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勉強会(秋名)

ヤバい、超ヤバい。玉城先輩がヤバすぎる。

恋人でもない女子を部屋にあげる約束なんかするか、普通。いや、約束を取り付けたのは私だけど。断られるの前提で勢いで言ったら、まさかそのままOKされるとは思わなかった。


これはあれか、ビッチというやつか。


あまりにも女に対して無防備な態度、女と二人っきりで部屋にいれる度胸、もうこれは誘われているとしか思えない。

もしかしたら私が女として見られていないだけかもだけど……いや、それならそれでもいい。色々と悪戯できるから。とにかく、念のためゴムの用意だけしておこう。男はゴムもってない女とはやらないとかよく聞くし。


勉強会当日、先輩の部屋に入って、まず最初にやることは部屋の中を見渡すこと。家具の配置を確認し、先輩がトイレなどで部屋から出ていったらその間に部屋を物色するためだ。

とりあえず、見つけたいものは先輩の生活事情が垣間見える私物だ。日記帳とか、あと下着の類とか、その辺の奴。

使命を果たさんとあたりを見渡すが、ここで強烈な邪魔が入った。


先輩の匂いである。


当たり前の事だが、この部屋は先輩の私室なわけで、先輩が普段から生活している個室の空間である。そして、その事実は、先輩の芳しい体臭がこの部屋に充満していることを意味するのだ。


朝にいつも嗅いでいる匂いだが、それでも部屋で嗅ぐとまた違う。なんというか、先輩の匂いに包まれている感じ。ちょっとこれは持って帰りたい。しまった、私としたことがビニール袋を持ってくるのを忘れていた。……ゴムで代用できる? いや、さすがにそれは……


「あんまり嗅ぐな」

「あ、すみません」


私としたことが、そばに先輩がいるのも忘れて致してしまうところだった。物色先を見定める事だけに集中せねば……


「キョロキョロもするな」

「はい!」


私は首の動きをピタリと止める。

いかんいかん、下手に先輩に警戒されて、部屋から追い出されようものなら計画そのものがとん挫する。それだけはなんとしても避けねば。

幸い、先輩の部屋はあまりものがない。物色する先の最優先候補は今私が見つめている箪笥だろう。

あとは、先輩が何らかの理由で部屋から出ていくのを待つだけだ。


「ちょっと飲み物取ってくる、麦茶でいいか?」

「……はい!」


まさかこんなあっさりチャンスが巡ってこようとは。今日の私はついてる!


「わかった、それじゃあ……」

「熱々のやつでお願いします」

「え?」

「今日は冷えますから、温かいお茶が飲みたいなあって……」

「温めるとなると時間かかるぞ?」

「はい!」


先輩がこの部屋からいない時間が増えれば増えるほどいい。

先輩は私の発言にいぶかしげに首を傾げながらも部屋から出て行った。

やはり先輩は無防備だ。女子を一人残して部屋を空けるなんて……だが、ここは先輩のその無防備さに付け込んで、好き放題やらせてもらおう。

私は躊躇なく箪笥のもとに向かった。


上から一段目を開ける。上着やらズボンやらが入っている。先輩の私服だ。先輩の私服姿は是非見てみたい。今度休日も遊びに誘おう。先輩ならきっと簡単にOKしてくれるだろう。

だが、一段目は外れだ。一段目を閉じて、二段目を開ける。

靴下や帽子、手袋などの小物だ。これも外れ……いや、靴下があった。試しに一足抜き取って匂いを嗅いでみる。

ダメだ、洗剤やらなんやらの匂いはするが、先輩の匂いはしない。

これも外れとなると次だ。

私は二段目を閉じて三段目を開ける。ここにきて、下から順番に空ければいちいち閉める動作をしなくていいことに気が付いた。次からは下の段から開けよう。

三段目を開けた瞬間、私は目を見開いた。

先輩のパンツがあったのだ。そう、これだ! 私が求めていたのはこれ!

早速一つ拝借して……


ガチャリ、と勢いよくドアが開く音がした。


私の身体はビクリと跳ねた……


…………


……その後、しどろもどろになりながらも必死に取り繕い、なんとか先輩のご機嫌を損ねるのは回避できた。女が男の箪笥を開けている瞬間を目撃しておきながら、怒らないのはさすがにダメですよ、先輩……でもそんなところが好きです。


勉強会を始める。あくまで真面目に勉強をする……フリをする。

先ほどの出来事で先輩はきっと私の事を警戒しているはず。まずは真面目に勉強するフリをして警戒を解かねば。

最初こそ少しぎこちなかったが、私の「真面目に勉強作戦」が功を奏したのか、先輩は段々といつも通りの対応をし始め、警戒を解いてくれたみたいだ。


勉強会を始めて少し経った。

私の質問にわからないところがあったのか、先輩が自分の教科書とノートを見比べ始めた。

先輩の真剣な顔にムラムラしてくる。特に「私の為」にこの顔をしていると考えるとたまらない。

ちょっと悪戯したくなってきた。

少しぐらいならいいよね。先輩優しいし。箪笥開けても怒らなかった先輩だ、軽いスキンシップとして流してくれるだろう。


私は立ち上がると向かい側にいる先輩の背後まで回り込み、後ろから覆いかぶさるようにして先輩の手元を覗きこんだ。

うん、実に自然な動作で先輩に密着できた。ついでに先輩の匂いもかいでおこう。ものの本によると人の体臭は首筋と腋が特に濃いらしい。身長差のせいで普段はかげない首筋の匂いを今堪能しよう。

先輩は私が密着していることに文句を言うが、その口調は優しい。これはまだまだいって大丈夫だな……と思った矢先、先輩は


「怒るぞ」


とぼそりと呟いた。

私は反射的に距離を取った。口調から本気で言ったわけではないことは理解できる。しかし、万が一本当に先輩の気分を害してしまって、このセクハラ勉強会がお開きになってしまうのはあってはならない。


私の過剰反応に驚いたのか、先輩は自分が怒っていない事を伝えてきた。

いや、今のは普通に怒る場面だと思います。やったの私だけど。

常識的に考えて女が覆いかぶさってきたら抵抗してもいい、というかするべきだと思います。やったの私だけど。

先輩がその辺の男子と価値観が少し違うことはわかっている。だからこそそれに全力で甘えるのだ。


私は座ると、少しづつ先輩に近づく。どこまで近づけば怒られないのかを探るのだ。どうせなら怒られないギリギリの距離で勉強をしたいし。

先輩は何してんだコイツ? 的な目で見てるが、私の行動を咎めたりしない。

様子をうかがいながら慎重に距離を詰める。

まずは普通に隣に。

また少し近づき肘がぶつかる距離に

また少し近づき手が触れ合う距離に

先輩を見ると何か言いたげが何も言ってこない。

それならばまたさらに近づき、とうとう肩が密着する距離まで来た。


「これは……」


ここまで来て、先輩がようやく口を開いた。


「近いですか? 離れますか?」


先輩の言葉を遮るように言葉をかぶせた。

先輩は押しに弱い。このまま勢いで押し切る。


「もういい、再開するぞ」

「はい!」


勝った!

絶妙な距離感を勝ち取った! ここだったらごく自然な動作で先輩の手とか触ったり、シャツの隙間から胸元を見たり、首筋の匂いを嗅いだりできる!

先輩へのセクハラがはかどるぞ! あと一応、勉強も。


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