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ざぶーんランド(麗)

計画は完璧だった。

前々から練りに練っていた彰君とのお泊り。現役男子高生とのお泊りデートである。この日のために宿を調べ、伯母さんたちを言いくるめた。

宿の予約も入れ、さあ当日が楽しみだ……と思った矢先に、勤めている営業所の上司の一言で計画がとん挫した。


「島崎君、この日大丈夫? 社員旅行があるんだけど」


まさかの営業所の社員旅行と、私のお泊りの日程がもろ被りだったのである。


「島崎君だけ出欠くれないからさ、幹事の上田君が困ってたよ」


まさか、社員旅行に私が勘定されているとは思わなかった。ここでは完全に「いない者」扱いされているはずなのに。


しかし、ここで「いえ、予定がありますので」と断ることはできなかった。

こんな社員旅行よりも、彰君とのお泊りデートの方が大事なのは事実だが……問題は、日程だけでなく泊まる場所まで被っていた、という点だ。

こんな偶然あるだろうか、と神様を呪っていたところ、上司がその疑問に答えてくれた。


「上田君が感謝してたよ、『島崎さんのおかげで旅行する場所が決まりました』って、彼女、君の机に上に置いてあった旅行雑誌の表紙を見て、場所を決めたらしいよ」


上司が嬉しそうに言う。

彰君とのお泊り会の計画を練るために職場にまで旅行雑誌を持ち込んでいたのだが、なんとそれが裏目に出てしまったのだ。


「それでどうかな、社員旅行……まあ、私としても、みんな仲良くやりたいからね、是非参加してほしいんだが……」

「……」


長い沈黙の後、結局、私は社員旅行を選択した。

ここで断っても、当日旅行先で鉢合わせする確率が高い。その時に身内とはいえ「男子高生と二人きりでお泊り」なんて事実が知れ渡ったら、本格的にここに居場所がなくなる可能性がある。クビ的な意味で。

別に「いない者扱い」はいい。だがクビはダメだ。クビにされたら彰君の家に居候できなくなって元も子もなくなる。




というわけで私は泣いている。彰君の胸の中で。


「ううぅぅ……あきらぐぅん……」

「ああ……えーと、よしよし……」


彰君は私の頭を優しく撫でる。


「ご、ごめんねえ、りょこうがあ……」

「それはもう別にいいから……」

「うわーん……」

「はいはい、いいこいいこ」

「うぅぅ……はあ、すう、はあ、はあ……」

「……麗ちゃん? 本当に泣いてる?」

「泣いてるよぉ、うわーん」

「……」


はあ、心地良い……頭を撫でられながら、男子高生の厚い胸板で存分に泣くことがこんなにも気持ちの良いものだったとは。これは現代社会に生きる疲れた女たち相手に一商売できる気がする。彰君の胸は貸さないけど。


「まあとにかく、麗ちゃんとの旅行が潰れたのは残念だけど、それはもう仕方ない」

「……」


仕方ないということはわかっている。でも、こうなってしまったことは本当に悔しい。あとちょっとでお泊りデートだったのに……私はこれから一体何を糧に生きていけばいいんだろう……


