体育祭 準備編(加咲)
今日のご飯はから揚げだ。
大皿の上にドンと置かれたから揚げの山。
「いただきます」
お母さんのヨーイドンの合図で、私と稔のから揚げ早食い競争が始まった。
お母さんの作るから揚げは美味しい。衣はしっとりとしているけど、それが逆に食べやすいし、濃い目の味付けでご飯が進む。よって私と稔はモリモリ食べる。私たちがこんな体型になってしまったのも、ひとえにこのから揚げのせいだろう。
「そういえば、そろそろたわわの学校の体育祭よね、何日ごろやるの?」
「え? ……何日だっけ?」
お母さんに質問されたが、私は答えられなかった。
学校の行事の正確な日付とかは全然覚えていない。別にそういうのは覚えなくても適当に周りに合わせていればなんとかなるのだ。
「アンタねえ……」
お母さんは呆れた顔でこちらを見ている。。
「お父さんに久しぶりに帰ってきてもらうんだから、ちゃんと日付を教えなさい」
「はーい」
そうか、お父さんが戻ってくるのか。お父さんは単身赴任で、普段この家にはいないけど、何かしらのイベント事には戻ってきてくれる。最後に会ったのは夏休みの時のお盆だ。
「そうそう、お姉ちゃん、いつ体育祭やるかちゃんと教えてね」
「え、何で稔が知りたがってるの?」
「それは当然私が見に行くためです」
「……何で?」
「まあ、再来年の志望校だし? 見ておこうかなって」
いつの間にか、私の通っている高校を志望校にしたらしい。だが、自分の妹の事だ。稔が何を企んでいるか、その魂胆は手に取るようにわかる。
「稔が入学してきても、玉城先輩は卒業してるからね」
「え?」
「だって玉城先輩二年だもん、再来年卒業するよ?」
「……あ」
やはり玉城先輩が目的だったようだ。そしてこんな単純な計算が出来ないとは……これはうちの学校を志望校にしたところで、入れるかどうか危ぶまれる。
「じゃあ行かなくていいや……」
テンションを落とした稔。そしてから揚げを食べるペースも遅くなった。これはチャンスだ。一気にから揚げを食べてしまおう。
「たわわはどんな種目に出るの?」
「え? ダンスとか色々……あ、お母さん浴衣出しておいて」
「自分で出しなさい」
お母さんにピシャリと言われてしまった。
浴衣なんてだいぶ前に着たものだし、どこにしまったかわからない。部屋中をひっくり返さないといけないだろう。自分でやるのは非常に面倒くさいけど……玉城先輩と約束してしまった以上、仕方ない。
「そういえば、玉城君はどんな種目にでるの?」
「先輩は、二人三脚とか……あと応援団とかやるって」
「え、玉城さん応援団やるの?」
しまった、『応援団』という単語にしょぼくれていた稔が復活してしまった。
「玉城君が応援団……すごいじゃない、たわわ、ちゃんと褒めるのよ、男ってのは、格好良いって褒めてあげると喜ぶんだから、私がお父さんと付き合ってた頃は、それはもうお父さんのファッションを……」
「お姉ちゃん、私やっぱりお姉ちゃんの体育祭行くから!」
母親のいつものなれそめ披露は聞き流すとして、妹が元気になってしまったことが問題だ。
かくしてから揚げ争奪戦は再開されるのであった。