんな中、さらに紅組から二騎の加勢が来た。


「おい、囲め囲め!」

「囲んで倒しちまうぞ!」


先ほどまでビビッていた騎馬も、加勢が着たことで勇気づけられたらしい。

三騎がそれぞれ正面、右、左の三方向から俺たちを囲んだ。


「やべえな、こりゃ……」


田中先輩が小声でつぶやいた。

ここまで来たら、もうビビらせる云々ではないだろう。戦わなければなるまい。


最初に動いたのは、右の騎馬だった。加勢早々の勢いをそのままに、こちらにつっこんでくる。

俺はまずそれを右腕で受け止めた。幸いにも腕のリーチはこちらの方がある。右の騎馬の騎手の胸ぐらをつかむと、そのまま思い切り引っ張った。騎手はバランスを崩し、騎馬そのものから落ちかける。

それを見ていた正面と左の騎馬が同時に突撃してきた。

左手で左の騎手の腕を、空いた右腕で正面の騎手の腕を払いのける。しかし、バランスを立て直した右の騎手が再度襲いかかってきたから、揉みあいの乱戦となった。

とにかく俺は鉢巻に来る手を全て払いのける事に専念する。相手も必死なのだろう。鉢巻じゃなくて体操服をひっぱったり、俺の腕を掴んだりして、こちらの動きを止めようとしてきた。

こちらも負けていられない。引っ張られたらむしろ引っ張り返し、掴まれたら振りほどき、多少の暴力も容認してくれとばかりに軽く引っ叩いたりもしながら、鉢巻きを守った。


しかし、三対一はさすがにつらい。攻防を始めて二分も経っていないだろうが、すでに疲れてきた。

こちらの疲れが相手にも伝わったのだろう。攻める勢いが増してきた。左の騎馬など、もはやこちらの騎馬に乗り込むレベルで前のめりになっている。

左の騎馬から逃げるように右に寄るが、しかしそちらにも紅組の騎馬がいるわけだ。

とうとう右の騎馬に鉢巻を掴まれた。

まずい、追い詰められた……万事休すという状況で、俺が負けを覚悟したその瞬間。


パンッ! パンッ!


ピストルが二回鳴った。

騎馬戦終了の合図だ。

俺の鉢巻は掴まれたままだが、頭から離れてはいない。

ということは……


白組の男子たちから歓声が上がる。

グラウンドの隅を見ると、逃げ場をなくしたのであろう、紅組の大将の騎馬が崩れ、遠藤先輩が紅色の鉢巻を高々と掲げていた。


白組が勝ったようだ。


俺も周りと同じように歓声を上げたいところだったが、それよりも疲れによる脱力感が勝った。

騎馬から降ろしてもらい、俺も一息つくと、激戦で伸びてしまったこの体操服をどうするか考えながら、それの裾で鼻の汗をぬぐった。


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