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宿題合宿(玉城)

『玉ちゃん、宿題終わった?』


夏休みも折り返しといった頃、自分の部屋で冷房にうたれながらくつろいでいると、長谷川からラインが来た。


『終わってない』


まったく手を付けていないわけではないが、やったのは簡単なやつだけ、という状況だ。


『一緒に宿題やらね?』


悪くない提案、と言いたいところだが、これを提案しているのが長谷川だという点を考えると素直には頷けない。あいつが夏休みの宿題を真面目にやるとは思えないのだ。

俺が頑張って宿題をして、あいつは横で漫画でも読みながら俺が宿題を終わらせるのを待っている……そんな光景が容易に想像できた。


『俺とお前の二人だけか?』

『他の奴らは誘ってねえよ』

『なんで誘わない?』

『だって、俺の友達で一番真面目に宿題やるの玉ちゃんだと思うし』


嬉しいと思っていいのかわからない評価だ。

そして、やはり長谷川は俺に宿題をやらせて、それを写す気だったらしい。


『誰か他のやつも誘え、どうせお前宿題する気ないだろうし、一緒に宿題をやるのならもっと戦力がいる』

『俺だって、ちょっとくらいはやるぜ? ドッカンブンとか』


読書感想文は写せないだろうがバカ。


『ヒロミは誘ったか?』

『ううん、誘ってない』

『ならヒロミだ』


俺と長谷川の共通の友達で真面目に宿題をやっているやつといえば、おそらくはヒロミだと思う。そして、以前の学年テストでもヒロミは俺と同じくらいの順位だったずだ。宿題処理において長谷川より戦力になるだろう。


『あ、じゃあ俺の彼女も呼んでいい?』

『呼んでどうする』

『俺の彼女、実は結構頭良いから絶対役に立つぜ』


俺は長谷川の彼女に会ったことがない。そもそもうちの学校の生徒ではないのだし。

ただ、長谷川が評する「頭が良い」というのは少し眉唾だ。長谷川の彼女なのだからおそらくはギャル系だろうし、真面目に勉強するタイプだとは思えない。


『ちなみにその彼女ってどこの高校だ?』

『東高』

『絶対連れて来い』

『b』


東高は県内でもトップクラスに進学校だ。それこそ毎年、そこそこの数の旧帝大の入学者を輩出している。

高校が違うから出されている宿題も違うだろうが、それでもワーク集や問題集などの単純な知識を問われる宿題では大いに力になってくれるはずだ。

というか、長谷川がどうしてそんな進学校の女子と付き合っているのかちょっと気になる……まあその辺りは会った時にでも聞いてみるか。


『じゃあ、場所は俺んちね、明日でいい?』

『いいぞ』

『夕方くらいに来て、そんでみんなで飯とかも食おうぜ』

『泊まることになりそうだな』

『それいいじゃん、宿題合宿ってことで、ちょうど明日親いねえし騒げるぜ!』


男女4人で友達の家に泊まり込みか。悪くない。これが宿題のための合宿でなければもっとよかったのだが。


『じゃあそういうことで、二人には俺が連絡入れとくわ』


さて、それじゃあ、俺も明日の準備をしよう。



次の日

俺は長谷川の家の前まで来ると、電話をかけた。


『玄関空いているから入って、もう二人来てるから』


言われた通り、玄関に入り、鍵を閉めて二階の長谷川の部屋に入る。

冷房がほどよく入った涼しい部屋に、ラフな部屋着の長谷川とジーパン姿のヒロミ、そしてキャミソールのギャルがちゃぶ台を囲んで座っていた。


「あ、初めまして~」


ギャルから緩い挨拶をされた。

少し焼いた小麦色の肌にパッチリとした目……まあ、この目はメイクによるものだろうが、それでも下地から美人であることはよくわかる。

長谷川(チャラお)の彼女だから、どうせ濃いメイクのギャルだろう……と思っていたので、少し予想外だった。


「玉ちゃん、こいつ美姫(ミキ)な、俺の彼女」

「晴君の彼女やってまーす、ミキティーって呼んでねっ」


ミキティーがウインクをした。


「んで、こっちが玉ちゃんな」

「玉ちゃん……可愛い名前してるね、受ける」


ミキティーは半笑いだ。雑な紹介のされ方だが、別にこだわるところでもあるまい。ミキティーとは次にいつ会うかわからないし。


「……じゃあ、早速始めるか」


俺もちゃぶ台の前に座り、バッグから宿題を取り出す。


「え、いきなりやんの?」

「何のために集まったんだ」

「いや、どうせみんな今日泊まりじゃん? だったらいつでもできるし、最初はちょっと遊んでもいいんじゃね?」


長谷川という男はこういうやつだ。真剣になると周りの声が一切聞こえなくなるまで集中するくせに、その段階にならない限りはすさまじく自堕落。これに流されるとこちらまで損をする。