「……わかった、それなら、海じゃなくてプールに行かないか?」

「……え?」

「まあ、海とはちょっと違うけど、泳ぐってことなら一緒だし、どうせならちょっと遠出してレジャー施設に行くってのはどう? 麗ちゃんが次に休みを取れる日にでも」


それだと肝心な部分がフォローできてない。海で水着で遊ぶことも重要だが、何よりも大切なのはお泊りの部分なのだ。めくるめく夜が大切なのである。


「……」

「……気乗りしない? まあ、麗ちゃんが行きたくないっていうのなら行かないけど……」

「行く」

「ああ、行くのね……」


もちろん行く。現役男子高生と水着デートだ。これを断れる女はいないだろう。

お泊りデートが水着デートに格下げになったのは本当に残念だが、何もないよりかはマシだ。自分にそう言い聞かせることにした。


「あ、そうだ、彰君の水着も買ってあげなきゃね」

「……いや、俺は持ってるから」

「え、そうなの?」


それは知らなかった。せっかくピッタリの水着を買ってあげようとしたのに。


「ちなみにどんなの?」

「あー……ビキニパンツ」

「えっ!?」


まさかの予想だにしない答えが返ってきた。彰君がそんな大胆な水着を持っていたなんて……


「……麗ちゃん、ちなみにビキニを履く男ってどう思う?」

「すごく良いと思う」


即答した。

事実だもの。


「……うん、わかった、ビキニを着ていこう」

「じゃあ、彰君の水着はオッケーね、私も水着を用意しておくから!」




私達が向かうのは、その名も『ざぶーんランド』。敷地面積は東京ドーム6個分という超大型レジャー施設だ。

そんなとても楽しい施設の最寄駅に着いたのだから、さぞかし私のテンションも上がっているだろう、と思うかもしれないが……


「麗ちゃん、きっとプールも楽しいからさ、元気出してくれよ」

「……」


だだ下がりだった。

確かにこれから彰君と水着デートだ。それはとても喜ばしい事である。しかも彰君はビキニときてる。

しかし、だからこそ、海に行けなかったことが悔やまれるのだ。

もし海に行けていたら、ビキニの彰君と砂浜を歩いていたことになる。これを悔しがらずして何を悔しがればいい。


プール施設に近づけば近づくほど、そんな無念の思いで、私のテンションは下がっていった。


「なあ、麗ちゃん、プールには海にはないものもたくさんあると思うよ、例えばウォータースライダーとか」

「ウォータースライダー……」


そんな私を、彰君は慰めてくれる。

でも、ウォータースライダーくらいでは、私の心は……いや、待てよ、確か彰君はビキニパンツを履く。ということは……


「他にも波の出るプールとかあるから、それで海の疑似体験ができるかもよ」

「波の出るプール……」


激しい水の動き、と危うい水着、そこから導き出される一つの結論。


「それは……ポロリ……」

「え? なに?」


ありえる。可能性は十分に。むしろ海に行くよりもプールの方がポロリの可能性はあるのではないだろうか。


「彰君、プール、楽しもうね!」


私は笑顔で彰君にそういうと、『さぶーんランド』に向かってズンズンと歩いた。




私は手早く水着に着替え、はやる気持ちを抑えながら脱衣所を出た。


プールサイドにいるであろうビキニ姿の彰君を探す。


幸いにもすぐに見つかった。彰君の背格好はそこら辺の男とは格が違うのだ。


「彰君、お待たせ……」


彰君がこちらを振り向いた瞬間に、すぐに顔を背けた。


よし、いいぞ、予想通りの反応だ。

私はこの日のために水着を新調した。ビキニタイプの水着で、あえて大胆のやつを選んだのだ。

彰君は純情なので、こういう水着を前にすると照れてしまう。これは、前に一緒に旅行した時に知った事実だ。

ならばそれを逆に利用する。

こうすれば、彰君はこちらを見れない。つまり、『私がどこを見ているから彰君はわからない』。

彰君を存分に見つめることができるのだ。


勿論、いま注目すべきは彰君のビキニパンツ。


……素晴らしい。ヒョウ柄というあまりにも責めすぎているビキニパンツだが、彰君の雰囲気ととてもマッチしている。何よりも深いカットがとてもセクシーで、股間の部分が若干もっこりしているような……


「麗ちゃん、そんなにみられるのはさすがに恥ずかしいんだが……」

「あ、ご、ごめんね……」


私は慌てて首を上げた。

いかんいかん、確かに彰君は照れてあまりこちらを見てこないが、それでも全く見れないわけじゃないんだ。私が常に彰君の股間を凝視している変態だと認識されれば、怒って帰ってしまうかもしれない。


