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体育祭 準備編(花沢)

夏休みが終わったと思ったらもう体育祭だ。

この体育祭が終わった後には文化祭もあるし、修学旅行もあったはずだ。秋はイベントだらけと言っても過言ではない。普通の生徒にとっては、このイベントの連続の期待感が、夏休み終わりで下がったテンションを上げるのにはちょうどいいと思う。

でも、ソフト部のあたしにとっては憂鬱な季節だ。これから秋の選抜に向けて土日もほとんど部活である。監督もいつも以上に鬼になるだろう。


あたしが今後のことを憂いていると、プリントが前から回ってきた。

流れ作業でそれを後ろに回す。


プリントを見ると、『第四〇回体育祭 プログラム』と書かれている。


「全員プリントいったか? これが今年の体育祭のプログラムな」


教室の前にいる長谷川が声を上げた。


今日の五限のHRは、間近に迫る体育祭について、誰がどの競技を出るか相談しあう時間となった。


ちなみにクラス委員でも体育祭の準備委員でもない長谷川がなぜ黒板の前で仕切っているかというと、単純にこいつがこういうお祭りごとが好きで、仕切りたがったからだ。担任もクラス委員長も、やりたいのならやらせとけ、という適当な空気をだしながら、長谷川を放置している。


「まずは二人三脚な、これ二年は全員参加だから誰が誰と組むか決めようぜ」


二人三脚……あまり積極的にはやりたくない競技である。この大きな身体で、誰かと合わせて行動するのは大変なのだ。


「ねえ長谷川君、この二人三脚ってさ、男女混合? それとも男女別なのー?」


麻美が手を上げて質問した。


「え? わかんねえ」


長谷川が隣にいる女子のクラス委員長を見た。


「男女混合だって、三ツ矢先生は言ってたよ、だから同性でも異性でも組んでいいって」

「じゃあ、どうするか……男と女で組むか?」


委員長と長谷川の言葉に、麻美を含めた一部の女子が、オーと歓声をあげた。

一方あたしは、はいはいよかったね、って感じだ。男子の中でのあたしのあだ名は「ゴリ沢」である。そんなあたしと組んでくれる男子とかいなさそうだし。


「それで、誰と誰が組むかなんだが……」

「あ、ゴメン、男女は混合でいいけど、紅白は分けてって三ツ矢先生が言ってたから」

「マジ? それならそれで分けるか……つっても二人三脚なら身長合わせねえとダメだよな……よし、お前ら紅白に別れて背の順で並べ、男女関係なしにな」


女子たちが元気よく立ちあがり、教室内が一気に騒がしくなった。

やれ、お前の方が高い、だの、同じくらいの背じゃない? だの……あたしはそんな騒がしくなった教室で、すぐには立たず、窓の外を眺めた。

背の順になれば、どうせあたしが一番最後に決まっている。そんなに急がなくても別にいいだろう。


少し経つと、列がちょっとずつ出来始めていた。

あたしもそろそろ並ぶか、と席を立って、白組の列の最後尾、教室の後ろの方を見た瞬間に、ビクリとした。


玉城がそこにいたのだ。


そうか、玉城も白組だったのか。しまった、この可能性を忘れていた。

玉城の身長ならばあたしの身長と合う。あたしの方が少し背が低いけど、でも二人三脚をするのには問題のない身長差だ。

何よりも、玉城ならば他の男子と違って、あたしを見てもゴリラ扱いしないし、きっとあたしと二人三脚を組むことになっても拒みはしないはず……


あたしは、はやる気持ちを抑えながら玉城のもとに向かった。


「玉城君」

「おお、花沢……」


あたしは玉城に声をかけると、玉城の隣に移動し、玉城と同じ姿勢でロッカーに寄り掛かった。


「あれ、花沢も白組なのか?」

「うん」

「なんだ、それなら二人三脚は俺たちで組むことが決定だな」

「そ、そうみたいだね……」


良かった、玉城の方からその話題を出してくれて……あたしの方から言い出したら、男子と二人三脚したがってる気持ち悪いやつに思われるだろうし。


「花沢は二人三脚ってやったことあるか?」

「中学の頃に一回くらいあったかな……」


中学時代には、ほぼあたしの身体は今くらいに完成していた。思えば二人三脚についての苦手意識は中学時代の経験から生まれたものなのかもしれない。


「玉城君は?」

「ない」


玉城は首を横に振った。


「……なあ花沢、まだ時間ありそうだし、よかったら二人三脚の形だけでも組んでみないか? 練習がてらにでも」

「え? ……い、いいよ」


玉城のこの提案を断る理由などない。というか、これを断れる女子などいないだろう。

玉城は首から下は百点満点の男子、それがうちのクラスの女子の共通認識である。そんな玉城と密着できるのだから、喜んでやらせてもらおう。


「よし、やるか」

「うん……」


玉城と肩を並べる。鍛えているあたしよりも全体的な厚みがある気がする。これが天然ものの大柄な男性なのだ。


「なあ、二人三脚って肩とか組むよな?」

「うん……組む?」

「いいか?」

「……いいよ」


あたしと玉城は肩を組んだ。男子と肩を組むなんて、恋人同士でなければ二人三脚でないと体験できない事だろう。

あたしはジッと玉城の二の腕を見つめる。本番は体操服で、さらにこの太い二の腕はむき出しの状態であたしと密着するのだ……ヤバい、今からテンション上がってきた。男女混合の話を出してくれた麻美にはグッジョブと言いたい。


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