「いいからやるぞ、どうせお前のことだから一度遊ぶとそのままずっと遊び続けるだろうからな」

「ははは、玉ちゃん、晴君のことよくわかってるじゃーん」


ミキティーが「その通り」と両手で俺を指差した。

わかっているのならミキティーもこいつを説得して欲しいものだ。


「お前がやらないなら俺とヒロミだけで宿題を終わらせるからな」

「え、マジ? それ俺に見せてくれる?」

「誰が見せるか」


長谷川がヒロミの方をむく。

ヒロミは苦笑いを浮かべながら、首を横に振った。


「……わかったよ、最初はやるよ……でも、一時間で休憩な、それでゲームすっから」

「……まあいいだろう」


なんで俺が妥協する側に回ってるんだ。

しかし、遊びたいという気持ちは分からなくもない。なんだったら俺だってこんな宿題なんかせずに遊びたい。


「ヒロミはどこまでやった?」

「えーと……とりあえず、漢文と英語の翻訳はやったよ」

「問題集は?」

「それは手を付けてないかな……玉ちゃんは?」

「俺は日本史のワークを全部埋めただけだ」

「あ、じゃあそれで見せ合いっこしよう、ミキティーは問題集を教えて?」

「オッケー……って、言っても、ウチあんまり頭良くないから期待しないでね」


東高の「頭良くない」は、おそらくうちのクラスで一番頭がいい奴に匹敵する(と思う)からそこは問題ない。


「玉ちゃん、俺も読感文は終わらせたぜ!」

「……お前は応援でもしてろ」


そんなものを誇るな。

まあ、もとより長谷川は戦力として期待していない。邪魔をしなければこちらで終わらせた宿題を見せてやってもいい。


「じゃあ晴君に玉ちゃんとヒロミちゃんの分の読感文書いてもらえば?」

「え? ……いや、それはいい」


長谷川の書く読書感想文は読んだことがないが、こいつは漫画とかを題材にして書きそうだし、変なものを書かれて呼び出しを食らうのはごめんだ。


「それいいかもしれないよ、僕、さっきハセの読感文読んだけど、意外と普通だったし」

「……マジか?」

「晴君はねえ、基本頭悪いんだけど、文才だけはあるんだよね~、中学校の頃に書いた作文が市の文集とかに載ったりしたし」

「え、てか、お前ら俺の事舐めすぎじゃね? 俺、小論外したことねえからな? テストでも国語とか80点以下取ったことねえし」


ここにきて、長谷川の意外な才能を知った。

しかし、それなら安心して任せられる。


「よし決まりだ、長谷川は俺とヒロミの読書感想文を書いてくれ、それが終わったら遊んでていいぞ」

「やりぃ!」

「ヒロミは俺と終わってるところまで見せ合いっこ、その間にミキティーは問題集とかの答えを出しといてくれ」

「うん」

「はーい」


なぜかいつの間にか俺が仕切っている。

まあ、長谷川には任せられないし、ミキティーは部外者だ。ヒロミはこういうのをやらないタイプだから、消去法による必然だろうな。




「終わったー!!」


長谷川が持っていたシャーペンと作文用紙を投げ出してベッドに転がり込んだ。

宿題作業を開始してから、2時間。1時間で休憩という話だったのに、長谷川はそれすらもとらずにひたすら作業に集中していた。本当にこいつは集中力だけは凄い。


俺たちの方はといえば、手つかずの問題集を片づけているところだった。

3人寄れば文殊の知恵、とはいうが、やはり5割くらいはミキティーが答えを書いている。東高生様々である。


「玉ちゃん、俺終わったんだけど」

「こっちはもうちょっとかかるな」


夏休みに出された宿題は、英語、漢文、古文、現国、日本史、選択科目、保体、家庭科の問題集やらプリントやらだ。さすがに3人でもこれらを2時間で終わらせるのは無理である。