時々、彰君の目を盗んで凝視しよう。


「それじゃあ、麗ちゃん、まずどころからいこうか?」

「……ウォータースライダー」


行く場所は二つだけでいい。ウォータースライダーと流れるプール。

そこでちょっとしたハプニングに遭遇出来れば万々歳だ。具体的にはポロリみたいなやつを。



『ざぶーんランド』にはウォータースライダーが二つある。一つは一人で滑るタイプのもの。もう一つは二人乗りの浮き輪に乗って、二人で滑るタイプのものだ。

どちらに乗るかと聞かれれば、当然答えは一つしかない。


私達は私の強い希望により、二人で滑るタイプのウォータースライダーに並んだ。


人気のアトラクションらしく列は結構長かったが、意外とスムーズに進み、早々と私たちの番になった。


「それでは乗って下さい、どちらが前になりますか?」


浮き輪を掴んでいるスタッフに促される。


これは……困った。とても難しい判断を迫られている。


「……どうしよう、どっちがいいかな?」

「麗ちゃん、どっち側に乗りたい?」


彰君に聞いてみたが、逆に聞き返されてしまった。

彰君的には、私を立てているつもりなのだろう。

しかし、これは本当に難しい事なのだ。

例えば、私が前に行くとしよう。すると、彰君が後ろに来て、きっと私は彰君に寄り掛かる形になる。その時に彰君が私を抱きしめてくれれば、それはとても最高だ。

熱い胸板と太い二の腕に包まれた最高の空間が出来上がる。


一方、私が後ろになるとすると、前にいる彰君に抱きつく形になる。

これもいい。彰君の肉感のある大きな背中をこの肌で感じるという滅多にない機会だ。きっと彰君の力強さにうっとりできるだろう。


「麗ちゃん?」

「……ダメ、決められない」


この究極の選択に優劣はつけられない。


「これどっち側が乗ってて楽しいですか?」


彰君はそばにいたスタッフに質問した。


「そうですね、やっぱり前の方が迫力はあると思います、あと、前の人が後ろの人に寄り掛かる形になるので、体重が重い方が後ろになれた方がいいと思います」

「俺が後ろに乗るから、麗ちゃんは前に乗ってくれ」

「……わかった」


彰君に決めて貰えれば、何の異論もない。


彰君が浮き輪の後ろの部分に乗る。しかし、彰君は体が大きいから、二人乗りの浮き輪でも、まるで一人分のようにすっぽりと収まってしまった。


「すみません、お客様、足を開いてください、浮き輪の縁に足を置く感じで」


スタッフの言われた通りに彰君が大股開きをする。


「あ、はい」

「では、女性の方、こちらに」


なるほど、確かに彰君と二人で乗るためにはこうするしかないだろう。

そしてスタッフさんはとても良い働きをしてくれた。彰君の股の間とか最高の特等席に私を案内してくれたのだから。


私はゆっくり彰君の足の間に座った。


「それじゃあ行きますよー? 3、2、1、ゴー」


浮き輪が押される。ゆっくりと浮き輪が傾き、水流に乗ると、一気に加速した。


大きく曲がりくねるカーブを、風を切りながら走る。めまぐるしく変わる景色、遠心力で引っ張られる身体。

しかし、私の身体は安定している。なぜならば彰君が私の腰に手を回してガッチリと掴んでいてくれているからだ。


最後に一直線を走り抜け、私達はプールに滑り込んだ。


これはかなり楽しい。ウォータースライダーの楽しさプラス彰君が密着してくれる嬉しさで、私にとっての最高のアトラクションだ。


「麗ちゃん、もう一回やらない?」


当然、彰君からの提案には大きく首を振って応える。


「今度は私が後ろになるから」

「いいの? 前の方が楽しいらしいけど」

「いや、後ろにいくから」


せっかくだし、今度は後ろ側を体験する。これでどっちがいいかも決められるだろう。


それから、私達はウォータースライダーにハマった。交互にお互いの位置を入れ替えて、合計で6回は滑ったと思う。

ちなみに前と後ろ、どちらがいいか、という疑問については、『両方良い』という結論になった。

後ろは、前に座る時ほどのスリルは感じられないが、彰君の腰に手を回すことで、さりげなくビキニパンツをずらしたりできる。ちょっとやり過ぎて脱がしかけてしまったけども、まあ彰君もウォータースライダーの水流でそうなったって勘違いしていたからセーフだ、多分。




