デパートにて(玉城)
日曜日、加咲に遊びに誘われ、集合場所の駅前の大型電光掲示板の前まで行くと、髪先をいじりながらキョロキョロとあたりを見渡す加咲と、スマホをいじっている秋名がいた。
なぜ秋名がいるのだろう。加咲が誘ったのだろうか。
キョロキョロとしていた加咲がこちらの方を見た。秋名を肘でつつく。
加咲に肘でつつかれ、顔を上げた秋名は俺を見つけると声を上げながら手を振った。
「せんぱーい、こっちでーす!」
そんな目立つ事をされなくてもわかる。
特に急ぐわけでもなく、歩いて加咲達のもとに向かった。
「おはようございます、先輩」
「ああ、おはよう」
「……お、おはようございます」
相変わらず元気な秋名とオドオドしている加咲。傍から見ればこの二人の性格は対照的だと思うが、よく仲良くなれたものだ。いや、もしかしたら対照的だから仲が良いのかもしれない。
二人の私服も対照的だ。
秋名は『働いたら負け』と書かれたワイシャツにジーパンというラフなものである。
一方で加咲はウエストがしまるタイプのワンピースに小さなポーチを持っている女の子らしい格好だ。
「うーん……」
「なんだ?」
秋名が唸りながら俺をじろじろと観察している。
「なんか、もうちょっと、こう……なかったですかね」
「何の話だ?」
「服ですよー、その格好……もっとこう男らしいチョイスをしてほしかったですね……」
「男らしい格好?」
自分の服を見るが、小奇麗なワイシャツにジーパンというもので秋名とそう変わらない。
さすがにもうちょっとおしゃれをした方がよかっただろうか? 異性とはいえ、後輩と遊びに行くのに気合を入れるのも……と思い、新しく服を買うことはしなかったのだが、もしかして秋名たちは『そういうの』を期待していたのかもしれない。
「男らしいってどんな格好だ? そういうのよくわからなくてな」
「あんな感じのやつです」
秋名が指差した先を見ると、筋肉質な男がホットパンツにタンクトップという格好で歩いていた。ホットパンツもタンクトップもかなりピチピチで、服の隙間から筋肉がはみ出ている。元の世界なら下手すれば通報案件だ。
「……あんなの絶対着ないぞ」
「えー……」
秋名は不満そうに口を尖らせる。あんな服着れるわけないだろうが。なんだ、とりあえず露出してればいい的な発想がこの世界での「男らしい」なのか?
「咲ちゃんも見たいよね、先輩のエロい……じゃなくて、男らしい格好」
ちょっと本音が漏れたぞ。やっぱり男らしいとかじゃなくてただのエロい格好ってだけじゃないか。いや、男から見るとわからんが、エロいのか、あれは?
「あのな、お前と加咲を一緒にするな、加咲だって別にあんな格好した俺は見たくないだろ?」
この貞操が逆転した世界においても、どうにもこの秋名だけは尖って変態度が高いようだ。この前友達に秋名の変態行為を相談してみたところ、警察に通報することを勧められた。もはやこいつの言うことは当てにならない。
「……」
「……加咲?」
俺が話を振った加咲はジッと俺を見つめている。俺の問いに否定も肯定もしない。
いや、「否定をしない」ということはつまりそれは……
「お前、まさか秋名と同じ気持ちなのか?」
「……み、見たくないです……」
加咲は顔を伏せ、蚊の鳴くような小さな声で、呟くように言った。明らかに嘘をついている。
何て事だ、まさか加咲も秋名と同じくらい変態だったとは……加咲は秋名と真逆のタイプと思っていたが、まさかその本性は類友だったのか?