「じゃあ俺、ちょっと飯とかジュースとか買ってくるわ」


時計を見ると、6時を回っていた。夕飯を食べるには遅くない時間だ。


「あ、お金だすね」

「おう、よこせよこせ」


ヒロミが財布から千円札を出した。ミキティーも同じく千円札を出す。

俺は財布から五千円札を出した。


「お、玉ちゃん太っ腹じゃん、ありがたく使うわ」

「好きなだけ使っていいけど、俺たちで飲み食いするものだけにしろよ」

「え、マジで五千円全部使っていいの? 玉ちゃんどうした、身体でも売ったか?」


ぶふっ、とヒロミが吹き出した。


「まあ、そうだな」

「え?」

「え?」

「ええ!?」


上から長谷川、ミキティー、ヒロミの順だ。


「いや、信じるなよ、ただのバイトで稼いだ金だからな」

「なんだよ、玉ちゃんの場合そういうのはシャレになんねえからな」


こいつは俺をなんだと思ってるんだ。

そして俺はヒロミもホッと胸をなでおろしているのを見逃さなかった。こいつも長谷川と同じか。


「じゃあ行ってくるけど……美姫」

「なに~?」

「俺がいない間に玉ちゃんにちょっかい出すんじゃねえぞ」

「はいはーい、わかってるよ~」


彼氏らしいことを言い残し、長谷川が部屋から出ていった。


「ねえ、玉ちゃんって彼女いる?」


しかし、そんな彼氏からの注意を早速無視して、ミキティーが俺にちょっかいを出してきた。


「別にいないが」

「今まで彼女いたこととかあるの?」

「……ないけど」

「あー、やっぱりないんだ」


どういう意味だそれは。そんなにモテないように見えるか。ギャルに言われるとちょっとショックだぞ。


「ちなみにヒロミちゃんって男の子が好きなの? 女の子が好きなの?」

「お、男だよ!」

「へえ……それで二人って友達?」

「……そうだが」


この会話の流れはマズイ気がする。


「じゃあさ、二人って付き合ったりとかしないの?」


ほらきた、完全にこうくる流れだった。

ヒロミと付き合うかどうか、というのは考えたことがない。ただそれは、本当に考えたことがなかっただけであって、ヒロミのことを女として見ていないわけではないのだ。


「ねえねえ、どうなの?」


ミキティーは俺とヒロミを交互に見る。

ヒロミの方は聞こえないふりをしながら問題集に取り組んでいた。

……これが正解の反応だな。


「とっとと宿題終わらせるぞ」

「えー? 玉ちゃん、ノリ悪いよ?」


そんなもの知るか。

俺もやりかけの問題集に目を落とす。

話しに乗ってこない俺たちににぶーぶーと文句を言うが、それも黙殺し続けた結果、ミキティーは渋々と宿題の処理作業を再開した。




時計を見ると、8時を回っていた。


「……遅くないか?」


長谷川が買い出しに出かけてから2時間経つ。てっきり近くのコンビニにでも行ったのかと思ったが、時間がかかり過ぎている。


「まさか、なにかあった、とか?」


ヒロミが心配そうに眉をひそめた。


「……うーん、多分ねー、ちょっと遠出してるだけだと思う」

「この辺りにスーパーとかコンビニってないのか?」

「あるけどー、多分、アレ買いに行っているんだろうし」


アレ? なんだそれは……と聞こうとした瞬間、ガチャリ、と玄関のドアが開く音が聞こえた。


「帰ってきたみたいだよ」


どうやら本当に遠出していただけのようだ。

ドタドタという足音とともに二階に上がってくると、ドアが開いた。


「宿題終わった? 飯買ってきたぞ」


長谷川が、両手いっぱいにスーパーの袋を持って入ってきた。


「どこまで行ってたんだお前」

「悪い悪い、これ買ってたんだよ」


長谷川がちゃぶ台の上にスーパーの袋をドサリと置く。

中に入っていたのはジュースの缶……いや、違う、これは……


「お前……酒を買ってたのか?」


見た目はジュースっぽいが、缶には『お酒』と書かれている。


「へへへっ、やっぱり、これがないと盛り上がらねえだろ?」

「酒盛りなんかしたことないぞ、お前普段から酒飲んでんのか?」

