体育祭 準備編(ヒロミ)
二人三脚のペアは、なぜか女子と一緒になってしまった。
確かに背の順で並べば、同性同士で組むペアもちらほらあったけど……でも、なんか納得いかない。多少身長差があっても異性同士で組む空気だったのに、なぜか僕は始めから男子扱いだったし。
二人三脚のペア決めをした五限のHRも終わり、放課後。
今日はハセと玉ちゃんと一緒にゲーセンに行くことになり、一緒に下駄箱に向かって廊下を歩いている。
ちなみに体育祭の組み分けは、ハセと玉ちゃんは白組で、僕だけ紅組ということになってしまった。仲間外れになったみたいで少しさみしい。
校内はもう体育祭一色だ。
こうやって廊下を歩いているだけで、教室から体育祭に向けての話し合いが聞こえてくる。放課後なのに残ってやるなんて、みんな気合十分だ。
「お、何かあるのか?」
急に玉ちゃんが立ち止まったので、ハセが話しかけた。
どうやら、玉ちゃんは教室の壁に貼られている体育祭についてのプリントを見ていたらしい。
僕とハセがつられてそれを見る。
『応援団・チアリーダー募集』
玉ちゃんが見ていたプリントにはそう書かれていた。
「応援団にチアリーダー……あー、そういや去年もこういうのやってたな」
確かに去年、チアリーダーや応援団の応援合戦みたいのがあった。あの時の応援団の先輩が格好良かったのを覚えている。
「玉ちゃん、応援団に興味あるの?」
「うん? うーん、まあ……」
玉ちゃんは言葉を濁しているが、でも気にはなっているようだ。
「マジかよ、玉ちゃん応援団とかやったことあるのか?」
「ないが……やってみるとどうなんだろう、と思ってな」
やっぱり、気になっている。
玉ちゃんが応援団……学ラン姿で仁王立ちするを想像してみると、かなりしっくりきた。玉ちゃんの強面も応援団なら厳めしい表情、ということで通ると思うし、まさに『はまり役』というやつだ。
「へえ~、なんか意外だな、玉ちゃんはこういうのやらないタイプだと思ったし」
「そうか?」
「玉ちゃんはそういうタイプだよな、ヒロミ?」
「……うん、ちょっと意外だったかも……あ、別に玉ちゃんに応援団が似合わないって言ってるわけじゃないんだよ?」
確かにハセの言うとおり、玉ちゃんは積極的にこういうことをするタイプだとは思わなかった。なんというか、基本的に受け身になるタイプのイメージがあったし。
「どういう風の吹き回しだ?」
「以前、応援団の真似事をしたことがあるんだが、その時に周りからすごく良いって褒められてな」
「へえ、中学時代の話か?」
「いや、数週間前だ」
「夏休み中かよ、何があったんだ?」
そこから、玉ちゃんは夏休みの事を話してくれた。
まず、ソフト部のマネージャーを手伝ったこと、その時に花沢さんから応援団みたく応援して欲しいと頼まれたこと、やってみたらかなり受けがよく、その場にいた別のソフト部員からもソフト部の大会の応援団を頼まれたこと……
話を聞く限りでは、ちらほら引っ掛かる部分があった。
「……いや、それ多分、褒めていたわけじゃないぜ」
話を聞き終わり、ハセが少し渋い顔をしながら言った。
「え、褒めてただろ?」
「ヒロミ、どう思う?」
ハセが僕に話を振ってきた。答えにくい質問に僕は少し苦笑いした。
「……花沢さんは褒めていたとは思うよ」
「ほら見ろ、長谷川……」
「ただ、ちょっとくらいは下心があったかもしれないけど」
「だよなあ」
僕の言葉にハセが頷く。
同じ女として花沢の気持ちは分からなくもない。僕だって、応援団姿の玉ちゃんに応援されるのならば応援されたいさ。そしてそこに下心が全くないとは断言できない。
「まあ、俺はよくわかんねえけど、女子は男子の応援団とかが好きなんだろ?」
「え? えっと……ど、どうだろうね、ははは……」
ハセにズバリ言われて、僕はとりあえず笑って誤魔化した。『熱い男の応援団』は好きな女子こそいるが、嫌いな女子なんていないと思う。男子のコスプレの定番ネタだし、かくいう僕だって、結構好きだったりする。
「そんで、玉ちゃんどうするんだ、やるのか応援団?」
「やってみるかな……」
「マジかよ」
女子からいやらしい目で見られるかもしれない……そのことを指摘されても玉ちゃんはやる気らしい。よほど応援団というものに興味があるみたいだ。
「ヒロミ、どう思う?」
玉ちゃんに話を振られても、僕は素直に答えられず、頭をかいた。
「ヒロミはどうだ、やらないか?」
「え、ぼ、僕はさすがに無理だよ! 応援団なんて……」
こんななりだけど、一応女の子だ。学ランを着れないこともないだろうけど……というか着たら男の子に見えるだろうけど、声でばれる……いや、声でもばれないかな? ちょっと低い声を出せばある程度は……て、何真剣に考えてるんだ僕は。
「いや、そっちじゃなくてチアリーダーの方だ」
「チアリーダー?」
そっちのほうだったのか。いやでもそっちも無理だ。
「でも、僕やったことないし……」
「俺も応援団はやったことないぞ」
「そ、そうだろうけどさ……僕にチアリーダーって似合わないでしょ?」
「いや、似合うと思うぞ」
玉ちゃんが真剣な顔で言うから戸惑ってしまった。
普段ズボンしか履かない僕があんなヒラヒラなスカートを履いても似合うだろうか? いまいち想像できないし、多分服に着られてしまうような、変な感じになると思う。
「ハ、ハセも僕がチアリーダーになるっておかしいと思うでしょ?」
「え? いいんじゃね」
「ええ!?」
ハセが気軽に言った。別に僕をからかうつもりでもなく、本当に何気なく言っている感じだ。
どうしよう、ハセのこれは本気トーンだ。基本的にハセのセンスは外れたことがない。つまりは本当にチアリーダーという格好が似合うかもしれないのだ。
「やってみろよ」
「ヒロミ、一緒に応援してみないか?」
玉ちゃんの誘いとハセのお墨付きをもらった以上、僕を断る理由を見つけることができなかった。
「……じゃあ、やってみる」
僕は小さく呟いた。