休憩時間を呼びかけられたのを機に、私達はウォータースライダーを楽しむのを止めて、空いているベンチに座った。


「麗ちゃん、次はどこに行く?」

「彰君は何か希望ある?」


私の希望はもちろん波の出るプールだ。だけど、彰君の希望も聞いておかなくてはいけない。

彰君は少し考えてから、立ちあがった。


「麗ちゃん、ちょっとトイレ行ってくる」

「うん、わかった」


私は彰君を見送る。


帰ってくるまで暇になるなあ、と思ったその時、


「……ねえ、今の子、良くなかった?」

「……でもなんか顔があれじゃない?」

「……いや、顔から下を見ようよ」


引っ掛かる会話が聞こえた。


会話をしていたのはプールに入る気があるとは思えないしっかり化粧をしている二人の女。明らかにナンパを目的としている。

その女たちがトイレの方向に向かって歩き出していた。


私はそっとその後に続いた。



案の定だ。

女たちは、男子トイレの前で、ちょうど出てきた彰君に話しかけていた。


「あ、ねえ君……」

「はい?」

「今、暇だったりしない?」

「え?」

「私達、二人でここに来たんだけど、一緒に遊んでくれる男の子を探してるの」


この二人は彰君がナンパ待ちの尻軽男にでも見えたか?

それともエッチな身体をしているから心までエッチまでだと思ったか。

何にせよ、許せることではない。


「いや、ちょっと連れがいまして……」

「友達? ならその友達とも一緒に遊ぶ?」

「うん、私ら全然オッケーだよ」


そういう問題じゃないし、仮にもし一緒に遊ぶことになったのなら、まずは顔面をプールにつけて、そのバッチリメイクをボロボロにしてやる。


「いえ、友達じゃないです」

「……あ、もしかして彼女?」

「まあ、そういうことなので……」


彰君がこちらに気づいたらしく、ギョッとした顔をした。

待っていてね、彰君。この二人は彰君が嫌がっていることがわからないようだから、私がわからせてあげるから。


「……?」

「どうしたの?」

「い、いや、何でもないです、とにかく、俺はこれで……」


私がこの二人に『わからせよう』とした時、彰君が二人の間を割って通り抜け、私の前に立った。


「れ、麗ちゃん、波の出るプールでも行かない?」

「……あの二人を……」


波の出るプールにはもちろん行きたい。だが、その前にやることがある。落とし前はきちんとつけさせてもらおう。


「あの二人はいいから、さあ、行こう、すぐ行こう」


彰君が私の腕を引っ張る。力では彰君に敵わないからそのまま引っ張られた。彰君に乱暴に扱われるのは嫌いじゃない。あの二人を野放しにしておくのは腹立たしいが、彰君に免じてここは見逃そう。




波の出るプールには人がたくさんいた。その中でも、浮き輪でプカプカ浮いている人が多い。


「しまった、浮き輪を持ってくればよかった、ねえ麗ちゃん?」

「……借りてくる?」

「多分、もう残ってないと思うし、このままでいこう」


彰君の言葉に頷いた。


このプールは無料で浮き輪を貸し出してくれる。しかし、その分みんな利用する。この盛況具合からいって、浮き輪のあまりを期待するのは良くないかもしれない。


私達は浮き輪なしで波の出るプールに入った。


波の出るプールは、本物の海の砂浜のように、最初はかなり浅く、波の発生源に近づくほど深くなるようになっている。浅いところではまだ未就学児たちが全身に波をあびながらキャッキャッと騒いでいた。


無邪気なものだ。私にもあんな頃があったのだろうか。今はこんなに擦れて疲れて果ててしまったが、あんな風に何も考えずに波に当たるだけで楽しいと思えていた時期が……もうあの頃には戻れない。

いや、戻らなくてもいい。戻るとするなら中学生か高校生くらいか、あの頃が一番楽しかった。そういえばあの頃から彰君とは会わなくなった。惜しいことをしたと思う。あの頃に戻ってきちんと彰君に会って、もっといろんな意味で交流を深めていれば、きっと私の人生はもっとましなものになった気がする。