「晴君もお酒飲み始めたのは高校に入ってからだよー、その勢いで初めてエッチしたし」

「バカ、そういうこと言うんじゃねえよ!」


ケラケラ笑うミキティー。こういう下系の話題を女子の方がぶっこんで来るのが、この逆転世界だ。


「よくお(みせいねん)が買えたな」

「買える店があるんだよ、そのためにわざわざ遠くまで買いに行ったんだから」


こんな時間がかかったのはそのせいか。


「それじゃあ夕飯にしようぜ! 適当に弁当買ってきたからさ、そんで飯食い終わったら宴会な」


ヒロミとミキティーが俺を見た。

一応、俺が仕切っていることになっているし、俺の判断を仰いでいるようだ。


宿題の進行状況的には全体の8割を終わらせたといったところだ。この調子ならあと一時間程度で終わるだろう。

これなら休憩しても……というか、まあ今日はこの辺でいいかもしれない。残りは明日にまわしても問題ないだろう。


「よし、じゃあ今日はここまでにしておこう、飯食って……酒も飲んでみるか」

「そうこなくっちゃ!」


長谷川がパチンと指を鳴らした。まあ俺だって酒というものに興味がないわけじゃないんだ。


3人で机の上を片づけ、空いたところから長谷川が弁当と酒の缶を置いていく。

机の上に置かれた酒の缶を手に取る。レモンサワーとあるが、サワーってなんだろう。酒の種類はよくわからない。レモンジュースみたいなものだろうか。


「そんじゃあ、まずは乾杯からな」


長谷川は座ると早速缶のタブを開けた。


プシュッという炭酸飲料の音が鳴る。

俺たちもそれに倣って酒の缶を開けた。


「お疲れさーん、かんぱーい」


長谷川の音頭で乾杯をして、俺はグイッと酒を飲んだ……




目覚めた時、俺はベッドの上で寝ていた。


……あれ? 俺なんでベッドで寝ているんだろう? 


昨夜の事を思い出そうとするが、いまいち不明瞭だ。みんなで宿題をするために集まって、それでいい時間になったから夕飯を食べて、それから酒を飲んで、それから……


はて、酒を飲んだという記憶はあるが、飲んだ後どうしたという記憶がない。


顔を横に向けると、俺の横にヒロミが寝ていた。

まさか同じベッドに寝てしまったか。いや、仕方ない。この部屋にはベッドは一つしかないんだし……

女の子と同じベッドで寝た、という非常にラッキーな体験をしたというのに、そのことを全く覚えていないとは勿体ない事をした。


俺が軽く後悔しながら上体を起こすと、とんでもない事態になっていることに気が付いた。


ヒロミが服を着ていない。正確に言うと、下着姿になっているのだ。


「な、何!?」


驚いてベッドから飛び降りる。

そこでやっと、俺はこの部屋の惨状に気付いた。


散乱する空き缶、脱ぎ捨てられた服、床に倒れるように寝ているほぼ裸の長谷川とミキティー。


「一体、この部屋で何があったんだ……?」


俺は長谷川を揺さぶって起こした。


「は、長谷川、どうしたんだ? 一体何があった!?」

「うぅぅ……え? ……あ、玉城さん、どうしました?」

「玉城さん? なんだそれは?」


長谷川は寝ぼけているのか、俺に対して妙にかしこまっている。


「いや、昨日……」

「そう、昨日だ! 昨日何があった?」

「……え? 昨日の事、覚えてない?」

「ああ、飯を食ったところまではギリギリで記憶があるんだが……そうだ、なぜだか知らないが、ヒロミが下着姿で俺と一緒のベッドで寝ていたんだ、何があった?」

「……あー、そっか……それなら……いや、うん……」


長谷川は言いよどみながら頭をかいた。


「長谷川? どうしたんだ?」

「なんでもねえよ……とりあえず……」

「とりあえず?」

「……玉ちゃん、今日から、酒、飲むな」

「……? どういうことだ?」

「悪い……ちょっとすげえ眠いから……もうちょっと寝るわ……」

「お、おう……」


長谷川は意識を失うかのように眠りに落ちた。


分からん……昨夜、一体何があったんだ……?


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