「ほら、咲ちゃんも本当は見たいって言ってますよ、先輩、ここは可愛い後輩のためにもサービス精神をですね……」
「なんで俺がお前にサービスしなきゃいけないんだ、というか、お前なんでここにいるんだ?」
「え!? ひどくないですかその言い方、いいじゃないですか私がいたって」
「加咲、こいつも誘ったのか?」
「は、はい……ダメでしたか?」
「そうだな」
「ええ!?」
「じゃ、じゃあ……はっちゃん、帰って……」
「はっ!? ちょっ!? 咲ちゃんが一人だと不安だからって言って私を誘ってきたんでしょ!?」
どうやら本当に加咲に誘われてここにいるらしい。
まあ、引っ込み思案の加咲が、男と二人きりで遊ぶというのは色々と辛いのだろう。正直言うと俺も加咲と二人きりというのは少し不安だ。未だにどの程度の距離感で付き合えばいいのかわかっていないし。
そういう点でこの場に秋名がいてくれるのは実はありがたかったりするのだが、そんなこと言うとこいつは絶対調子に乗るだろうか、口が裂けても言えない。
「でも、先輩がダメって言うし……」
「いやいやいや、ここで帰るのはないって、ほら三人で楽しくやろうよ」
「……先輩、はっちゃんは帰りたくないみたいです」
「困ったな」
「そうですね……」
「ええ……なんで私が困らせてる感じになってるの? 咲ちゃんが頼んできたんだよね?」
加咲と違って秋名の扱いはだいぶ心得てきた。少しぞんざいに扱うのがいい。いわゆるいじられ役のポジションだ。おそらく俺以外の相手でも秋名は大体そのポジションなのだろう、生き生きしている気がする。
「……わかった、そんなにいうのなら一緒にいてもいいぞ」
「だって、よかったね」
「……なんか納得いかない、先輩は良いけど咲ちゃんがそっち側なのは納得できない」
加咲は俺のようにいじるつもりで言っているのではなく、本気で俺の意見に賛同しているだけのようだ。どうやらこいつはイエスマン体質らしい。
「それじゃあ行くか……」
「はい!」
秋名は当然のように俺と腕を組んだ。
「……」
「なんですか? 先輩?」
わかっててやってるだろうに、「なんで私の方を見るんですか、私何もしてませんよね?」的な視線で俺を見返している。
まあいいか、こんなのをいちいち気にしていたらきりがない。
その時、秋名が占領しているのとは反対側の手にチョンと何かがふれた。
そちらの方を見ると、加咲が自分の手をいじりながらモジモジとしていた。
「……」
「……」
俺が見ても加咲は何も言わない。ただモジモジとするだけだ。
どうやら手を握りたいらしい。俺も加咲の事が大体わかってきた。
「……ほれ」
「あ……」
俺が加咲に向かって手を差し出すと加咲の顔がパッと輝き、俺の腕に抱きついてきた。
手を握りたかったのではなく、秋名のように腕を絡めたかったようだ。前言撤回、まだ俺はこいつのことがよくわかっていない。
そして、腕に抱きつかれたことで、加咲の巨乳が俺の腕に押し付けられる。これはかなり素晴らしい……もといヤバい。
「先輩、それでどこに行くんですか?」
「うん? ……どこに行くんだったかな」
加咲の乳に意識を持って行かれ、ちょっとまともに受け答えできる状態ではない。
「新しくできたデパートに行くんですよ」
「……ああ、そうだった、最近改装し終えたあそこだ」
「デパートですか! ついでに先輩に似合う服を選んじゃいましょうよ」
「うん? ああ……」
秋名が何か言っているが聞こえない、というか聞く余裕がない。柔らかいくせに重量感のある双球に挟まれると、男はここまでテンパってしまうものなのか。
「先輩? どうしたんですか?」
「……なんでもない」
「ふーん? まあ、いいや、行きましょ」
秋名はなんで俺がここまでテンパっているのか理解していないようだ。加咲もさっきから黙っているが、別に俺の異変を感じ取った様子はない。
俺は今日一日ずっと加咲の胸に挟まれたまま過ごすのか。それはそれで嬉しいのだが、色々と辛いことになりそうだ。