ふと、気付いた。その彰君がいない。


急いで見渡すと、すでに人をかき分けて波の出るプールの中腹ぐらいにいた。

哀愁に浸っている間に完全に置いて行かれてしまったようだ。私は急いで彰君の後を追った。

しかし、プールの水深が膝を超えたあたりから、前に進むのがつらくなってきた。人の多さと波の抵抗のせいだ。

せっかく二人きりで来たのに別々で楽しんでは意味がない、負けてなるものか、と私は気合を入れて進む。しかし、彰君もまた進んでいるので中々追いつけない。



水面が私の胸くらいまでの水深になった時、ようやく彰君が止まった。ありがたい、これでようやく追いつける……と思った矢先、どうにも様子がおかしい事に気が付いた。


彰君が、見知らぬ女の子を抱きとめていた。


どうやらその女の子は、深いところまで来たが、波に負けて流され、彰君に抱き止められてしまったようだ。

とても気分が悪い光景だが事故のようだし仕方ない……そう思ったが、女の子の顔がニヤついている事に気が付いて、すぐにピンときた。


女の子は彰君から離れたが、また波が来てすぐに彰君の胸元に流れつく。

やはりその顔はニヤニヤしていた。


間違いない。あの子は波に流されるのを利用して、わざと彰君に抱き止められているのだ。


中学生くらいだろうからそのスケベ根性もわからなくもないけど、人の連れに手を出すとはいい度胸をしている。教育が必要のようだ。


彰君も彰君だ。明らかに下心満載のあの女の子に対して何で優しく抱きとめてあげているのか。子供といえど、明らかなセクハラだし、引っ叩くくらいは許される行為だと思う。


はい、そうこうしているうちに三度目。

もう許すことはできない。私は子供でも加減しない。

私はもう彰君のすぐそばまで来ている。あと少しで手が届く。


ふと、女の子が彰君越しにこちらを見た。目が合った瞬間、ニヤついていたその顔が瞬時にひきつり、急いでプールに潜った。


逃がしはしない。


「……彰君……」

「れ、麗ちゃん……」


私に話しかけられて彰君は少し驚いたように振り返った。


「あの子は?」

「あ、あの子って……?」

「さっきまでここにいたでしょ」


潜ったのはわかったが、彰君の大きな体に隠れて、どっちに泳いで行ったのかまでは見えなかった。


「あの子なら、どこかに泳いで行ったけど……」

「……」


どこに行った。

私は辺りを見渡す。この人混みと波だ。泳ぐにしても、そう遠くには行けないだろう。なんとしてでも見つけ出してやる。


「れ、麗ちゃん、今はプールを楽しもう」


彰君には申し訳ないが、いまはそれどころじゃない。あの女の子に目に物見せてやらねば……


「麗ちゃっ、おっと……」

「あ……」


波のせいで、彰君がよろけた。

彰君は私に振り向いていた状態だったので、当然ながら、よろけた先には私がいる。

結果として、彰君が私に抱きつく格好になった。


「ゴメン、麗ちゃん」

「い、いいんだよ、彰君……」


一瞬ヤバいと思って、すぐに離れた。

さすがに裸に近いこの状態で抱き合うのはマズイ。私の理性の問題で。

彰君も照れているようだ。可愛い反応だと思う。


「……と、とりあえずもう出ない?」


抱きつかれたおかげで少し冷静になった私は提案した。

先ほどの女の子の事はもういい。彰君に抱きつかれた瞬間に怒りと憎しみが吹き飛んだ。


「あ、うん……じゃあ次、どこのプール行く?」

「……というか、『ざぶーんランド』から出ない?」

「え、もう出るの? 早くない?」


このプールは危険すぎる。いや、少し考えればすぐわかることだった。こんな良い身体をしている男子がビキニパンツでうろうろしていたら、普通に貞操の危機に陥るだろう。


「……ここは予想外に危険な場所だったから」

「え、溺れたりした?」

「ううん、とにかく、彰君のためにも、ね?」


そう、これは彰君のため。ここにいる女どもは隙あらば彰君に粉をかけてくる。彰君の貞操を守れるのは私だけなのだ。


「それじゃあ、この後どうする? 家に帰ろうか?」


確かに帰るのも選択肢の一つだが、まだ昼前だ。まだ彰君とのデートを楽しみたい。


「とりあえずこの近所に美味しいレストランがあるらしいから、お昼ご飯食べて……そのあと、近くにアウトレットがあるから、そこで彰君にお洋服を買ってあげる」


お泊りで使う予定だった資金はまるまる余っている。これで彰君を悦ばせて、そして次のお泊りデートで今度こそ彰君と……


私は、ふふ、と笑った。彰君の貞操は私が守る。なぜなら彰君の貞操は私の物だからだ。


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